のうせいまひ
脳性麻痺
受精から生後4週間までに起きた何らかの脳の障害により、主に運動神経が麻痺(運動麻痺)する病気
13人の医師がチェック 122回の改訂 最終更新: 2022.02.20

Beta 脳性麻痺のQ&A

    脳性麻痺の原因は何ですか?

    脳性麻痺は、何らかの脳の障害が原因で、運動の障害(麻痺)が起きることを指します。主に赤ちゃんがおなかの中にいる時から生後1ヶ月まで(新生児期)の期間に発症するものを指します。

    脳の障害の原因としては、以下のようなものがあります。

    • 分娩前後に赤ちゃんの心臓が止まりかけた場合:心臓の動きが不十分だった期間に脳の酸素が不足して障害が残る(低酸素性虚血性脳症)
    • 赤ちゃんがとても小さい段階で出産に至った場合:早産児・未熟児・低出生体重児など
    • 髄膜炎などの感染
    • 強い黄疸
    • 脳の奇形や神経の中の物質の異常で、正常に神経が働かない代謝疾患

    特に多いものは、上の2つです。また、医療の分野によっては生後数年経ったような小児期の脳障害による運動障害も脳性麻痺と呼ぶことがあります。

    脳性麻痺にはどんな治療がありますか?

    筋肉の緊張を和らげるために、力を抜く薬を使ったり、てんかんでも用いられる薬を使う場合があります。症状が足だけの場合で、つま先に力が入り伸び切って歩けない時には、アキレス腱を延ばすための手術を行うこともあります。また筋肉の力を和らげる目的で、ボトックスという注射を筋肉に直接打つ事もあります。

    長期的にはリハビリが最も大切です。その時点で本人の出来る事を、寝返り、おすわり、歩行と少しずつステップアップして行き、出来る事がひとつでも増える様にする事も大切です。また、最終的に歩行が出来ない場合には、治療とは異なりますが電動車いすで移動したりする事も大事な選択肢になります。

    脳性麻痺が全く正常に完治すると言うことは、残念ながら現在の医療では難しいですが、ひとつひとつ出来る事を増やし、喜びも増やしてあげる事を目標に、長い目でみてゆきましょう。

    脳性麻痺は、どのように診断するのですか?

    脳性麻痺の診断は生後の成長を見ながら行うことになるため、生まれてすぐの段階で何らかの検査を行って診断を確定することは困難です。月ごとの健診などで成長の具合を確認し、発育不良や動きの発達が遅れている場合に診断が濃厚になってきます。

    脳性麻痺の診断をつけるという目的ではありませんが、そうなった原因を調べたり、他の病気でないことを確認する目的などで、血液検査、尿検査、髄液検査、頭部CT、頭部MRI検査などを行うことがあります。

    脳性麻痺のこどもは知能にも問題があるのですか?

    脳性麻痺と言う言葉自体はあくまで運動障害の事を指しますので、知能に問題がない場合も、そうでない場合もあります。ただし、脳のうち運動の部位に障害がある場合には、その他の部位にも同様の障害があること多いので、結果として知能にも影響が出てしまうことがあります。

    知能に問題がないもの、例えばアテトーゼ型脳性麻痺と呼ばれるタイプは、大脳のうち考える部分の障害がないことがよくありますので、知能に問題のない方も多く見られます。

    脳性麻痺にはどんな種類があるのですか?

