2016.03.03 | コラム

高次脳機能障害とは:症状の例とリハビリテーション

脳卒中などで現れる症状

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1. 高次脳機能障害とは
2. 高次脳機能障害に分類される症状
3. 高次脳機能障害に対するリハビリテーション

脳卒中などにより脳が損傷されると高次脳機能障害と呼ばれる症状が現れる事があります。高次脳機能障害は社会生活を送る妨げとなりやすい障害の一つです。高次脳機能障害に分類される症状の例とリハビリテーションについて解説します。

◆高次脳機能障害とは

高次脳機能とは、言語、思考、記憶、学習など、運動や感覚を除いた精神・認知機能のことを指します。 脳のうち大脳と呼ばれる部分が脳卒中や交通事故などで損傷を受けると、これらの機能に障害が起こることがあります。この状態を高次脳機能障害と呼びます。

原因となる疾患は、脳血管障害(脳卒中など)が主であり、次いで頭部外傷、脳腫瘍、脳炎、低酸素脳症(酸素が十分に脳へ行き届かなくなった状態)などがあります。症状は損傷を受けた脳の部位によって異なり、損傷の範囲が広範な場合は、いくつかの症状が合わさって現れることもあります。

 

高次脳機能障害は、運動麻痺などと異なり、外見上障害が目立たないという特徴を持ちます。つまり、他者からは気づかれにくいということです。それゆえ、自宅ではあまり問題なく生活が送れていても、職場などの社会場面において、症状が現れ、問題になるということもありえます。

 

◆高次脳機能障害に分類される症状

高次脳機能障害という言葉は広い意味を持ち、さまざまな症状を含みます。そして、脳卒中などにより高次脳機能障害が現れた人の様子はそれぞれで大きく違っています。高次脳機能障害に分類されるどの症状が現れ、症状の重さがどの程度で、生活にどんな影響があるかなどの違いがあります。

ここでは、高次脳機能障害にあたるいくつかの特徴的な症状について説明していきます。すべての人に共通する症状はありませんし、すべての症状が同じ人に現れるわけでもありません。ほかにここでは説明しきれない症状が出る人もいます。以下はあくまで一部の例と考えてください。

 

失語症

脳の中の言語機能に関わる部分が障害されると、失語症と呼ばれる症状が現れます。言語機能とは、話すだけでなく聞く、読む、書くという能力も含まれます。したがって、失語症の中にも、「なかなか言葉が出てこない」「相手の話している内容を理解できない」「文字が書けない」「文字が読めない」などといった症状が区別できます。脳の障害がある場所などによっては、言われたことを復唱できないなどの特徴を現す失語症もあります。

 

失語症は一般的に大脳の左側(左半球)が障害された場合に起こりやすいと言われています。これは、多くの人で左側に言語機能を支配している部分が存在しているからです。しかし、右側の脳の障害で失語症が現れることもあります。

 

注意障害

注意障害は、「集中力が持続しない」「気が散りやすい」「二つの課題を同時に取り組めない」などといった症状として現れます。この症状が現れると、仕事の効率が悪くなる、ミスが増えるなどといった社会生活の問題が起こりやすいです。

 

記憶障害

「新しいことが覚えられない」「昔の出来事を思い出せない」といった症状が現れます。日常生活場面では、「何度も同じ話を繰り返す」「午後になると午前中の出来事を忘れてしまっている」「外出して家までの道のりが分からなくなってしまう」などといった症状が問題になります。

 

失行症

失行とは、運動麻痺などがないにも関わらず、目的動作を正しく行うことができないという状態を指します。日常生活場面では、「道具を間違った方法で扱ってしまう」「自分で服を着られない」などといった症状が問題になります。

 

失認症

失認症とは、見えたり聞こえたりした感覚を「それは何か」と判定できないことです。失認症に分類される症状も多様です。一つの例として半側空間無視も失認症の一種です。

半側空間無視とは、目に見えている空間のうち左右どちらか半分を無視してしまう、認識が乏しくなってしまうという状態を指します。日常生活場面では、「片側にあるものに歩いていてぶつかりやすい」「片側に視線を向けない」などといった症状が問題になります。

 

多くの場合、脳の障害された場所と反対側に半側空間無視が現れます。大脳の頭頂葉と呼ばれる部分の障害などが関係します。

 

遂行機能障害

遂行機能とは、物事の計画を立て(プランニング)実行する(問題解決)能力のことを指します。遂行機能障害が現れると、日常生活場面では、「買い物の際、目的の物を買ってこれない」「行き当たりばったりの行動をしてしまう」といった症状が問題になります。

 

◆高次脳機能障害に対するリハビリテーション

高次脳機能障害とは、前述した通り一つの症状だけでなくいくつかの症状が合わさって複雑に現れることも多いです。リハビリテーションでは、まずは様々な検査を行い、どの症状が出ているのか把握するところから始まります。そして、日常生活にどのような影響が現れるのかを想定し、症状の段階に応じたリハビリテーションを行います。ここでは、脳卒中に対するリハビリテーションを例に挙げてみたいと思います。

 

脳卒中が発症した直後の時期は急性期と呼ばれます。急性期には、「話したいことが話せない」「相手の言っていることが理解できない」といった症状が突然現れたことにより、混乱や不安が強い時期です。そのため、心理的なサポートがとても重要になります。リハビリテーションでは、心理的なサポートを行いながら、患者と周りの人のコミュニケーション手段の獲得を目指しかかわりが始まります。また、障害に対する理解を患者本人や家族が深めるという大事なプロセスもリハビリテーションを通して行われていきます。

急性期のリハビリテーションでは、座ったり立ったりする姿勢をとること、歩くこと、食べて飲み込むことなどの訓練が行われ、身体の機能などの回復が図られます。

 

全身状態が安定してきた回復期と呼ばれる時期には、より専門的で集中的なリハビリテーションを行います。
たとえば高次脳機能障害のひとつである失語症があれば、積極的に言語に関わるリハビリテーション(言語聴覚療法)を行います。言語聴覚療法は言語聴覚士などが担当し、個別訓練のほかグループ訓練やコンピュータを使った方法もあります。

高次脳機能障害に分類される半側空間無視・注意障害・遂行機能障害といった症状に対しては理学療法も役割を持っています。プリズム眼鏡をかけて見える向きをずらす訓練、認知リハビリテーションと呼ばれる注意や遂行機能に対する訓練、目標を達成するために正しい行動を考えるゴールマネージメント練習といった方法が使われる場合があります。

回復期にはさらに日常生活への復帰に向けて、個人の背景を想定した上で、より生活上必要性の高い機能回復に向けてのリハビリテーションが行われていきます。また、職場復帰などを目指す方に対しては、職場の人に対して障害理解を深めるというアプローチもリハビリテーションの一環として行われます。

 

高次脳機能障害は、自分の意志で手足が動かなくなる運動麻痺と同じように、脳の損傷によって起こるため、完全な回復が難しい場合もあります。しかし、早期からのリハビリテーションは有効性も高く大切です。また、高次脳機能障害は、発症した人自身も症状の認識が乏しい場合が少なくありません。入院している時は問題ないと思っていても、社会に復帰してから症状の影響が強く現れることもあります。リハビリテーションは自分に現れた障害を理解するという意味においても、とても重要となります。

注:この記事は2016年3月3日に公開しましたが、2018年2月22日に編集部(大脇)が更新しました。

執筆者

中嶋 侑

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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