この舌下免疫療法はスギ花粉が飛んでいない時期(6月から12月)に治療を始める必要があります。今回のコラムでは、来シーズンに備えていま知っておきたい舌下免疫療法について紹介します。
スギ花粉症の根治が目指せる舌下免疫療法とはどのような治療法か?
スギ花粉の成分を少量ずつ体内に取り込むことで身体を慣らし、スギ花粉に対するアレルギー反応を起こりにくくする治療法です(作用機序について詳しくはこちらを参考にしてください)。
具体的には、スギ花粉のエキスを含む液状の治療薬(シダトレン®)または錠剤(シダキュア®)を1日1回、舌の下に1-2分間保持したあとに飲み込みます。この治療を受けると、スギ花粉による鼻水や目の痒みといったアレルギー症状が軽減したり、抗アレルギー薬を飲まなくても症状を全く感じなくなったりします。
ただし、治療するには長い期間が必要です。一度治療をはじめたら、スギ花粉が飛散している時期も飛散していない時期も毎日服用を続けます。開始後はじめてのスギ花粉の飛散シーズンから効果を実感できる人が多く、そこでやめてもよいのではないかと考えてしまう人もいるかもしれません。しかし、3-5年間治療を継続することで、さらに効果が高まりますし、治療終了後も効果がより長期間持続します。
副作用の心配はないのか?
スギ花粉に対するアレルギーのある人がスギ花粉の成分を体内に入れることになるので、治療中は多少のアレルギー症状を感じることがあります。具体的には、口の中やくちびるがはれたり荒れたりといった軽いものが大多数です。また、アナフィラキシーという重い副作用をきたす可能性が指摘されていますが、今のところほとんど報告はありません。
ただし、副作用のリスクを減らすために、服用のタイミングにはいくつかの注意が必要です。たとえば、服用後の約2時間は、激しい運動、入浴、飲酒はできませんし、できれば日中家族などがいるところで服用することが推奨されています。
なお、以下にあてはまる人は有効性または安全性が確認されていないため、舌下免疫療法を受けることができません。
【スギ花粉症の舌下免疫療法を受けられない人】
- 5歳未満の子ども
- 重症の気管支喘息の人
- がんや自己免疫疾患などの免疫機能が低下する病気の人
- 妊婦、授乳婦、近いうちに妊娠希望の人
- 特定の薬剤(β遮断薬や3環系抗うつ薬など)を使用している人
また、65歳以上の高齢者は舌下免疫療法の有効性が低いため、治療を行うかどうかは状況によって判断が異なります。
いつ始めるのがよいのか
副作用のリスクを減らすための対策の1つとして、スギ花粉の飛散していない6月から12月に治療を開始するよう取り決められています。スギ花粉が飛んでいるときには身体がスギ花粉に対して過敏になっているため、副作用が出やすく重くなりがちであるからです。
飛散のオフシーズンであればいつでも治療を始められますが、来シーズンの症状を抑えたいならばできるだけ早い時期に開始しておくほうが効果的といわれていて、夏くらいに始めるとよいです。
どのくらい費用がかかるのか?
スギ花粉症の舌下免疫療法にかかるコストは、3-5年間で合計77,700-126,800円(3割負担の場合)です。その内訳は下記のようになります。
- 初回 5,000-6,000円程度
- 2回目 700-800円程度
- 3回目以降 月2,000円程度 (すべて3割負担の場合)
初回の受診ではスギ花粉症かどうかを確かめるための検査(多くは血液検査)を受けます。このときの患者さんの負担額は5,000-6,000円程度です。検査結果はその日にはわからないことがほとんどなので、後日再診することになります。
検査結果からスギの花粉症と診断されれば、2回目の受診から舌下免疫療法を開始できます。まずは、スギ花粉エキスの量が少ない低用量の薬を1週間服用して、副作用が生じないかどうか様子を見ます。この1週間分の処方薬と受診にかかる費用は合わせて約700-800円程度です。
低用量のスギ花粉エキスを使用してみて副作用がなかった人は、3回目の受診の際に、より多くのエキスを含む(維持量と言います)薬を服用するよう指示されます。維持量の薬に切り替えた後は、少なくとも月1回の頻度で通院することが勧められていて、毎月約2,000円の負担が生じます。
ただし、病状によっては追加の検査治療が必要となり追加料金が発生しますので、正確な額を知りたい人は各医療機関にお問い合わせください。
どの医療機関で治療を受けられるのか
舌下免疫療法はどの医療機関でも受けられる治療法ではありません。これは、講習を受けて舌下免疫療法の知識が十分あるとされる医師のみが治療薬を処方できると定められているからです。
一般的な花粉症治療を行っている医療機関でも舌下免疫療法を取り扱っていないことがありますので、受診前にホームページや電話で確認してみてください。
今回紹介した舌下免疫療法は、根気よく治療を続ける必要があるものの、毎年花粉症に悩まされている人にとっては有力な選択肢です。せっかくオフシーズンに入ったのだからもう薬は飲みたくない、という人もいるかもしれませんが、来シーズン以降を見据えて今の時期(配信日2020.6.23)こそ、治療を検討してみてはいかがでしょうか。
なお、花粉症についてさらに詳しく知りたい人は、「花粉症の詳細情報」も参考にしてください。
執筆者
・日本アレルギー学会, 「スギ花粉症におけるアレルゲン免疫療法の手引き(改訂版)」
・シダキュア インタビューフォーム(2019年7月改訂)
・湯田厚司, 他. スギ花粉症舌下免疫療法のスギ花粉多量飛散年での臨床効果と治療年数の効果への影響. アレルギー2018;67(8).
・Syuji Yonekura, et al. Treatment duration-dependent efficacy of Japanese cedar pollen sublingual immunotherapy:Evaluation of a phase II/III trial over three pollen dispersal seasons.Allergology International.2019;68(4)494-505.
・太田信男, 他. スギ舌下免疫療法に関するアンケート調査 1シーズン目、2シーズン目および3シーズン目の比較. 日耳鼻.2019;122:35-44.
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。