転移のある大腸がんに対する抗EGFR薬の効果
オーストラリアの研究班が、文献の調査により転移のある大腸がんに対する抗EGFR薬の効果を検討し、『Cochrane Database of Systematic Reviews』に報告しました。
抗EGFR薬は大きくEGFRチロシンキナーゼ阻害薬と抗EGFRモノクローナル抗体に分けられます。
EGFRチロシンキナーゼ阻害薬には日本で大腸がんに対して承認されているものはありません(2017年7月時点)。
抗EGFRモノクローナル抗体として、パニツムマブ(商品名ベクティビックス®)、セツキシマブ(商品名:アービタックス®)が日本でも承認され使用されています。
この研究では、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬または抗EGFRモノクローナル抗体が単独またはほかの薬剤と組み合わせて使用された場合に、がんの進行なく生存する期間を長くする効果があるかを調べています。
標準治療に加えることで生存期間延長
調査により、関係する33件の研究結果が見つかりました。
データの解析から、抗EGFRモノクローナル抗体については次の結果が得られました。
- KRASエクソン2に変異がない人で、標準治療に抗EGFRモノクローナル抗体を加えることで、がんの進行がなく生存する期間、全体として生存する期間のいずれも長くなる(高い質の証拠)
- グレード3または4の毒性(全体として)、下痢、皮疹が増加する
- KRAS・NRASのどちらにも変異がない人で、治療に抗EGFRモノクローナル抗体を加えることで、がんの進行がなく生存する期間(中等度の質の証拠)、全体として生存する期間(高い質の証拠)が長くなる
- 抗EGFRモノクローナル抗体とベバシズマブには進行なく生存する期間(高い質の証拠)・全体としての生存期間に差がない(中等度の質の証拠)
KRAS、NRASはがん細胞の増殖などに関わる遺伝子です。一般にこれらの遺伝子の変異がある人では抗EGFRモノクローナル抗体の効果は期待しにくいとされ、上記のとおり変異がない人を対象とした研究が行われています。
グレード3とは副作用などによる症状などの重症度を示す言葉です。入院が必要になる程度の副作用はグレード3または4に分類されます。
一方、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬については、標準治療に加える(対象者の遺伝子検査の結果は問わない)ことによる利益は確認できませんでした。
転移のある大腸がんにはEGFRモノクローナル抗体を使うべき?
転移のある大腸がんに対して、標準治療に抗EGFRモノクローナル抗体を加えることで進行なく生存する期間が長くなるとした報告を紹介しました。
ただし、対象者は特定の遺伝子変異がない人に限られます。
また、効果とともに重い副作用が出る可能性も報告されています。効果とのバランスを考えて使うべきと考えられます。
『大腸癌治療ガイドライン』でも、身体状態が良好で負担の強い薬を考慮できる人に対して、ほかの抗がん剤(FOLFOX療法など)と併用で、KRAS変異がないことを確かめたうえでパニツムマブまたはセツキシマブを使用する選択肢が挙げられています。
大腸がんに対する抗がん剤治療にはたくさんの選択肢があります。どの薬を選ぶかは複雑な判断になりますが、このように比較して効果が検証されていることで、順序立てて考えることができます。
執筆者
Epidermal growth factor receptor (EGFR) inhibitors for metastatic colorectal cancer.
Cochrane Database Syst Rev. 2017 Jun 27.
[PMID: 28654140]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。