甲状腺機能低下症とは?
甲状腺は首の前側にある臓器です。多くの人で、皮膚の下に大きさ数cm程度の甲状腺を触れることができます。
甲状腺は甲状腺ホルモンという物質を作って放出しています。甲状腺ホルモンは体を活発にする働きがあります。甲状腺ホルモンが不足すると以下のような症状が現れます。
- だるくなる
- 寒がりになる
- 気力がなくなる
- 足がむくむ
- 体重が増加する
- 便秘になる
- 脈が遅くなる
- 生理が不順になる
- 皮膚が乾燥する
甲状腺ホルモンの量が基準値を若干外れていても症状がない人はいます。
甲状腺ホルモンの量は、脳の下垂体(かすいたい)という器官から出る甲状腺刺激ホルモン(TSH)によって調整されています。下垂体はさらに視床下部(ししょうかぶ)という器官にコントロールされています。
甲状腺ホルモンが少ないとTSHは多くなり、甲状腺ホルモンが多いとTSHが少なくなることで、甲状腺ホルモンの量が一定に保たれます。
橋本病など、甲状腺の働きが弱くなる状態では、甲状腺ホルモンが少なく、TSHは多くなります。視床下部や下垂体の異常がない限り、TSHが多いことは甲状腺ホルモンが減少しやすい状態を反映すると考えられます。
血液検査で甲状腺ホルモンは基準値の範囲内だがTSHは多い状態を、ここではサブクリニカル甲状腺機能低下症と呼びます。
サブクリニカル甲状腺機能低下症に対するレボチロキシン補充の効果
イギリス・オランダ・スイス・アイルランドで行われた研究の結果が、医学誌『New England Journal of Medicine』に報告されました。
この研究は、サブクリニカル甲状腺機能低下症がある65歳以上の人を対象として、甲状腺ホルモン(レボチロキシン)を補充することにより症状の改善があるかを検討しています。参加資格の中で視床下部・下垂体の異常は触れられていません。
737人が対象となりました。平均年齢は74.4歳でした。対象者はランダムに2グループに分けられました。
- レボチロキシンを飲むグループ(用量は状態に応じて調整)
- 偽薬を飲むグループ
治療開始から12か月後までホルモン補充を続け、12か月時点で効果を判定しました。
効果判定には、生活の質(QOL)を聞き取る質問紙のうち、甲状腺機能低下症の症状に関わる項目、また疲労感に関わる項目の変化を基準としました。
1年の治療で偽薬と差がない
次の結果が得られました。
1年時点の甲状腺機能低下症状スコアの変化量の平均(偽薬群で0.2±15.3、レボチロキシン群で0.2±14.4、群間差0.0、95%信頼区間-2.0から2.1)および疲労感スコア(3.2±17.7 vs 3.8±18.4、群間差0.4、95%信頼区間-2.1から2.9)には差がなかった。
治療前から1年後までの変化を比較して、甲状腺機能低下症の症状についても、疲労感についても、ホルモン補充をしたグループとしなかったグループで統計的に差がありませんでした。
副作用の可能性があることのうち、深刻な事態が発生した人の数は、偽薬のグループのほうがわずかに多くなりました(103人 vs 78人)。ほかの主な出来事については統計的に差がありませんでした。1年間に死亡した人は偽薬のグループで5人、ホルモン補充のグループで10人でしたが、偶然として説明がつく範囲でした。
検査値は少し外れていても大丈夫?
サブクリニカル甲状腺機能低下症に対してホルモン補充による症状改善が確かめられなかったという報告を紹介しました。
ホルモンの検査値にはある程度の個人差もあります。また、複数のホルモンが互いに制御しあって働くので、どれかひとつが基準値から外れていても、結果として問題にならない場合はあります。
甲状腺の検査で「TSHが高い」と言われても、ほかに気になる点がなければあまり心配は要らないのかもしれません。
執筆者
Thyroid Hormone Therapy for Older Adults with Subclinical Hypothyroidism.
N Engl J Med. 2017 Apr 3. [Epub ahead of print]
[PMID: 28402245]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。