ぱにっくしょうがい
パニック障害
突然のパニック発作を起こし、生活に支障が起こる状態。不安障害の中の一つ
9人の医師がチェック 192回の改訂 最終更新: 2023.06.02

Beta パニック障害のQ&A

    パニック障害の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    パニック障害を含む不安障害の原因は、まだ十分には解明されていません。多くの精神障害の発症には、生物学的(身体的)、心理的、および社会的要因が様々な形で関わっています。

    不安障害も、心理的要因が主な原因であると考えられてきましたが、近年の脳研究の進歩により、今日では、心理的要因だけでなく様々な脳内神経伝達物質系が関係する脳機能異常(身体的要因)があるとする説が有力になってきています。

    それぞれの要因については、次項以降で詳しく説明します。

    パニック障害は、どんな症状で発症するのですか?

    突然の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴った強い不安に襲われ、心臓発作ではないか、死んでしまうのではないかなどと考え、病院へかけつけます。しかし症状は病院に着いたころにはほとんどおさまっていて、検査などでもとくに異常はみられません。そのまま帰宅しますが、数日を置かずまた発作を繰り返します。

    こういう、原因やきっかけなしに起こる、いつどこで起こるかわからない発作を「予期しない発作」といい、これがパニック障害の最初の症状となります。

    恐怖症の人に(たとえばヘビ恐怖症の人がヘビに出会った時に)起こるパニック発作は、「状況依存性発作」であり予期しない発作ではありません。したがって、これはパニック障害とはまた別のものと判断されます。

    どのようなものをパニック発作(パニック障害ではありません)と呼ぶかについては、以下の診断基準が存在します。

    パニック発作診断基準

    • 強い恐怖または不快を感じ、その時、以下の症状のうち4つ以上が突然に発現し、10分以内にその頂点に達する。
      • 動悸、心悸亢進、または心拍数の増加
      • 発汗
      • 身震いまたは震え
      • 息切れ感または息苦しさ
      • 窒息感
      • 胸痛または胸部不快感
      • 嘔気または腹部の不快感
      • めまい感、ふらつく感じ、頭が軽くなる感じ、または気が遠くなる感じ
      • 現実感消失(現実でない感じ)、または離人症状(自分が自分でない感じ)
      • コントロールを失うのではないか、または気が狂うのではないかという恐怖
      • 死ぬのではないかという恐怖
      • 異常感覚(感覚まひまたはうずき感)
      • 冷感または熱感

    パニック障害は、どのように診断するのですか?

    血液検査や頭部MRI検査、脳波など、身体的な検査では異常がみられません。

    動悸などの症状が心臓や、その他身体的な原因によるものでないことを確認した上で、パニック発作、予期不安の症状が1ヶ月以上続いている場合、パニック障害と診断します。

    パニック障害の治療法について教えて下さい。

    パニック障害の治療は、急性期(約3ヶ月間)、維持療法期(約1-2年間)、治療終結期(約数週〜数ヶ月)の3つの時期で構成されており、それぞれ治療の目標が異なります。 それぞれについては、次項以降で詳しく説明します。

    パニック障害の原因に、脳がどのように関わっているのか教えてください。

    パニック障害では、扁桃体と呼ばれる脳の部位を中心とした、「恐怖神経回路」の活動が関わっているとする仮説が有力です。

    扁桃体は快・不快、怒り、恐怖などの情動の中枢として働きます。感覚刺激によって扁桃体で恐怖が引き起こされると、その興奮が周辺の神経に伝えられ、心拍数増加、呼吸苦、交感神経症状などのパニック発作の症状を引き起こすと考えられています。

    この神経回路は主としてセロトニン神経によって制御されているため、セロトニンの働きを強めるSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)がパニック障害に有効であると考えられています。

    パニック障害の、その他の症状について教えて下さい。

    パニック障害と診断するためには、パニック発作があるだけでは不十分です。パニック発作と、それにともなって生じる予期不安、広場恐怖が3大症状です。

    広場恐怖は見られないケースもあります。予期不安、広場恐怖については、次項以降で詳しく説明します。

    パニック障害と診断が紛らわしい病気はありますか?

