2017.04.01 | ニュース

肥満の人は、自分が好きなほうが健康状態が良い

159人の調査から

from Obesity (Silver Spring, Md.)

肥満の人は、自分が好きなほうが健康状態が良いの写真

肥満は健康によくないとはいえ、健康上の理由を超えて人格の欠点のように扱われてしまう現実もあります。肥満の人の調査で、肥満を恥ずかしく思わない人のほうがメタボリックシンドロームが少なかったことが報告されました。

アメリカのペンシルバニア大学などの研究班が、肥満に対する自分自身の偏見と健康状態の関係についての研究結果を専門誌『Obesity』に報告しました。

この研究は、肥満治療薬のロルカセリンの臨床試験に参加した人のデータを解析したものです。

BMI(体重÷身長÷身長)が33以上、年齢は21歳以上65歳以下などの条件を満たす人が対象となりました。BMI33というのは、たとえば身長170cmなら95kgを超えるぐらいです。日本人には多くない高度の肥満ですが、アメリカではBMI30を超える肥満がしばしば問題視されます。

 

参加者は、以前の研究により作成された、「体重偏見内面化尺度」という採点方法により、体重に対する偏見の強さを判定されました。対象者159人から解析に適したデータが得られました。

体重偏見内面化尺度は以下の11項目の質問から構成されます。対象者はそれぞれの質問に「強く反対」から「強く同意」までの7段階で回答します。

 

  • 肥満の人としては、私は誰にも劣らないと思う。(マイナスの採点)
  • 私は体重のせいでほかの大多数の人よりも魅力がないと思う。
  • 他人にどう思われるかと思うと肥満であることが不安だ。
  • 体重を劇的に変えられればいいのにと思う。
  • 肥満であることについてよく考えるといつも憂鬱な気持ちになる。
  • 肥満なので自分が嫌いだ。
  • 自分の人としての価値を評価するときに体重を主な方法にする。
  • 肥満である限り、自分には本当に充実した社会生活を送る価値がないと思う。
  • いまの体重でも問題ないと思う。(マイナスの採点)
  • 自分が肥満なので本当の自分ではないように思う。
  • 体重のせいで、魅力的な人がどんな気持ちになれば自分と付き合いたくなるか理解できない。

※原文のoverweightは日本肥満学会による「肥満(1度)」の定義に相当するため、「肥満」と訳しました。

 

すなわち、体重偏見内面化尺度により、「自分の肥満を恥ずかしく思うか」が数値化されることになります。

 

得られたデータの解析で、体重偏見内面化尺度が上位1/3の人と下位1/3の人を比較すると、次の結果が得られました。

カテゴリカルに解析すると、体重偏見内面化が高いことは(低い場合に比べて)メタボリックシンドロームおよび中性脂肪値が高いことのオッズがより大きいことを予言した(いずれもP<0.05)。

自分の肥満を恥ずかしく思う人に比べて、恥ずかしく思わない人のほうが、メタボリックシンドロームの基準に当てはまることが少なく、また中性脂肪値が高いことも少なくなっていました

見つかった関係について研究班の考察が記されています。

研究班は、過去の研究で肥満を恥ずかしく思う人にむちゃ食い行動が多い傾向や、運動をするモチベーションが低い傾向が指摘されていることを挙げたうえ、中性脂肪値が高いことを説明する生物学的または行動科学的な理由を特定するために研究を進める必要があるとしています。

考察はまた、研究の方法による限界から、原因と結果が逆である可能性についても触れています。すなわち、健康状態が悪いことによって肥満を恥ずかしく思うようになる可能性が挙げられています。

 

健康に良いか悪いかにかかわらず、肥満だからといって人を見下したり責めたりすることはあってはならないことです。

ここで紹介した研究では、肥満の人が自分を恥ずかしいと思ってしまうと健康に悪い影響があるのではないかという観点が示されました。

確かに肥満は多くの病気に結び付きます。肥満と関連が強い病気の例としては、2型糖尿病は失明などの原因になり、心筋梗塞は突然死を引き起こすことがあり、脳卒中は死因になるだけでなく一命をとりとめたとしても運動機能や言語機能に後遺症を残す場合があります。肥満を解消する努力は健康のために大切なことです。

とはいえ、病気予防のためという目的を超えて「やせなければいけない」という考えにこだわってしまうのは行き過ぎでしょう。

肥満対策は、心身ともに充実した生活のためにあります。病的なほどの肥満の人に必要なのは、「自分は太っているからダメなのだ」と思い詰めることではなく、適切な食事制限や運動によって少しずつ改善していくことです。生活の改善には家族や周りの人のサポートも強く働きます。

社会全体が患者と一緒に、肥満・メタボリックシンドローム対策のため役に立つことは何かを前向きに考えていくべきではないでしょうか。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Association between weight bias internalization and metabolic syndrome among treatment-seeking individuals with obesity.

Obesity (Silver Spring). 2017 Feb.

[PMID: 28124502]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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