2016.01.19 | コラム

血を吸うための道具(手術用器械シリーズ⑦)

手術中の出血と、出血に対する対処についての解説

血を吸うための道具(手術用器械シリーズ⑦)の写真

手術をするにあたって、血が出るのは当たり前です。血が出たらその場所から取り除かないと、手術が進みません。手術用器械シリーズの今回は、血を取り除くための道具について解説します。

◆手術と出血

今回「吸引」という手技や道具について解説するにあたって、手術をするには血が出る事が当たり前である事を先にお伝えしておきます。もちろん、術者はできる限り出血が無いように繊細な手術操作を心がけますが、人の体には全身に血管がはびこっているため、完全に出血を避けて手術する事はできません。

手術中に出血があると、手術操作に影響を来たします。血液が邪魔で、手術する場所が見えなくて手術が進まないという事が起こったり、また、出血が多くなると、血液で出血点が隠れてしまって血がどこから出ているのかわからず、出血が止められなくなったりします。

そこで、出た血液は速やかに術野(手術する場所)から取り除く必要があります。この時に使われるのが、「吸引」という技術です。技術というとおおげさに聞こえますが、要するに、器械でストローのように吸うという方法です。吸引のシステムや、使用される器械について解説します。

 

◆吸引とは?

先に解説したように、陰圧を利用してストローのように吸うという方法を「吸引」と言います。吸引器という本体があり、そこにホース(吸引チューブと呼ばれる)をつなげ、その先端に吸引し管(吸引嘴管)を取り付け、手で持って吸引します。吸引器には目盛のついた瓶やバックがセットされており、吸引された血液や体液はその中に溜まります。その目盛で出血量をカウントし、輸液(点滴)や輸血の量、使用薬剤を決める目安にしたりします。

特殊な吸引方法として、吸引で溜まった血液を洗浄・ろ過し、輸血として患者の体内に戻すという「術中回収式自己血輸血」という方法が用いられることもあります。例えば、出血量の多い心臓血管外科の開心術や整形外科の人工関節手術などに主に用いられます。

 

◆吸引し管について

術野で使用される吸引チューブの先端には、吸うためのストロー状の器械が接続されますが、これを「吸引し管」と言います。この吸引し管は、用途によって様々な種類があります。例えばお腹を大きく開ける開腹手術と、小さい切開で行う手術では、出血量が大幅に違います。これにより、用いられる道具も形状が違ってきます。

お腹を大きく開けるような手術では、血液がたくさん吸えるように工夫されています。吸引し管の太さは太めで、吸引し管の先端だけでなく側面にも多数の穴があり、多量の出血も一気に吸引することができます。

逆に、小さい切開で行う手術に用いられる吸引し管は、先端が細くなっており、吸引し管の持ち手の部分に吸引の圧を調節できる穴が開いており、傷つけたくない組織(例えば血管や神経など)の近くの吸引をしたい時には弱い圧で、多めの量を吸引したい時には強い圧で、などの調節が可能です。目標部位の深さ、周りにある組織の性状、術野の広さなど、様々な条件を考慮して吸引し管が選択されます。

 

◆ガーゼ

器械ではありませんが、出血に対する対処としてガーゼの使用は必要不可欠です。小さい出血であれば、吸引するまでもなくガーゼで抑えてガーゼに吸わせることで十分術野が綺麗になります。今回は器械の説明をメインにしましたが、むしろ出血時の第一選択はガーゼでの吸引及び圧迫止血、それでも追いつかない場合は吸引の使用、という優先順位になる(状況により異なりますが)と言えます。全身どんな部位の手術でも、ガーゼは必要不可欠なアイテムです。

先に出血量のカウントをすると解説しましたが、ガーゼに吸われた出血も、出血量のカウントを行います。血液を吸ったガーゼの重さを図り、そこから乾いた状態のガーゼの重さを差し引いて血液量の計算をします。

ガーゼは、体内遺残(体内に手術に用いた器具を残したまま傷を閉じること)が起こる可能性が高い物品の一つです。この体内遺残を予防するために、ガーゼカウント(傷を閉じる前に数を数え、体内に残ってないことを確認する作業)を行います。また、何かしらの原因により体内にガーゼが残っている可能性がある場合、レントゲン撮影でそれを確認できるように、ガーゼの繊維の一部分にレントゲンに写る素材が使われています。

 

医療ドラマや映画などの手術シーンで、「ガーゼ!」「吸引!早く!」などと切羽詰まった声が聞こえてきたら、それは出血があって緊急の止血を要し、術者が若干焦っている状況であるかもしれません。このような点に注目してドラマなどを見てみるのも面白いかもしれません。

執筆者

名原 史織

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る