2016.03.17 | ニュース

頭に電気で刺激をしたら脳卒中の感覚障害が改善した

日本の研究チームが慢性期脳卒中患者を対象に検証
from Frontiers in Neuroscience
頭に電気で刺激をしたら脳卒中の感覚障害が改善したの写真
(C) alswart - Fotolia.com

脳卒中の多くは症状として感覚麻痺を伴い、日常生活を円滑に送る上で阻害要因となることがあります。今回紹介する論文は、筆者が行った研究で、脳卒中患者に電気刺激を行い、感覚障害が改善することを報告しました。

◆頭に身弱な電気刺激を行う経頭蓋直流電気刺激とは

脳卒中はご存知の通り脳が障害される病気です。脳出血脳梗塞では、主に片側の脳が障害されることで、その対側の手足が麻痺するといった症状がみられます。

この麻痺の中でも手や手指の感覚麻痺は、日常生活でも非常に困る障害のひとつです。例えば、何か物を握るといった動作を想定した場合、物を握ることはできても感覚障害があるとどれくらいの強さで握っているか、といったことがわからなくなり、過剰に力を入れてしまうことがあります。

この時、障害されていない方の脳で何が起きているかというと、「正常に活動している」わけではなく「過剰に活動している」と言った状態になっていることが知られています。

正常な脳では左右の脳半球がお互いに抑制しあって、脳の活動をコントロールしています。片方の脳が障害を受けると、正常であれば受けるはずの抑制を受けず、障害されていない方の脳が過剰に活動してしまうという仕組みになります。つまり、脳卒中では、悪い方の脳活動を高めると同時に、良い方の脳の過剰な活動を少し落ち着かせることも重要です。

ここで脳の活動を改善させることが、経頭蓋直流電気刺激の狙いです。経頭蓋直流電気刺激は、頭に小さい電極を設置し、感じるか感じないか程度の微弱な電流を頭に流すことで脳の活動に影響を与えることができるという近年注目されている電気刺激方法のひとつです。陽極(プラス極)を置いた下の脳の活動は高くなり陰極(マイナス極)を置いた下の脳の活動が低くなるという特性を持ちます。

今回の研究では、陽極を「障害を受けた側の脳」に、陰極を「障害を受けていない側の脳」に設置することで、障害されている側の脳の活動を高め、過剰に活動している側を少し落ち着かせることができるという手法を利用し、その効果を検証しました。

 

◆頭への電気刺激の効果を検証

感覚障害のある慢性期の脳卒中患者8人を対象に、以下の電気刺激を行う介入と偽刺激を行う介入の両方を別々の期間で行い、その効果を比較しました。

  • A. 障害されている側の側頭部に陽極、障害されていない側の側頭部に陰極を設置
  • B. Aの偽刺激
  • C. 障害されている側の頭頂部に陽極、障害されていない側の頭頂部に陰極を設置
  • D. Cの偽刺激

電気刺激を行う介入では15分間の刺激を実施し、偽刺激では15秒間の刺激を実施しました。

この側頭部付近(二次体性感覚野)と頭頂部付近(一次体性感覚野)は、どちらも感覚機能に関わる脳の部位ですが、それぞれ役割が少し異なります。今回の研究では、それぞれの効果に加えて、どちらに電気刺激を行った方がより効果があるかといった視点でも検証しました。

効果は、触覚の検査としました。縞模様の入っている棒の先端を指で触れ、縞模様が指に対して縦縞か横縞かを答える課題で判定しました。縞模様の縞の幅は幾つかの種類があり、その幅が狭くなるほど、難しくなるという課題でした。課題は、刺激前、刺激中、刺激10分後に行いました。

今回の課題は、縞模様が縦横どのようになっているかといった認知や識別といった課題を使うことで、一次体性感覚野だけでなく、二次体性感覚野への効果も検証しました。

 

◆電気刺激で感覚障害が改善

以下の結果が得られました。

S1とS2への刺激中と刺激10分後のGOT閾値はそれぞれの偽刺激と比べて有意に低いことが明らかとなった。

側頭部、頭頂部への刺激ともに電気刺激を行うことで、偽刺激と比べて識別できる(正答できる)縞の幅が小さくなりました。つまり、脳へ電気刺激を行うと感覚障害が改善したという結果でした。刺激部位(側頭部か頭頂部か)によってその効果は変わりませんでした。

また、介入間の疲れや不快感などの心理学的な側面も評価を行い、その影響は少ないという結果を得ました。

このような感覚障害の改善は、前述したような日常生活で使う手の細かな動作を行う場合に非常に有用である可能性が高いと考えます。

 

これまで、頭への電気刺激に関する多くの研究報告を紹介してきましたが、今回の私たちの研究は、両側の脳に電気刺激を行って「感覚障害」への効果を検証した世界初の研究になります。

脳卒中による障害といえば、うまく歩けない、手を動かせないといった運動障害が思い浮かぶかもしれませんが、感覚障害があることで日常生活で困ることも多くあります。また、感覚障害が改善されることで、運動障害も改善されやすくなるかもしれません。

今後より動作に直結した効果を検証していく前の段階として、頭への電気刺激がそもそも感覚機能に影響するのかという問いに対し、有用性を示したという意味で研究の意義があると思います。もちろん今回の研究からだけでは、確定的な結論に達することはできません。さらに検証が積み重ねられ、脳卒中の感覚障害に対するリハビリ手法が確立されていくことを期待しています。

執筆者

Shuhei Fujimoto

参考文献

Transcranial direct current stimulation over the primary and secondary somatosensory cortices transiently improves tactile spatial discrimination in stroke patients.

Front Neurosci. 2016.

http://journal.frontiersin.org/article/10.3389/fnins.2016.00128/abstract

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。


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