    脳性麻痺のうち、多いタイプは痙直型脳性麻痺とアテトーゼ型脳性麻痺です。

    • 痙直型脳性麻痺
      • 痙直型では四肢の力が過剰に入ってしまい、手足を延ばした状態で突っ張り続ける姿勢をとります。
      • 傷害を受けている脳の部位は、大脳皮質の運動野と呼ばれる部分であることが多く、腱反射の亢進(膝を叩くと足が強く伸びることなど)が特徴の一つです。
      • 早く生まれた赤ちゃんに発症する脳性麻痺にはこのパターンの麻痺が多く、脚の方に腕よりも強い突っ張りが出ます。
    • アテトーゼ型脳性麻痺
      • こちらは大脳基底核と呼ばれる、脳のやや深い部分の傷害により発生します。出産前後の心停止の中でも、特に急激で短時間な心停止があった場合に起こりやすいと考えられています。
      • 麻痺としては不随意運動が主体で、自分の意志で手足を動かそうとしてもねじれる様な動きが出てしまって上手く動かせない状態になります。顔面や口に症状が出ると、顔の筋肉に過剰に力が入って表情がゆがんだり、言葉を上手く話せない状態になります。
      • 新生児期の黄疸が強かった場合にもアテトーゼ型になります。

    これらの他にも小脳や脳幹の傷害が原因の麻痺もあり、それぞれ特徴が異なります。また、これらのうちいくつかが混合して出現する場合も多く見られます。

    こどもが脳性麻痺となった場合に、何か利用できる制度はありますか?

    分娩に関連して起きた脳性麻痺の場合には、産科医療補償制度が利用できます。分娩に関連した脳性麻痺をもつ親にとって、育児で大変な時期に裁判で争って補償を受けるのは大変なため、細かい過失の有無を問わずに補償が下りる様に制定された制度です。

    脳性麻痺になった後の手当としては、障がい児福祉手当・特別障がい者手当・障がい基礎年金などがあり、医療では自立支援医療精度などがあります。自治体ごとで様々な取り組みを行っているために、どの組み合わせが最も良いかは、通院される病院の相談窓口や、役場の健康福祉課へ早い段階で相談される事をお勧めします。

    脳性麻痺の、その他の症状について教えて下さい。

    脳性麻痺は体の動き全体に関わる病気であるため、症状にも様々なものがあります。

    • 食事や飲み込みに関する症状
      • 飲み込みがうまく行えずに肺炎になってしまうこと(誤嚥性肺炎)や、強い歯ぎしりによる歯の摩耗などがあります。
      • 飲み込みが出来ず食事摂取が不十分になってしまう場合には、鼻から管を入れてそこから食事を摂ったり、胃ろうを作成したりすることが必要になります。
    • 骨、関節に関する症状
      • 体の緊張が強いため側湾症になる事も多く、進行した場合には、装具を付けたり手術で補正したりします。
      • また股関節の脱臼も起きる事があり、こちらも整形外科での治療が必要になります。
    • 呼吸に関する症状
      • 寝たきりの方では呼吸障害が強く、夜間を中心に呼吸がしにくい場合や、肺炎を繰り返す場合には気管切開という手術を行います。首の前面に穴を開けて、そこから痰を吸引したりすることができるようになります。
    • 神経、精神に関する症状
      • 脳性麻痺の直接の結果ではありませんが、脳の損傷部位が広ければ、精神遅滞やてんかんを発症する事もあります。

    こどもに障がい(脳性麻痺)がある事をなかなか受容できません。どうしたら良いのでしょうか?

    脳性麻痺と向き合うことを通じてご両親やお子さんの経験されること、感じられることは多種多様であり、こうあるべきという正解のようなものは当然ありません。

    お子さんの病気に対する絶望や、誰かに対する怒りを、ご両親が感じられることがしばしばあります。しかしほとんどの場合には、最終的にお子さんの病気に向き合い、その子が少しでも幸せに感じて生きて行けるよう、前向きに考え始めるようになります。そうして多くの方はお子さんの障がいと向き合いながら、幸せを見つけ出してそれぞれの家庭を築いておられます。

    時間はどうしてもかかることがありますし、多くの葛藤や、怒りなどの負の感情が強くなってしまうことも少なくありません。そのようなプロセスを経験しながら、家族が最終的に幸せを見つけてゆけると信じて、医療者も日々診療に当たっています。