潰瘍性大腸炎とは?
潰瘍性大腸炎は原因不明の難病です。免疫のしくみが自分自身の体を攻撃してしまうこと(自己免疫)が関係すると考えられています。大腸に炎症が起きて、下痢や血便の症状が長く続きます。長年炎症が続くことにより大腸がんの発生する確率が上がるなどの影響もあります。
治療には、免疫を弱くして腸の炎症を抑える目的で、ステロイド薬や免疫抑制薬などが使われます。しかし、どの方法を使っても症状が残る人はまれではありません。非常に重い場合などでは手術で大腸を取り除くこともあります。
潰瘍性大腸炎に対する糞便移植の効果
オーストラリアの研究班が、潰瘍性大腸炎に対して糞便移植の効果を調べ、医学誌『Lancet』に報告しました。
潰瘍性大腸炎の症状が出ている患者85人が対象となりました。
対象者はランダムに2グループに分けられ、大腸内視鏡を使って糞便移植をするグループと、偽薬を注入するグループとされました。
どちらのグループでも週に5回ずつ8週間にわたって注入が行われました。
効果判定のため、治療目標が設定されました。目標は、ステロイド薬を使っていない状態で症状がなくなり、大腸内視鏡でも病気の様子が見つからなくなるか軽くなることと決められました。
目標達成が8%から27%に、副作用も
次の結果が得られました。
一次アウトカムは、便細菌叢移植に割り振られた患者41人のうち11人(27%)で達成され、対して偽薬群に割り振られた患者では40人中3人(8%)だった(リスク比3.6、95%信頼区間1.1-11.9、P=0.021)。
有害事象は便細菌叢移植に割り振られた患者の41人中32人(78%)、偽薬群の40人中33人(83%)によって報告された。ほとんどは自然に解消する胃腸症状であり、有害事象の発生数または種類について治療群間で有意な差はなかった。深刻な有害事象は便細菌叢移植に割り振られた患者のうち2人、偽薬に割り振られたうち1人に発生した。
治療目標を達成した人は、細菌移植をしたグループでは41人中11人でしたが、偽薬のグループでは40人中3人だけでした。
どちらのグループでも80%近くの人に副作用の可能性がある胃腸症状などが現れました。うち細菌移植のグループで2人、偽薬のグループで1人は深刻な事態が発生しました。
研究班は、「したがって、便細菌叢移植は潰瘍性大腸炎に対する新たな治療選択として期待が持てる」と結論しています。
糞便移植は潰瘍性大腸炎に使えるか?
潰瘍性大腸炎に対して糞便移植の効果を調べた研究を紹介しました。
偽薬と比べて目標達成に差があったことから、治療効果があったと考えられます。
ただし、8割近くの人に副作用の可能性がある出来事が起こったことも無視できません。偽薬か糞便移植かに関わらず、腸が痛んでいる人に繰り返し大腸内視鏡を挿入するという治療法をどの程度安全に行えるかは公平に考える必要があります。特に、2グループの両方で深刻な例が発生している点からは、仮に糞便移植に使うもの(便の提供者など)がより優れたものになったとしても同様の問題が起こることも想像できます。
また、治療効果は「ステロイド薬を使わない状態で」という条件で判定されています。ステロイド薬を使うことはもちろん有効な選択肢のひとつです。ステロイド薬には副作用もあるため、ほかの選択肢があることは有益です。しかし、ステロイド薬の副作用は長年の経験により詳しく把握され、副作用が出た場合の対策なども充実しています。
治療法を選ぶにはそれぞれの良い面と悪い面を量で評価し、どちらのほうが効果が大きく副作用が少ないかなどをすべて総合して判断する必要があります。
糞便移植が潰瘍性大腸炎の治療を変えるかどうかはまだ予見できません。
執筆者
Multidonor intensive faecal microbiota transplantation for active ulcerative colitis: a randomised placebo-controlled trial.
Lancet. 2017 Mar 25.
[PMID: 28214091]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。