2016.12.30 | ニュース

子宮頸がん9価ワクチンは4価ワクチンより効くのか?

高度病変の発生率で比較

from The New England journal of medicine

子宮頸がん9価ワクチンは4価ワクチンより効くのか?の写真

子宮頸がんワクチンは世界中で使われています。最近登場した9価ワクチンは、以前より多くの種類のウイルスを対象にしています。9価ワクチンが病気を防ぐ効果を調べた結果が報告されました。

子宮頸がんの原因のひとつがヒトパピローマウイルス(HPV)です。HPVは性行為などで感染します。HPVに感染した組織は、ある確率で上皮内異形成(CIN)などと呼ばれる異常な状態に変化します。上皮内異形成はがんの手前の状態です。上皮内異形成などの異常は、大部分は自然に正常状態に戻ります。しかし、一部の場合はさらに進行して子宮頸がん(浸潤癌)になります。

子宮頸がんワクチンはHPVの感染を防ぐことで子宮頸がん予防を狙うワクチンです。すでに感染したHPVを排除する効果はありません。

HPVは細かい型に分けられます。16型、18型などが子宮頸がんを発生させやすいとされるほか、100種類以上の型が知られています。現在日本では、2種類の型のウイルスに対応した2価ワクチン(商品名サーバリックス)と、4種類の型のウイルスに対応した4価ワクチン(商品名ガーダシル)が使われています。

ほかにも日本では未承認ですが9価ワクチン(商品名ガーダシル9)が海外で使われています。9価ワクチンは、4価ワクチンが対応する型に加えて5種類の型にも対応することで、より高い予防効果を狙っています。

 

HPV9価ワクチンと4価ワクチンを比較して、9価ワクチンがHPVによる病気を防ぐ効果を調べた研究を紹介します。

この研究は『New England Journal of Medicine』に報告されました。

16歳から26歳の女性14,215人が一定用量のワクチンを接種する対象とされ、9価ワクチンを打つグループと4価ワクチンを打つグループにランダムに分けられました。

ワクチンは3回注射と決められました。最初の注射を1日目として、2か月目と6か月目にも注射することとされました。1日目、7か月目、以下54か月目まで定期的に、HPVと子宮頸部周辺の組織の検査が行われました。

ワクチンの効果を評価するため、以下の「高度病変」の発生率が比較されました。

  • 高度子宮頸部上皮内異形成(CIN2/3)
  • 子宮頸部上皮内腺癌(AIS)
  • 子宮頸部浸潤癌
  • 外陰部上皮内異形成(VIN2/3)
  • 高度膣上皮内異形成(VaIN2/3)
  • 外陰部癌
  • 腟癌

 

ワクチンが「新たな感染を予防する」という目的のとおりに使われた場合を評価するため、3回ともワクチンを打ち、1日目と7か月の検査でHPVの感染が見られなかった人(9価ワクチンのグループで6,882人、4価ワクチンのグループで6,871人)を集計しました。

次の結果が得られました。

HPV31型、33型、45型、52型、58型に関連する高度の子宮頸部・外陰部・腟の病変の発生率は、あらかじめ設定されたper-protocol有効性集団(感受性集団)において、9価HPVワクチン群で1000人年あたり0.1、4価HPVワクチングループ1000人年あたり1.6だった(9価HPVワクチンの有効性96.7%、95%信頼区間80.9-99.8)。

注射部位に関連する有害事象は4価ワクチングループよりも9価ワクチングループのほうが多かった。

9価ワクチンがカバーする5種類の型のウイルスによる高度病変の発生率は、4価ワクチンのグループに比べて9価ワクチンのグループで96.7%少なくなりました

副作用の可能性がある症状など(有害事象)のうち、深刻なものは9価ワクチンのグループのほうが多く発生しました。

54か月の研究期間のうちに、ワクチンとの因果関係を問わず1回以上の深刻な有害事象が現れた人は9価ワクチンで7,071人中233人、4価ワクチンで7,078人中183人でした。深刻な有害事象のうち件数が多かったものに以下がありました。

ワクチンの種類 9価 4価
妊娠・産褥期・周産期の問題 60件(0.8%)     46件(0.6%)
外科的または内科的手技 73件(1.0%) 54件(0.8%)
感染または寄生虫の寄生 31件(0.4%) 30件(0.4%)

 

この中にはワクチンの副作用と、ワクチンとは関係のないものの両方が含まれていると考えられます。

 

HPV9価ワクチンの効果の報告でした。9価ワクチンは2014年12月に米食品医薬品局(FDA)に承認されています。

ワクチンが子宮頸がんを予防し、子宮頸がんによる死亡を防ぐ効果を確かめるには時間をかけて追跡する研究が必要ですが、ここでがんの手前の状態に対して一定のデータが示されています。

子宮頸がんワクチンは、日本では副作用が疑われたことにより、定期接種の積極的推奨を差し控えるという扱いになっています。しかし、副作用を理由に定期接種を中止するべきと言える証拠はいまだ提示されていません。

海外では広く予防接種が行われ、WHOからは日本の状況に対して批判的な文書が出されています

ワクチンも薬と同じように、副作用がゼロということはありえません。どんな副作用がどの程度の頻度で現れるのか、その危険性は期待される効果に対してどの程度なのか、量の議論がなければ、使うべきかどうかを合理的に判断することはできません。

副作用についても、効果についても、ここで紹介したような実際に試したデータを参照することで、さまざまな価値観からの意見を建設的に戦わせることができます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

A 9-valent HPV vaccine against infection and intraepithelial neoplasia in women.

N Engl J Med. 2015 Feb 19.

[PMID: 25693011]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る