◆糖尿病の薬カナグリフロジンによる糖尿病ケトアシドーシスの頻度は?
糖尿病性ケトアシドーシスは、糖尿病によって突然起こる危険な状態です。吐き気、 嘔吐、腹痛などの症状があり、死亡に至ることもあります。
糖尿病の治療に使われるカナグリフロジンには、血糖値を下げる効果がある一方で、副作用として糖尿病ケトアシドーシスを引き起こす可能性も指摘されていました。この研究では、その頻度が検討されています。
1型糖尿病がありインスリン治療をすでに受けている成人が対象とされました。
1型糖尿病は、生活習慣が原因で起こる2型糖尿病とは別の病気です。2型糖尿病よりも高い頻度で糖尿病ケトアシドーシスが発生します。血糖値を下げるホルモンであるインスリンを注射することが治療の中心になります。インスリン治療には、インスリンポンプと呼ばれる携帯型の装置から持続的にインスリンを注入する方法もあります。
この研究では、インスリン治療に加えて飲み薬のカナグリフロジンを同時に使うことによって、糖尿病ケトアシドーシスがどの程度発生するかが検討されました。
対象者351人はランダムに次の3グループに分けられました。
- インスリン治療に加えて1日300mgのカナグリフロジンを飲む
- インスリン治療に加えて1日100mgのカナグリフロジンを飲む
- インスリン治療に加えて偽薬を飲む
割り当てられた治療を18週間行い、グループごとに糖尿病ケトアシドーシスの頻度が記録されました。
◆4.3%が深刻な事態に
次の結果が得られました。
18週時点で、何らかのケトン関連有害事象の発生率はカナグリフロジン100mg群で5.1%(117人中6人)、カナグリフロジン300mg群で9.4%(117人中11人)だった。偽薬群の患者にケトン関連有害事象はなかった。糖尿病ケトアシドーシスの深刻な有害事象の発生率は、カナグリフロジン100mg群で4.3%(117人中5人)、カナグリフロジン300mg群で6.0%(117人中7人)だった。すべての深刻な有害事象は糖尿病ケトアシドーシスを誘発しうることが知られた状況のもとで発生していた(たとえば感染時、インスリンポンプ故障の際)。
糖尿病ケトアシドーシスにより深刻な事態に陥った人は、カナグリフロジン100mgを飲んだグループで4.3%、カナグリフロジン300mgを飲んだグループでは6.0%にのぼりました。偽薬を飲むグループでは糖尿病ケトアシドーシスは発生しませんでした。
深刻な事態はすべて、感染が起こったときなど、薬以外の原因も含めて糖尿病性ケトアシドーシスが起こりやすい場面で起こっていました。
糖尿病ケトアシドーシスは深刻な事態を引き起こしうることから、カナグリフロジンの副作用として特に注意するべき点です。
ただし、2016年4月時点の日本では、カナグリフロジンの保険適用があるのは2型糖尿病だけで、この研究で対象とされた1型糖尿病に対しては標準的には使われません。また、1日300mgのカナグリフロジンを飲むことは保険で認められていません。
このため現在2型糖尿病の治療に使われている場面には、この頻度はそのまま当てはまらないと考えられます。とはいえカナグリフロジンによる副作用の可能性を示唆する結果であり、注意が必要と言えるでしょう。
執筆者
Diabetic Ketoacidosis With Canagliflozin, a Sodium-Glucose Cotransporter 2 Inhibitor, in Patients With Type 1 Diabetes.
Diabetes Care. 2016 Mar 17. [Epub ahead of print]
[PMID: 26989182]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。