    初期の発作時は、狭心症、甲状腺機能亢進症(バセドウ病)、低血糖発作、褐色細胞腫、側頭葉てんかん、メニエール病など、パニック発作と似た症状を引き起こす身体の病気と症状面では区別がつきにくいことも多いです。

    ただ、パニック障害であれば、症状が長時間続くことはまずないですし、血液検査などで異常が出ることもありません。

    パニック障害の、急性期の治療について教えて下さい。

    パニック発作が頻発している急性期治療の一番大きな目標は、パニック発作の再発を防止する事です。そのため急性期治療は、心理的療法よりも薬物療法が優先される場合が多いです。

    また、精神療法、カウンセリングで疾患について学ぶことを通じて、次の維持療法期における広場恐怖の治療の準備をしていきます。

    補助的治療としてリラグゼーション・トレーニング、呼吸訓練などの、自身で発作を緩和する手法を取り入れていきます。

    パニック障害の原因のうち、心理的な要因について教えてください。

    不安障害の発症には心理的要因も関わっています。

    パニック障害では何の理由もなく突然パニック発作に襲われるのが典型的とされています。しかし実は背景に、発症前1年間のストレスが強い、小児期に親との別離体験があるなどの心理的要因があるケースが多いとも言われています。

    パニック障害で見られる、予期不安とは何ですか?

    パニック障害では通常、「また発作が起こるのではないか」という心配が続き、これを「予期不安」といいます。発作を予期することによる不安です。

    「心臓発作ではないか」「自分を失ってしまうのではないか」などと、発作のことを心配し続ける、口には出さなくても発作を心配して「仕事をやめる」などの行動上の変化がみられることも多いです。この予期不安が1ヶ月以上続きます。

    パニック障害の、維持療法期の治療について教えて下さい。

    維持療法期では、パニック発作が抑えられた状態を維持して広場恐怖の治療をします。

    薬物療法を継続しながらのエクスポージャー法を中心とする認知行動療法が治療の柱になります。広場恐怖の克服することで通常の行動・生活パターンへの回復を目指します。

    パニック障害は慢性疾患で症状の改善にも波があり、エクスポージャー法などのやや負担の強い取り組みを行っていると、場面を限定した発作が再度出ることもあり、一旦改善しても治療の経過や生活面のストレスなどで再燃することもあります。そういう場合も焦らず薬物調整、エクスポージャー法の調整を行い発作の完全な消失を目指します。

    従って一時的な症状の改善や、悪化や治療期間が予想以上に長引くことに、一喜一憂しない事が大切です。

    通常この維持療法期が最も長い治療期間となります。

    パニック障害の原因のうち、社会的な要因について教えてください。

    時代や住んでいる国・地域の文化によって、ものごとの考え方や受け止め方も変わります。そして、これらがパニック障害にも関係してきます。

    かつて日本においては、恐怖症は対人恐怖が多く、これは人の目を気にし、恥を重視する日本文化独特のものとされていましたが、今ではその傾向も薄れ、対人恐怖も減っているといわれています。

    パニック障害で見られる、広場恐怖とは何ですか?

    パニック障害は広場恐怖を伴うものと伴わないものに分けられます。「広場恐怖」というのは、パニック発作やパニック様症状が起きた時、そこから逃れられない、あるいは助けが得られないような場所や状況を恐れ、避ける症状をいいます。そのような場所や状況は広場とは限りません。広場というより、行動の自由が束縛されて、発作が起きたときすぐに逃げられない場所や状況が対象になりやすいです。一人での外出、乗り物に乗る、人混み、行列に並ぶ、橋の上、高速道路、美容院へ行く、歯医者にかかる、劇場、会議などが当てはまります。

    パニック障害の、治療終結期の治療について教えて下さい。

    治療終結期には、徐々に薬物を減量しても症状が再燃しないことを確認しながら治療の終結を目指していきます。

    同時に治療終結後の注意として、再発を早期にとらえられる準備をし、早急に治療を再開できるように心がけておきます。

    パニック障害は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    わが国のパニック障害の生涯有病率(一生のうち一度でも発症する確率)は0.8%と言われています。

    パニック障害は女性に多く、女性は男性の2.5倍で、年齢分布は18歳から60歳までのすべての年齢層であまり変わらず、また60歳以上になると減少する傾向がみられます。

    参考:厚生労働省 平成18年度厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究」

    パニック障害が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    パニック障害では多くの患者さんが広場恐怖を伴っており、仕事や日常生活に支障を来す場合が多くみられます。サラリーマンであれば電車での通勤や出張、主婦であれば買い物などが困難になります。

