しんぼうさいどう
心房細動
本来一定のリズムで拍動する心房が、ぶるぶると不規則に震えることで生じる不整脈。血流が滞り心臓内に血栓を作ることで脳梗塞などの原因となる
18人の医師がチェック 144回の改訂 最終更新: 2023.09.10

Beta 心房細動のQ&A

    心房細動は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    40歳以上の日本人63万人の健診心電図を対象とした疫学調査によると、60歳以上のうち約0.9%に心房細動波形が認められました。概算ですが、同調査に基づくと国内に100万人以上の心房細動患者が存在することになります。さらに今後の社会構造、疾病構造の変化、人口分布の変化から、心房細動患者数は増加の一途をたどることが予想されます。

    心房細動の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    心臓には4つの部屋があり、左右それぞれに心房と心室があります。右心房には洞房結節と呼ばれる生来のペースメーカーがあり、電気的な信号が左右の心室に伝わることにより心室が収縮し、血液が全身に送り出されます。 高血圧や心不全、心臓弁の硬化、加齢などにより心房に負荷がかかるようになると、洞房結節の他に無数のペースメーカーが発生し、心房が痙攣してしまうような状態を心房細動と呼びます。

    心房細動はどのような症状をきたすのですか?

    心房に生じた無数のペースメーカーが両心室に不規則な電気信号を送るため、頻脈を起こしたり、脈が乱れることがあります。症状として多いのは動悸、息苦しさ、胸の不快感などですが、無症状のまま健診などで診断されるケースもあります。 心房細動で最も注意しなければならないのは、脳梗塞の発症です。心房が痙攣していると中の血液が滞り、心房の中に血栓を形成することがあります。この血栓が血流に流れ血管に閉塞を起こすと、脳の血管であれば脳梗塞を、手足の血管であれば急性動脈閉塞症を起こします。脳梗塞の場合、半身が麻痺したり、急に言葉がしゃべれなくなるなどの神経症状が出現することがあります。

    心房細動は、どのように診断するのですか?

    医師の診察で脈拍の乱れが認められれば、それだけでも診断が可能です。動悸症状を自覚された方が病院を受診し、心電図で診断されることもあれば無症状のまま健診で発見されることもあります。

    心房細動の治療法について教えて下さい。

    ・ 動悸などの症状があれば、症状を少なくすること
    動悸などの症状が強い方には、抗不整脈薬の内服で心房に無数に生じたペースメーカーを抑制することで、生来のペースに戻す治療が有効です。抗不整脈薬は副作用があるものが多く、循環器内科で処方されるのが一般的です。内服で心房細動を抑制することができない場合は、心臓カテーテルによるアブレーション治療が奏功することもあります。

    ・ 脈拍が早くなりすぎないようにすること
    心房細動の治療において、抗不整脈薬により異常なペースメーカーを消す治療と、異常なペースメーカーは許容しつつ脈拍を正常に保つ治療の効果が同等であるということが分かっています。脈拍を正常に保つ薬は、先述の抗不整脈薬より副作用が少なく、安全に使用しやすいため、現在は脈拍を正常に保つ薬が使用されることが多くなりました。

    心房細動のその他の治療法について教えて下さい。

    ・ 脳梗塞を予防すること
    心房細動の治療において最も重要なのが、脳梗塞の予防です。心房細動が原因で発症した脳梗塞は心原性脳塞栓症と呼ばれ、大きな範囲の脳梗塞により半身不随など大きな後遺症を残すことがあります。また脳梗塞後に脳出血が生じ致命的になることもあります。心房細動の患者様で、75歳以上、高血圧、糖尿病、脳梗塞の既往、心不全の既往のうち1つでも該当する方は抗凝固薬による抗凝固療法を行うことで、脳梗塞のリスクが減少することが分かっています。抗凝固薬には従来から使用され治療実績のあるワルファリンと、最近開発された新規経口抗凝固薬があります。ワルファリンと新規経口抗凝固薬の、脳梗塞予防効果はほぼ同等なのですが、新規経口抗凝固薬は脳出血の合併が少なく、ワルファリンは消化管出血の合併が少ないことが分かっています。ワルファリンの効果はビタミンKを豊富に含む食事により影響されるため、納豆の摂取や緑色野菜の大量摂取を避ける必要があります。また1-2か月に1回の採血検査で効果を確認する必要があります。 新規経口抗凝固薬は食事の影響を受けず、採血の確認も必要ないのですが、費用も高価(ワルファリンの約20倍)です。

    心房細動のカテーテル治療はどのようなことを行うのですか?

    心臓カテーテルを用いて心房細動が生じないように心房筋に熱を与えて焼灼してしまう治療です。 心房細動を起こす無数のペースメーカーは、肺静脈付近に存在することが多いことが分かってきました。 カテーテルアブレーションにより肺静脈の周囲を焼灼して回路を遮断することにより心房細動を根治します。 発症から時間の経っていない心房細動であれば1回の治療で70-80%の方が成功しますが、その後再発しても2回目のカテーテルアブレーションを行うことで、80-90%の方が根治に成功します。足の付け根にある血管から心臓までカテーテルを進め、心房細動の原因となる部位を焼くことで治療します。しかし、カテーテル挿入により脳梗塞や心房壁に穿孔を起こすような合併症も知られており、内服治療では心房細動の治療が不十分と考えられる患者様に行われるのが一般的です。