2016.10.02 | ニュース

教えてもらえなかった患者が10%!インスリンボールをよけて!

世界の1万3千人のアンケートから

from Mayo Clinic proceedings

教えてもらえなかった患者が10%!インスリンボールをよけて!の写真

インスリンの自己注射は糖尿病の代表的な治療です。注射を安全に打つためには注意する点があります。ところが、注射法を教えてもらえなかった人が多数にのぼること、間違った打ち方をしていた人で事故が多く検査値も悪かったことが報告されました。

スウェーデンのスコーネ大学病院などの研究班が、インスリン注射の実態について調べた結果を、学術誌『Mayo Clinic Proceedings』に報告しました。

研究班は2014年2月から2015年6月にかけて、世界の42か国の施設で、インスリン注射で治療中の糖尿病患者についてアンケートを取りました。

患者13,289人分の回答が集計されました。日本からも1,342人が回答しました。

 

インスリン注射は自分で繰り返し打つ必要があります。安全に、効果的に薬を体の中に届かせるには次のポイントがあります。

  • インスリンボールをよけて打つ
    • 同じ場所に何度も注射していると、打った場所に皮下脂肪が集まって、脂肪過形成(インスリンボール)と呼ばれる数cmほどの塊ができます。インスリンボールに針を刺して注射すると、薬が皮下脂肪に吸収されてしまい、うまく血液の中に入りません。インスリンボールは針を刺してもあまり痛くないのですが、よけて打つのが正しい打ち方です。
  • インスリンボールがないかこまめにチェックする
    • インスリンボールは少しずつできてきます。早く見つけてよけて打つことで、大きくなるのを防げます。
  • 注射する場所を少しずつ変える
    • インスリンボールを作らないために、注射の場所は毎回少しずつずらしてローテーションします。場所によって薬が吸収される速さが違うので、正しい範囲をローテーションする必要があります。
  • 皮膚をつまんで打つ
    • インスリンは皮下組織に注射することでほどよく吸収されるように調整されています。深く刺して筋肉に注射してしまうと、吸収が速くなりすぎてしまいます(つままなくていい場合もあります)。
  • 針は1回使ったら捨てる
    • 1回刺した針をまた使うと感染の原因になります。針が鈍くなっているので痛みも強くなります。
  • 保存方法と使用期間を守る
    • インスリンの長期保存には温度が2℃から8℃で光が当たらないようにするべきとされます。一方、注射器が結露するなどを避けるため、使い始めたキットは室温で保存することとされています。
  • 故障した器具を使わない
    • 故障した器具は事故のもとです。ちゃんと注射できているかこまめにチェックすることも大切です。

糖尿病をインスリンで治療しているときには、低血糖に注意が必要です。低血糖はインスリンが効きすぎて血糖値が一時的に下がりすぎた状態です。低血糖では急に意識がなくなるなどの症状を現すことがあり危険です。低血糖を防ぐため、インスリンは適量を適切なタイミングで使う必要があります。上に挙げた注射の注意点を守ることも低血糖予防につながります。

 

アンケート調査から次の結果が得られました。

糖化ヘモグロビン値は、脂肪過形成のある患者では平均して0.5%高く、注射部位の正しくないローテーションおよび針の再使用と関連した。糖化ヘモグロビン値は注射を広い範囲に分散させた患者、注射部位を毎回観察した患者でより低かった。

予期しない低血糖の頻度と血糖値の変動は、脂肪過形成のある患者、脂肪過形成に注射する患者、注射部位の正しくないローテーションをする患者、針を再使用する患者で有意に高かった。

次に当てはまる人は、HbA1c(糖尿病の検査値)が悪く、予期しない低血糖が起こる頻度も高い傾向がありました。

  • インスリンボールがある
  • 注射する場所を正しくローテーションしていない
  • 針を再使用する

一方、インスリンを多く使っている人にインスリンボールがある人が多く、インスリンボールに注射する人も多いという結果がありました。

インスリンの使用量(1日あたりの総使用量)が多いことは、脂肪過形成があること、脂肪過形成に注射すること、注射部位からの漏れ、濁るタイプのインスリンを正しく混ぜないことと関連した。

この結果は「注射が多いとインスリンボールができやすくなる」とも解釈できますが、「インスリンボールがある人では注射の効き目が悪いので量を増やされる」と考えても説明がつきます。報告されている結果だけではどちらか確かにはわかりません。

 

医師などの専門家から注射方法について教えてもらったかについて、次の結果がありました。

患者はまた、最近6か月で医療従事者から注射の指導を受けていれば注射部位を正しくローテートすることが多かった。患者が注射を続けた期間は平均で9年近かったにもかかわらず、そのような指導を最近6か月に受けたと答えた患者は40%未満であり、10%は正しく注射する方法の訓練を受けたことがないと答えた。

インスリンで治療中にもかかわらず、一度も注射方法の訓練を受けていないと答えた患者が回答の10%にのぼりました。

最近6か月に指導を受けた患者では、正しく注射の場所を変えている割合が高くなっていました。

糖尿病治療の中にある問題点を指摘した研究を紹介しました。

この記事で紹介したほかにも、糖尿病治療では毎日気を付けることがたくさんあります。知っていればできるはずのことが、医師の説明不足でおろそかになっている現実が一部にあるようです。

患者が自分の治療を効果的にするためには、できるだけ主治医と話し合うのはもちろん、専門家が発信している正しい情報を見分けて利用することも役に立つかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Worldwide Injection Technique Questionnaire Study: Population Parameters and Injection Practices.

Mayo Clin Proc. 2016 Sep.

[PMID: 27594185]

 

Worldwide Injection Technique Questionnaire Study: Injecting Complications and the Role of the Professional.

Mayo Clin Proc. 2016 Sep.

[PMID: 27594186]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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