スマホで感染症診療を便利に!

日本赤十字社和歌山医療センター
感染症内科部副部長・救急科部兼任
久保健児 先生

IT診療の到来:「なくてもさほど困らないが、あると便利なもの」を使いこなそう!

唐突だが、感染症の診療にCRP*1は役に立つのか? この問いに対して、「全例応需」ER型救急診療と研修医教育に燃える当院の若手救急医、東秀律先生は、次のように表現している。CRPは、「その数値の大小のみでマネジメントが変わるということはまずあり得ない」が、「なくてもさほど困らないがあると便利な」道具である、と1)。たしかに、CRPを上手に使うことで抗菌薬処方を減らせることはコクランレビュー*2でも示されており2)、「あると便利な」なものを上手に使うと診療の質が上がるようだ。

さて、この「感染症治療薬ガイド」は、まさに、「なくてもさほど困らないがあると便利な」道具の1つになり得るのではないか、と思う。なにが便利か? ほんの数行で、抗菌薬レジメンの肝ともいえる、治療期間のポイントの記載がある点である。

日本政府:「適切な量を適切な期間、服用しましょう」と呼びかけ

たとえば、「治療薬ガイド」で「院内肺炎」で検索すると、「通常は7日間と考えるが、培養結果から腸内細菌群(大腸菌、クレブシエラ桿菌など)や緑膿菌、黄色ブドウ球菌による肺炎であると分かれば21日間とする。」とある。「腎盂腎炎」で検索すると、キノロンは7日間だが、ST合剤やセフトリアキソンは14日間という簡潔な記載がある。きわめて簡潔である。簡潔であるが、大事であり、そして意外とこの大事なポイントが知られていなかったりする。

現在、日本政府は、薬剤耐性の拡大を防ぐために、「抗菌薬は、必要な場合に、適切な量を適切な期間、服用しましょう」と呼びかけている3)。この「治療薬ガイド」が特に得意とするのは、後半の「適切な量を適切な期間」という部分だと思う。「腎機能に応じて適切な量を調節し、レジメンごとに適切とされる治療期間投与する」というコンセプトでこのガイドを使えば、後半部分の感染症診療はずいぶんと便利になるはずだ。

近年、抗菌薬の治療期間はどんどんupdateされ短縮される傾向にある。たとえば、ドレナージのできた腹膜炎に対して、4日レジメンと7日レジメンとを比較したRCTで、成績に差がなかったことが発表された4)。「治療薬ガイド」で腹膜炎の治療期間は「1週間程度」と記載されている(2017/6/23現在)。1週間を超えて投与されていることも多い日本の現場に配慮されているのだと思うが、研究が進めば、updateされることだろう。

迅速性、簡潔性、そして世界とつながること

抗菌薬診療を適切かつ標準化しようという取り組みは、IT時代に加速の一途をたどっている。一昔前は「欧米のエビデンスでは」「MRから聞いた最新の情報では」と入手しやすい情報に偏りがあったが、いまやネットを駆使すれば、年齢や経験、職種など関係なしに容易に世界とつながれる。南アフリカ共和国の抗菌薬スチュワードシッププログラムがいかに進んでいるか5)、はたまた香港では政府をあげて抗菌薬ガイドラインアプリ「IMPACT」が開発されていたり、イギリスではアプリを使った抗菌薬診療の評価研究が進んでいたりすること6)が、5分でわかる時代となっている。こういう取り組みに触発されて、私自身も適切な感染症診療支援に取り組んでいこうと決意を新たにしている。

 

1) CRPology. 治療. 2015年11月 Vol.97 No.11南山堂.
2) かぜとかぜにみえる重症疾患の見分け方. かぜ診療マニュアル. 2017. 日本医事新報社.
3) 政府広報オンライン. 2016年11月24日. http://www.gov-online.go.jp/useful/article/201611/2.html
4) N Engl J Med 2015; 372: 1996
5)  Lancet Infect Dis 2016;16:1017
6) J Antimicrob Chemother 2017;72:1825 

*1 CRP
CRP:C-Reactive Protein、C-リアクティブプロテイン
血液検査で測定する項目の一つ。全身に炎症が起こると血液中で増加するタンパク質。
*2 コクランレビュー
コクラン共同計画と呼ばれる国際的な団体が出した医学論文の分析。質の高い複数の論文を分析することでより正しい情報の吟味と蓄積を目指している。

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日本赤十字社和歌山医療センター

感染症内科部副部長・救急科部兼任

久保健児先生

卒業年:2003年卒
卒業大学:京都大学
2003年 京都大学医学部附属病院 レジデント
2004年 日本赤十字社和歌山医療センター レジデント
2006年 日本赤十字社和歌山医療センター 救急科部・集中治療部 医員
2011年 静岡がんセンター 感染症内科 研修
2011年 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科部・救急科部 医員
2015年 日本赤十字社和歌山医療センター 感染症内科部 副部長・救急科部 医員