    信頼できる人が同伴していたり、近くであれば外出も可能な場合もありますが、その結果、家族に頼ることが増えたり、生活の行動半径が縮小することが多く、広場恐怖を伴うパニック障害による生活の質の低下は大きいといわれており、重症では全く外出できなくなる人もいます。

    パニック障害の治療薬について教えて下さい。

    パニック障害の治療薬は大きく分けて、抗うつ薬と抗不安薬の2種類に分かれます。

    1. 抗うつ薬

    • 概要
      • 脳内のセロトニンやアドレナリンホルモンに働きかけてうつ症状を改善する薬です。パニック障害にも効果があることがわかっています。その日の症状の有無にかかわらず少量から毎日飲んで、発作の出現や不安を取り除く薬になります。
    • SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
      • 現在パニック障害治療に対して、最初に選択されることが多い薬です。副作用は比較的少なく、身体依存や中止後の離脱反応が生じにくいためです。ただし、効果の発現開始まで2-6週間と時間がかかります。
      • 日本では2015年9月現在、パロキセチン(商品名:パキシル)、フルボキサミン(商品名:ルボックス、デプロメール)、セルトラリン(商品名:ジェイゾロフト)の3つの薬剤が使用されています。
    • 三環系抗うつ剤(TCA)
      • SSRIで効果の無い時や副作用の消化器症状、眠気などが強い場合などでは、三環系抗うつ剤が用いられます。
      • 効果の発現はSSRIより遅く、効果発現まで約8-12週間かかる事もあります。
      • 代表的な薬剤にクロミプラミン(商品名:アナフラニール)、イミプラミン(商品名:トフラニール)、ノルトリプチリン(商品名:ノリトレン)等があります。
      • SSRIと比較して副作用(口渇・便秘・排尿障害・頻脈・発汗・倦怠感・眠気・ふらつきなど)が比較的出現しやすいです。

    2. 抗不安薬

    • 概要
      • 不安を抑える薬です。即効性がありますが、薬効が切れると症状がまた出現するので、その場の症状を取り除く薬です。症状の急速な緩和が必要な場合、またはパニック発作時の頓服として第一選択剤となります。
      • アルプラゾラム(商品名:ソラナックス)、ロラゼパム(商品名:ワイパックス)、クロナゼパム(商品名:ランドセン)、ジアゼパム(商品名:セルシン、ホリゾン)、ロフラゼプ酸エチル(商品名:メイラックス)などがあります。
      • 効果発現まで数十分と即効性があり、胃腸障害の副作用がほとんどありませんが、鎮静・ふらつき・物忘れなどが起こる場合があります。長期使用すると身体依存を引き起こし、中断後症状が再燃しやすいため、使用期間としては約1-3ヶ月以内に留める事が望ましいと言われています。

    パニック障害と不安障害の違いについて教えて下さい。

    パニック障害は不安障害の中の一つとして、精神疾患の中では分類されています。これは、米国精神医学会のDSM-IV-TRによる分類の仕方です。

    よく使われるもうひとつの分類基準であるWHOのICD-10では、パニック障害と恐怖症の関係がやや異なることと、一般身体疾患や物質によるものは不安障害からのぞかれている点が異なっていますが、他はほぼ共通しています。

    参考:精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders、DSM)

    「不安障害」というのは、精神疾患の中で、不安を主症状とする疾患群をまとめた名称です。

    その中には、特徴的な不安症状を呈するものや、原因がトラウマ体験によるもの、体の病気や物質によるものなど、様々なものが含まれています。中でもパニック障害は、不安が典型的な形をとって現れている点で、不安障害を代表する疾患といえます。

    パニック障害の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    パニック障害の薬は治療終結期に治療が終了すれば服用終了となります。

    なかには減薬するとどうしても症状が再燃してしまう人がいるので、その場合は長期間の服用が必要になる場合がありますが、その場合でも症状がなくなれば原則服用は終了となります。

    パニック障害が発症しやすくなる、またはパニック障害の人が他に注意すべき病気はありますか?

    不安障害では罹病期間中に二つ以上の診断基準を満たす障害が併存することが多いと言われています。

    パニック障害では、50-65%に、生涯のいつの時点かで、うつ病が併存すると言われています。

    参考:平成18年度厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究」

    パニック障害の治療で用いられる、認知療法とは何ですか?

