再発を繰り返すクロストリジウム・ディフィシルに対する糞便移植の効果
アメリカの研究班が、糞便移植を治療に使った研究の結果を医学誌『Annals of Internal Medicine』に報告しました。
この研究では、クロストリジウム・ディフィシル感染症の患者が対象となり、大腸内視鏡を使ってほかの人の便を自分の腸に入れる糞便移植の効果が検討されました。
クロストリジウム・ディフィシルとは?
クロストリジウム・ディフィシルは細菌の一種です。健康な人の腸の中にも住んでいます。もともと元気な人に症状を起こすことは少ないのですが、異常に増殖したときには偽膜性腸炎などの原因となり、下痢などの症状を現します。
クロストリジウム・ディフィシル感染症の原因のひとつが抗菌薬(抗生物質、抗生剤)です。もともと腸の中にはたくさんの細菌が住み着いています。ふだんは細菌どうしが自然にバランスを保っています。ところが、セフェム系抗菌薬などを使うとクロストリジウム・ディフィシルには効かない一方、ほかの細菌が急に減るため、バランスが崩れてクロストリジウム・ディフィシルだけが増えてしまうことがあります。
クロストリジウム・ディフィシル感染症は、自然に治る場合も多いのですが、重症の場合、再発を繰り返す場合などはメトロニダゾールやバンコマイシンといった特別な抗生物質を使って治療します。
糞便移植とは?
糞便移植は、ほかの人の便を使って腸内細菌を移植し、細菌のバランスを正常にしようとする治療法です。カプセルに入れて飲むなどの方法がすでに試されていますが、口から入れることに抵抗を感じる人もいます。この研究では、口からではなく大腸内視鏡を使って糞便移植を行っています。
移植で9割が治癒
この研究では、クロストリジウム・ディフィシル感染症の再発が3回以上繰り返していて、最近の再発でバンコマイシンによる治療を受けた人46人が対象となりました。
対象者は比較のためランダムに2グループに分けられ、糞便移植を受けました。
- 自分の便を大腸内視鏡で腸に入れる(戻す)グループ
- 他人の便を大腸内視鏡で腸に入れる(移植する)グループ
治療効果は、8週後までに抗生物質などを使うことなく下痢がなくなるかどうかで判定しました。
次の結果が得られました。
ITT解析において、臨床的治癒は他家糞便移植群の患者22人中20人(90.9%)で達成され、対して自家糞便移植群では24人中15人(62.5%)だった(P=0.042)。
自分の便を入れたグループでは62.5%が治癒しましたが、ほかの人の便を移植したグループでは90.9%の人が治癒しました。
糞便移植は感染症の新治療になるか?
再発を繰り返すクロストリジウム・ディフィシル感染症に対して、糞便移植の効果がありそうだという結果が示されました。
糞便移植はほかの感染症に対しても研究されつつあります。将来は抗生物質以外の治療法として選択肢に加わるかもしれません。
一方、抗生物質を正しく使うことも大切です。
ほとんどの抗生物質が、クロストリジウム・ディフィシル感染症の原因になりえます。抗生物質は感染症の治療に欠かせない大切な薬ですが、悪い面にも注意して、使うべきときに正しく使わなければ、思わぬ結果にも結び付いてしまいます。病院で抗生物質を出されたら、説明をよく聞いて、用法・用量を守って使ってください。
執筆者
Effect of Fecal Microbiota Transplantation on Recurrence in Multiply Recurrent Clostridium difficile Infection: A Randomized Trial.
Ann Intern Med. 2016 Aug 23. [Epub ahead of print]
[PMID: 27547925]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。