2022.04.19 | コラム

いつもの薬を「おかわり」できるリフィル処方箋制度:患者目線での変化は?

2022年4月から始まったリフィル処方箋のメリットや注意点を解説します

いつもの薬を「おかわり」できるリフィル処方箋制度:患者目線での変化は?の写真

「毎回同じ薬をもらうだけなのに、30日ぶんしか出ない。毎月の通院が面倒」

「前に通っていた大きな病院では90日ぶんの処方箋を出してくれたのに」

「3分足らずの診察でいつもと同じ薬をもらうだけ。それなのに2時間も待たされた」

「処方箋をもらうために病院に行ったら、診察はなかったのに再診料を取られた」

このような不満を抱いていたり、こうした状況が解消されれば嬉しい、と考えている人は少なくありません。

こうした状況を改善して通院負担を軽減することなどを目的として「リフィル処方箋」という制度が2022年4月から導入されました。今回のコラムではこの制度について、患者目線でのメリットや注意点を中心に解説します。

 

1. 現状の整理

リフィル処方箋について解説する前に、冒頭に挙げたような不満が今までなぜ発生してきたのかを考えてみます。

 

なぜ長期間の処方箋を発行してくれないのか

まずは、お医者さんはなぜ長期処方をしてくれないのか、という点についてです。

薬の中には処方期間が制限されているものがあります。例えば、新薬は14日ぶんまでしか処方できないことが国から定められています。医療用麻薬や向精神薬(睡眠薬など)も、種類によって14、30、90日ぶんいずれかまで、湿布は63枚まで(2022年3月までは70枚まで)しか処方できません。そのため、これらの薬はどの医療機関でも同様の扱いとなっています。

しかし一方で、それ以外の薬については処方期間について明確な規定はありません。それぞれの医療機関やお医者さんが、患者さんの状態を把握しながら安全に処方できると考える日数を定めて処方箋を作成しています

一般的には地域密着のクリニックなどでは1ヶ月または2ヶ月ぶん、大きな病院では3ヶ月ぶんを最長の処方期間としていることが多いです。100日ぶん以上の処方は禁止はされていませんが、保険診療で行われることはまれです。

 

いつもと同じ薬の処方箋をもらうのに診察は必要なのか

次に、数分だけ話をして同じ処方箋を発行してもらうだけなのに、なぜわざわざ受診が必要なのか、という点についてです。

これについては、確かに受診の必要性があまり高くない人もいます。血圧やコレステロールを下げる薬を長年使っていて安定している人などが当てはまるかもしれません。実際にアメリカ、イギリス、フランス、オーストラリアといった他の先進国では、こうした状況であれば年に1、2回しかお医者さんの診察がない人も珍しくありません。

ここで、例えば血圧がもともと160/100 mmHgくらいだった人が薬で135/90 mmHgくらいに安定しているケースを考えてみます。薬でだいぶ良くなって安定しており、本人はお医者さんの診察を受ける必要がないと感じているかもしれません。ところが、医学的にはもう少し血圧を下げた方が良いかもしれず、お医者さんとしては食事や運動のアドバイスをしたり、薬を強くするかどうかの相談をしたいかもしれません。

あるいは本当に問題なく安定している人でも、安定していることを定期的にお医者さんが確認できることそのものに意味があります。お医者さんは安定せずトラブルを起こしてしまう患者さんも経験しているため、会わない間もちゃんと健康的に過ごせているのか心配になるものです。

 

このように、患者さんとお医者さんが考える受診の必要性の間には隔たりがあります。日本は欧米よりも医療アクセスが良いので、必ずしも欧米を見習って受診頻度を減らすのが良いというわけではないかもしれません。

 

診察なしで薬をもらうだけの受診、は必要なのか

現状の整理として最後に、お医者さんに会わず処方箋だけをもらうケースを考えてみます。

実はお医者さんは「自ら診察をしないで処方箋を発行してはならない」と医師法に定められています。つまり「お薬だけ受診」は法律的にはできないことになっており、本来はオンラインや電話を含め何らかの診察が必要です。

ところが、現状では「お薬だけ受診」を黙認している医療機関は少なくありません。実際にはお医者さんとは話していなくても、診察してもらったことにしないと処方箋が出せないので再診料が発生するわけです。

「受診の必要性が乏しいのに、処方箋をもらうためだけに受診したことにしている」のが「お薬だけ受診」です。この歪んだ状況の解消にリフィル処方箋が役立つかもしれません。

 

以下ではリフィル処方箋の制度について説明していきます。

 

2. リフィル処方箋制度

リフィルとは日本語で「おかわり」「詰め替え」という意味です。お医者さんが処方箋を作成するときに「リフィル可」というチェックをつけると、その処方箋を最大3回まで繰り返し使用して、調剤薬局で薬を「おかわり」することができます

例えば、30日ぶんの薬の処方箋を3回繰り返し使えるとします。そうするとお医者さんに会うのは3ヶ月後で、薬局に1ヶ月ごとに行けば薬を毎日切らさずに使い続けることができます。お薬を継続して使って大丈夫かどうかのチェックは、薬局で薬剤師さんが1ヶ月ごとに行います。

 

リフィル処方箋のメリット

では、リフィル処方箋のメリットを考えてみます。さまざまなものが考えられますが、主に以下のような点が挙げられます。

 

【リフィル処方箋のメリット】

  • 必要性の低い通院が減り、手間や受診料を節約できる
  • 医療機関の混雑が緩和され、受診の待ち時間が減る

 

こうしたメリットは、国としても医療費削減や医師不足解消に繋がることが期待できます。そのため、リフィル処方箋制度が推進されているという面もあります。

 

リフィル処方箋の注意点

一方で、もちろん注意点やデメリットも考えられます。代表的なものとして、以下のような点が挙げられます。

 

【リフィル処方箋の注意点・デメリット】

  • お医者さんからのアドバイスを聞く機会が減り、トラブルを起こしやすくなりうる
  • 新薬、医療用麻薬、向精神薬、湿布薬などのリフィル処方箋は発行できない
  • 受診回数が減ると医療機関の経営は悪化するので、倒産する医療機関が出てくる

 

受診せずにリフィル処方箋で調剤してもらう際には、本当に処方箋通り薬を準備して大丈夫かどうかを薬剤師さんが判断します。そのため、一貫して適切なアドバイスをもらうためには「かかりつけ薬局」をつくり、毎回同じ薬局で薬をもらうことが望ましいです。

また、リフィル処方箋を発行するかどうかは医療機関、お医者さんの判断によります。そのため、患者側から希望したら必ず発行してもらえるようなものではないことにも注意が必要です。

 

3. 最後に

今月からスタートしたリフィル処方箋制度について、患者サイドから見たメリットやデメリットを解説しました。

実はこの制度はまだまだ定着しているとは言い難く、リフィル処方箋に対応していない医療機関のほうが圧倒的に多いのが現状です。お医者さんからみれば、患者さんの様子を診る機会が減るというリスクを冒したうえに医療機関の経営も悪化するので、それほど前向きになれない、という意見が多いのも正直なところです。

薬剤師さんとしても、お医者さんの代わりに患者さんの状態を確認して調剤するため、従来よりも仕事量も責任も増えてしまいます。そのため、気が重いと感じることもあり、医療関係者みながリフィル処方箋制度に乗り気というわけではありません。

今後、この制度が広がっていくのか、あるいは廃れていくのかは患者さん一人ひとりの声にかかっているのかもしれません。多くの患者さんから求める声が挙がれば、医療機関としてもリフィル処方を今よりも積極的に行うようになるものと思います。

 

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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