手術を少数の病院で行うイングランドの医療はどうなっているか

高度な治療は少数精鋭の病院が引き受けるべきとする、「集約化」という考え方があります。イングランドとアメリカの研究者が、食道がんなどに行われる食道切除について、イングランドを集約化が進んだ例としてアメリカとの間で治療の結果を比較し、全体として入院中の死亡率はイングランドが低い中で、アメリカの一部の病院に限ってはイングランドよりも死亡率が低いことを示しました。
◆がんによる食道切除の結果を比較
研究班は次のように対象者を選びました。
2005年から2010年までに
がん に対して食道切除を行った患者を[...]同定した。
イングランドとアメリカで、それぞれ全国にわたる入院患者のデータベースから、がんに対する食道切除を受けた人の情報を集計しました。
◆経験の多い施設で結果が逆転
次の結果が得られました。
イングランドの66か所の病院で7,433件の食道切除が、アメリカの775か所の病院で5,858件の切除が行われていた。施設ごとの1年間の切除の件数の中央値はイングランドで17.5件、アメリカで2件だった。入院中の死亡率はアメリカの病院のほうが高かった(5.50% vs 4.20%、P=0.001)。
しかし、両方の健康管理システムにおいて手術経験数の多い施設に限ったサブセット解析を行うと、アメリカの病院のほうが
有意 に死亡率が低かった(2.10% vs 3.50%、P=0.02)。
まとめると次のとおりです。
- イングランド
- 手術件数 7,433
- 手術をした病院の数 66
- 病院ごとの1年あたりの手術件数(順位でちょうど中間にあたる数)17.5
- 入院中の死亡率 4.2%
- 手術経験数の多い病院に限った入院中の死亡率 3.5%
- アメリカ
- 手術件数 5,858
- 手術をした病院の数 775
- 病院ごとの1年あたりの手術件数(順位でちょうど中間にあたる数)2
- 入院中の死亡率 5.5%
- 手術経験数の多い病院に限った入院中の死亡率 2.1%
イングランドは少数の病院が手術を行い、病院ごとの手術件数が多く、また全体としては入院中の死亡率がアメリカよりも低くなっていました。ところが、手術経験数の多い病院どうしでイングランドとアメリカを比較すると、全体の傾向から逆転し、アメリカのほうが死亡率が低くなっていました。
研究班は「この国際比較の結果は、高リスクのがんの手術を、豊富な手技経験を持つ優秀な施設に集約することが臨床の結果の改善を意味することを示す」と述べています。
これらの数字は何を意味するのでしょうか。少数の病院に手術を集約化したイングランドでは全体として死亡率を低く抑えられていて、アメリカでは死亡率の低い病院をもっと活用する余地がある、と解釈できるかもしれません。
ただし、アメリカとイングランドの人口構成などをふまえて、得られたデータが国全体を代表すると言えるかどうか、食道切除が行われる基準が二国間で同じかどうかといった点、また手術経験数の多い病院にはより軽症の患者が多いのか、それとも重症の患者が多いのかといった点に検討の余地があるかもしれません。
いずれにしても、二国間の何か大きな違いを思わせ、医療の体制について考えさせる点の多い研究です。
執筆者
Is It Time to Centralize High-risk Cancer Care in the United States? Comparison of Outcomes of Esophagectomy Between England and the United States.
Ann Surg. 2015 Jul
[PMID: 24979602]
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。