Beta 手根管症候群のQ&A
手根管症候群の原因、メカニズムについて教えて下さい。
手根管とは手のひらの付け根にある、手根骨(手のひらの部分にある骨)と屈筋支帯(繊維状の膜)に包まれたトンネル状の構造をいいます。内部には指を曲げる筋肉の腱とともに、正中神経とよばれる神経が通っています。手根管症候群は主に屈筋支帯が分厚くなることで、正中神経が圧迫される病気です。原因のわからない特発性が多く、妊娠・出産期や更年期の女性に多く発症します。その他、橈骨遠位端骨折などの骨折後や、仕事やスポーツによる手の使い過ぎ、トンネル状の構造内にできた腫瘤によって生じるほか、透析患者に起こることがあります。
手根管症候群は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?
人口の約5%の患者に生じると言われており、比較的よくみられる疾患です。
手根管症候群は、どんな症状で発症するのですか?
正中神経はおもに手のひら、親指から薬指の半分まで(3本半)の感覚と指を曲げる筋肉を支配しています。神経が圧迫されることで、同部位のしびれや痛みが生じます。症状は明け方に強くなることが多く、また手を長く使っているとしびれや痛みでものを落としやすくなるなどの症状がみられます。手をふったり、指を曲げ伸ばしたりすると症状が改善することが多いようです。
手根管症候群の、その他の症状について教えて下さい。
神経の圧迫が長期間にわたると、神経が支配する筋肉に症状がでます。握力が低下し、ひどくなると親指の付け根の筋肉(母指球筋)がやせて、親指と人差し指の対立運動(物をつまむ運動)が困難になります。
手根管症候群は、どのように診断するのですか?
問診により、手根管症候群に特徴的な症状の有無を確認します。つづいて手のひらの付け根を叩いてしびれが放散するか、左右の手首を90°屈曲させて手の甲同士をくっつけしびれが誘発されるかを確認します。正中神経が支配する指の筋力低下も特徴的な症状です。筋力低下がすすむと、親指と人差し指でOKサインがつくれなくなります。診察で手根管症候群が疑われれば、神経伝導速度検査を行い、診断を確定させます。MRIや超音波検査が補助的に行われることもあります。
手根管症候群と診断が紛らわしい病気はありますか?
頚の神経が圧迫されることで、手のひらのしびれや痛みが出ることがあります。頚椎の診察やMRI検査で、頚椎の病変がないことを確認する必要がある場合があります。
手根管症候群の治療法について教えて下さい。
症状がしびれや痛みのみの場合、まずは保存的治療が行われます。消炎鎮痛剤やビタミンB12製剤(末梢神経の障害を改善させる作用がある)を使用します。症状の改善がない場合には手根管内へのステロイド注射を行います。それでも症状の改善がない場合に手術治療を検討します。母指球筋の萎縮や、母指の対立運動に障害がある場合には手術治療が必要です。
手根管症候群の手術治療にはどのようなものがありますか。
基本的には神経の物理的な圧迫を取り除く手術になります。屈筋支帯を切ることで手根管を開放します。手のひらを数cm切って行う小切開手術と、関節鏡を用いて行う鏡視下手術がありますが、どちらが優れているかははっきりとした結論はでていません。
手根管症候群の手術では入院が必要ですか?
外来での日帰り手術を行う施設が多数ですが、施設によって異なるため主治医とご相談ください。
手根管症候群は、再発を予防できる病気ですか?
一般的には手根管を開放すれば再発することは稀です。透析の合併症で手根管症候群となる場合は、透析をつづけることで再発することがあります。
手根管症候群は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?
症状が軽度であれば完治する可能性が高いです。痛みは比較的すぐにとれますが、しびれは改善に時間がかかる場合が多いです。筋力低下が高度で、母指の対立運動の強い障害で困っている場合には、神経の圧迫を取り除いても対立運動の回復は困難です。その場合には腱を移植したり移行させたりすることで対立機能を再建する必要があります。
手根管症候群の手術の合併症にはどのような物がありますか?
比較的安全な手術ではありますが、原因不明で手のひら付け根のひどい痛みが出ることがあります(pillar painと呼ばれています)。多くは時間とともに改善していくため、内服薬等で経過をみることになります。その他、神経損傷などの合併症が報告されています。
手根管症候群では、どのような場合に病院を受診すれば良いですか?
多少のしびれがあっても日常生活に不便がない場合は、経過観察をすることになりますが、筋肉の萎縮が生じてくると治療に時間がかかることがあります。しびれや痛みで不便を生じる場合や、症状が長引く場合には迷わず病院受診することをおすすめします。