    パニック発作の認知モデルに基づいた心理的治療です。薬物療法と同等の効果が期待できるといわれています。

    発作の引き金になる刺激(乗り物に乗るなど)により、不安があらわれると動悸・呼吸困難といった変化が生じます。この変化に対して「心臓発作を起こした」「死んでしまう」など、「生命の危機にある」というイメージが頭の中で浮かんできます。これを自動思考といいます。この自動思考によって危機感が生じ不安が大きくなり、身体症状が更に悪化するという悪循環が生じます。

    この悪循環に対して、思考記録表という記録用紙を使います。自動思考に対して、そう考えた理由とその内容と矛盾する事実を考えることで、現実的でバランスの良い考え方を導き、不安や恐怖感を軽減しパニック発作の進行を予防していきます。

    パニック障害は、遺伝する病気ですか?

    分子遺伝学的研究も近年の進歩が著しい領域で、不安障害についても多くの関連する遺伝子候補が報告され、病気への脆弱性(なりやすさ)の説明が試みられてきています。

    ただしこれが実際の病気や症状とどう結びつくかについては、まだまだ明確ではありません。

    パニック障害の治療で用いられる、エクスポージャー法(曝露療法)とは何ですか?

    行動療法の中心となる治療です。広場恐怖を引き起こす場所・場面に実際に直面して不安や恐怖感に慣れ、次回から同じ場面に対する不安や恐怖感を軽減させます。

    まず不安を感じる場面をリストアップします。次にそれらを不安度の強いものから弱いものへと並べ変え不安階層表を作成します。

    もっとも強い不安を感じる場面を100点とし、不安を感じない状態を0点としてすべての場面を評価し、練習します。一般的には中等度の不安場面から練習し、徐々に不安の高い場面へ挑戦していきます。

    エクスポージャー法の治療効果は、薬物療法とほぼ同等の効果であると言われています。

    パニック障害の治療で用いられる、系統的脱感作法とは何ですか?

    想像的エクスポージャー法とも言い、一種のイメージトレーニングです。広場恐怖が強く不安階層表の最低点の場面ですら直面困難な場合、その場所に行ったイメージを思い浮かべてもらう方法などから開始します。

    パニック障害の治療で用いられる、リラグゼーション・トレーニング(弛緩訓練法)とは何ですか?

    身体をリラックスさせ不安やパニック発作を軽減します。額→眼の周辺→顎→首→肩→背中→上腕→下腕→手→胸→下腹→腰→大腿→尻→すね→足先といった順番で筋肉を緊張させ、弛緩させるという事を繰り返す、漸進的筋弛緩法という方法を用います。緊張は5秒ほど、弛緩は10秒ほどです。繰り返し練習する事で、よりリラックスできるようになり、突発的な不安やパニック発作に備えます。

    パニック障害の治療で用いられる、呼吸訓練とは何ですか?

    不安や緊張がある人は呼吸が不規則で浅くなることが多いことから考え出された、調節呼吸という方法です。

    不規則で浅い呼吸をしていると、体内の酸素と二酸化炭素のバランスが崩れ、不安の身体症状がさらに現れやすくなるので、これを是正します。片手を胸に、片手を腹に当て、お腹の方が動くように腹式呼吸を行います。

    ゆっくりと4つ数えるまで大きく息を吸い、4つ数える間に吐きます。これを最低4分以上続けます。

    パニック障害では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    パニック障害は基本的に通院で治療する病気です。

    通院期間は症状の改善に個人差がありますが、急性期治療(3ヶ月程度)、維持療法期(1-2年)、治療終結期(数週〜数ヶ月)を合わせて、治療開始から終結まで1年半から3年程度かかることが一般的です。

    パニック障害は、再発を予防できる病気ですか?

    完全に再発を予防する方法はありませんが、睡眠不足、ストレスの強い状況、アルコール、カフェインなどの症状誘発因子をできるだけ避けることで再発しにくくすることはできます。

    パニック障害に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

    パニック発作を誘発する因子として、以下のようなものがあります。

    • アルコール
    • 睡眠不足
    • 疲労
    • 低血糖
    • カフェイン(コーヒーや緑茶、紅茶など)
    • 咳止め
    • 経口避妊薬
    • 覚醒剤

    これらすべてを完全に断つことは難しいですが、できるだけ控えるようにすることが発作を防ぐために有効です。

    パニック障害は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    完治することの多い病気ですが、他の精神疾患が併存していたり、ストレスの強い状況や誘発因子に囲まれて生活しているとなかなか治りにくいです。

    完治して治療終了となった場合、特に後遺症はありません。