デング熱は国内で再び流行する可能性がある?

2014年の夏に東京の代々木公園などで発生した160名を超えるデング熱の国内流行は、みなさんの記憶にまだ新しいと思います。デング熱という言葉を初めて聞いたという人が多かったと思いますが、実は1942年から1945年にかけて、神戸・大阪・広島・呉・佐世保・長崎などで約20万人にのぼるデング熱流行があったという事実があります。
デング熱はデング
このコラムではデング熱について、感染症内科医の立場からみなさんに知っていただきたいポイントを解説いたします。
1. どこで流行しているのか
デング熱は媒介する蚊の存在する熱帯・亜熱帯地域、特に東南アジア、南アジア、中南米、カリブ海諸国を中心に見られます。世界で年間約1億人がデング熱を
2. デングウイルスに対する免疫はできるか
デング熱は、デングウイルスに感染している人を吸血した蚊が別の人を刺すことによって、「ヒト→蚊→ヒトという形で広まります。デングウイルスには4つの血清型があり(1型、2型、3型、4型)、感染した型に対しては終生
3. 媒介する蚊の特徴とは
デングウイルスはネッタイシマカなどのヤブ蚊によって媒介されます。日本にはネッタイシマカはいませんが、代わりにヒトスジシマカが媒介します[5]。ヒトスジシマカは温暖化の影響で生息地が広がっており、本州から四国、九州、沖縄まで広く分布しています[6]。
国内でデング熱患者の血液をヒトスジシマカがたまたま吸血し、その蚊が他の人を刺すことによって感染が広がる可能性があります。ただ、ヒトスジシマカは5月中旬~10月下旬に活動するのですが、冬を越えて生息することができません。また、卵を介してウイルスが次世代の蚊に伝わることも報告されていません[7]。そのため、国内感染が起こったとしても長期的な流行は起こらないと考えられます。
4. デング熱で気をつけるべき症状とは
デングウイルスに感染しても、多くの人が無
【デング熱の発熱に伴う主な症状】
嘔気 、嘔吐皮疹 - 頭痛
- 眼痛
- 筋肉痛
- 骨関節痛
通常、発症してから2~7日で熱が下がります。皮疹は解熱時期に出ることが多いです[1,3-5,8]。
ほとんどの人は自然に改善しますが、一部の人では重度の出血傾向、血漿漏出傾向、臓器不全傾向といった重篤な症状が出ることがあります。こういったケースは「重症型デング」と呼ばれ、症状は解熱時期に起こることが特徴的です[4]。
重症型を疑う症状は以下の通りです[1]。これらの症状が見られた際には速やかに医療機関を受診してください。
【重症型デングが疑われる症状】
- 腹痛、腹部の圧痛(お腹を押すと痛い)
- 持続的な嘔吐(少なくとも24時間に3回)
- 鼻や歯茎からの出血
吐血 血便 - 無気力、落ち着かない、イライラ
重症型デングを放置すれば致命率は10-20%にも達しますが、適切な治療を行うことで致命率を1%未満に減少させることができます[9]。
5. デング熱にかかったかもしれないと心配になったら
すべての蚊がデングウイルスをもっているわけではないので、蚊に刺されたことだけで過分に心配する必要はありません。しかし、最近旅行で海外に行った人で上記のようなデング熱を疑う症状が現れた場合には医療機関を受診してください。また、受診する際には必ずお医者さんに旅行歴(渡航先と日程)を伝えるようにしてください。
発熱をしている時期は、血液中のウイルスの量が多いため[3]、この期間に蚊に刺されてしまうとデング熱をもった蚊が国内に出現してしまいます。そのため、なるべく早い段階で病院を受診して調べてもらう必要がありますし、この時期に蚊に刺されないようにしなければなりません。
なお、診断確定のためには血液検査が必要で、デングウイルスの遺伝子やタンパク質が含まれているかどうかを調べます 。
6. 治療法はあるか
デング熱に対する特別な治療法はありません。そのため、通常のデング熱の場合には症状を和らげる
7. 予防法はあるか
予防に関して、国内で利用可能なワクチンはありません。(海外ではあるのですが、デング熱ワクチンの接種を受けた人がデングウイルスに感染した場合、ワクチン接種を受けていない人よりも重症となる可能性があることから、デング熱に感染したことがない人については、ワクチン接種を控えるようにWHOが勧奨しています。)[10] そのため、蚊に刺されない工夫が予防において最も重要です。具体的には、皮膚が露出しないように長袖・長ズボンを着用し、ディートを含む防虫剤を使うといった防蚊対策です。これらは、デング熱だけでなく、蚊が媒介するその他の感染症(チクングニア熱、ジカウイルス感染症、マラリアなど)の予防にもなります。
これから夏休みシーズンを迎えるため海外旅行を予定している人も多いかと思います。デング熱に限った話ではありませんが、渡航前に渡航先でどのような感染症が流行しているかを厚生労働省検疫所のウェブサイト[11]で確認しておくと良いでしょう。一人ひとりの感染予防が、国内で特定の感染症を広めないためにとても大事です。旅行の準備リストに「流行状況のチェックと対策」を加えておいてください。
1. CDC. Dengue.
2. 国立感染症研究所. 日本の輸入デング熱症例の動向について.
3. Simmons CP, Farrar JJ, Nguyen vV, Wills B. Dengue. N Engl J Med. 2012 Apr 12;366(15):1423-32.
4. Guzman MG, Harris E. Dengue. Lancet. 2015 Jan 31;385(9966):453-65.
5. 蚊媒介感染症の診療ガイドライン第5版.
6. 厚生労働省. デング熱国内感染事例発生時の対応・対策の手引き(第1版).
7. 厚生労働省. デング熱に関するQ&A.
8. 国立感染症研究所.<特集>デング熱・デング出血熱 2011~2014. IASR. 2015; 36:33-34.
9. World Health Organization. Dengue and Severe Dengue. WHO Fact sheet No117. (Updated 15 April 2019)
10. デング熱ワクチンに関するWHO position paper, 2018年9月. IASR Vol. 39 p226: 2018年12月号
11. 厚生労働省検疫所. FORTH.
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。