◆褥瘡とは
褥瘡(じょくそう)は床ずれと呼ばれることもあります。様々な病気により、寝ている時間や座っている時間が長くなることで、皮膚の同じ部分が続けて圧迫され、皮膚やその下の組織が壊死(組織や細胞が死んでしまうこと)することを褥瘡と言います。褥瘡が重症化した場合では皮膚に穴が開き、その下にある脂肪組織や骨などが表面から見えてしまうこともあります。
褥瘡ができやすい部分としては、寝ている姿勢や座っている姿勢で体重がかかる部分や、骨と皮膚が近い部分があります。この条件に当てはまる部位としては、踵(仰向けで寝ている時に体重がかかりやすい)、大転子(太ももの外側で腰に近いところにある骨が飛び出た部分。横向きで寝ている時に体重がかかりやすい)、仙骨(おしりの骨。仰向けで寝ているとき、または座っているときに体重がかかりやすい)などがあります。また、顔の頬骨や後頭部などにも褥瘡ができることがあります。
褥瘡は感染を引き起こすことも多く、褥瘡から始まった感染が全身に広がって重症となることもあるため、感染にも注意が必要です。
入院中や在宅で寝ている時間が多い方では褥瘡の予防に努めることが非常に重要です。
褥瘡を予防する上で重要なポイントは、大きく分けると以下の2点です。
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褥瘡の発症を予測する
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褥瘡につながる要素を変える
それぞれについて説明していきます。
◆褥瘡の発症を予測するために注意する点
褥瘡の発症を予測するという試みは、過去に多くなされています。過去の研究から、褥瘡ができやすい可能性が指摘されている病気として、以下のものがあります。
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うっ血性心不全
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骨盤骨折
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脊髄損傷
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糖尿病
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脳血管疾患
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慢性閉塞性肺疾患
どれにも当てはまらない人でも、寝ている時間が長いなどの状態にあれば褥瘡の予防を考えることは必要です。とはいえ、褥瘡ができやすいと考えられる人に対してはより重点的にケアするといった考え方もできます。
ほかに末梢血管疾患、悪性腫瘍、アルツハイマー病、関節リウマチ、骨粗鬆症、深部静脈血栓症、尿路感染症、パーキンソン病と褥瘡に関連があったとする報告もあります。
診断名ではなく体の元気さなどから褥瘡の発症を予測する方法として、「リスクアセスメント・スケール」と呼ばれるものがあります。リスクアセスメント・スケールの一例として、ブレーデンスケールというものが一般的に使用されています。ブレーデンスケールは感覚知覚・湿度・活動性・可動性・栄養・摩擦とずれの6項目から褥瘡を予測します。褥瘡対策にブレーデンスケールを導入すると褥瘡発生率が減ったという報告もあり、ブレーデンスケールを使った評価は褥瘡防止につながると考えられます。
ほかにも寝たきりの高齢者に対象者を絞ったもの、脊髄損傷に特化したものなどさまざまなリスクアセスメント・スケールなどがあり、状況に応じて使われています。
また脊髄損傷がある人で以前に褥瘡の経験(既往歴)がある場合は既往歴がない人よりも褥瘡の発生が多いといったデータがあり、褥瘡の再発にも注意が必要です。
このようにさまざまな観点から褥瘡の発症を予測し、重点的に対策するべき人や状況を選ぶことができます。それでは、次に褥瘡の予防のために行われるケアについて解説します。
◆褥瘡の予防のためのケア
褥瘡予防には、褥瘡の発症に関連する病気や要因に注意をして、対処していくことになります。実際に行われることがあるケアの例を、以下の4種類に分けて説明していきます。
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ポジショニング(体位変換)
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栄養状態の不良に対するケア
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リハビリテーション
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スキンケア
ポジショニング(体位変換)
ポジショニングは、褥瘡予防の基本となる方法です。ポジショニングとは身体の向きを工夫することです。身体にかかる圧が局所に集まらず、できるだけ分散するようにします。
ベッドで寝ている時間が多い場合、2時間ごとに身体の向きを変える、圧が分散するように接地面を整えるなどの方法があります。
栄養状態の不良に対するケア
褥瘡ができやすい要因のひとつとして、低栄養状態があります。栄養状態はブレーデンスケールでも評価項目とされています。栄養状態を改善するために、特にタンパク質やエネルギーが不足している人では、サプリメントを使うことも考えられます。
ただし、糖尿病などの病気のためにエネルギーやタンパク質の摂取量が別に制限されている場合もあるため、どのような内容の栄養補充が適切かは個々の状況を考える必要があります。
リハビリテーション
褥瘡予防を目的とするリハビリテーションもあります。リハビリテーションの方法は、年齢や病気によっても違います。
たとえば、脊髄損傷がある人の褥瘡予防については、接触圧(接触している部分にどれくらい圧がかかっているか)を確認する方法があります。脊髄損傷は身体をうまく動かせない運動障害の症状を現すことが多いため、日中に座っているまたは寝ている時間も長くなります。また、感覚障害を伴うことも多く、長い時間座った時の痛みに気づかないことも考えられます。そうした懸念に対して、接触圧を確認しながら自分で気を付ける点を学ぶことで、効果的な予防を目指します。
リハビリテーションの観点からはその他にも、以下の方法を支持する研究報告があります。
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クッションを用いた予防
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体重が局所的にかかってしまうのを防ぐ「体圧再分散クッション」という製品があります。ほかに座った姿勢で圧がかかる場所を調節できる「ダイナミック型クッション」という製品もあります。
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座る姿勢の考慮
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座る時の姿勢を工夫することで、組織にかかる影響を最小限に抑えようとする方法です。
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円座(ドーナッツ型のクッション)の使用の回避
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円座を使った人で褥瘡の発生や悪化があったという報告があります。
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この他、筋肉の萎縮や関節の動きが悪くなることなどに対するリハビリテーションも行われることがあります。
スキンケア
もともとの皮膚の状態によっても褥瘡ができるかどうかは変わります。一般的に皮膚がいつも湿っているほうが褥瘡はできやすいとされ、ブレーデンスケールでも「湿度」が基準に使われています。
皮膚がいつも湿っている状況というのは、汗などにもよりますが、尿失禁(尿漏れ)とも関係します。尿・便の失禁がある場合、皮膚を洗浄したうえ皮膚保護のためにクリームなどをつける方法があります。
また、褥瘡予防のための「ドレッシング材」という製品があります。ドレッシング材は薄いテープのようなもので、褥瘡ができてしまった場合に傷口を覆うように貼って使いますが、褥瘡ができそうな場所を守る効果についても報告があります。ドレッシング材には素材などが違う多くの種類があり、状況に応じて適したものを選んで使います。ドレッシング材の効果として、高齢者の骨が皮膚に近い部分に貼った場合、仰向けの姿勢で手術を受ける人の仙骨部に貼った場合などについて支持する報告があります。
褥瘡は、一見軽く考えてしまいがちですが、深刻な状態につながる恐れもあり、注意が必要です。上述の予防法はひとつの例になりますが、いずれも専門家の指示をよく聞いて行わなければいけないものです。自己判断で対処するのは、かえって褥瘡を発症させたり、悪化させたりする危険性がありますので、必ず医療機関で指導を受けてください。
参考:褥瘡予防・管理ガイドライン
注:この記事は2016年4月1日に公開しましたが、2018年2月21日に編集部(大脇)が更新しました。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。