2016.03.03 | ニュース

脳卒中は課題に特化した練習をしても、通常のケアと大差なし?

麻痺した上肢への効果を検証

from JAMA

脳卒中は課題に特化した練習をしても、通常のケアと大差なし?の写真

脳卒中の症状の一つである運動麻痺に対するリハビリでは、課題に合わせたトレーニング方法が効果があると言われていました。今回、アメリカの研究班がさらにその効果を検証するために、従来のリハビリ方法と比較しました。

◆課題志向型トレーニングと従来の方法を比較

脳卒中患者の主な症状の一つである運動麻痺に対して、リハビリ手法としてどのようなものが効果的か注目されています。その中でも、課題志向型トレーニングと呼ばれるリハビリ方法は、比較的その効果が検証され、有効性が示されていました。

今回の研究では、その効果をより信頼性の高い研究方法である多施設間共同研究(複数の施設で検証することで、その効果の妥当性をより高く保つための方法)によって調べました。

中等度の運動麻痺がある361人の脳卒中患者を対象に以下の3群に分けて、上肢の運動機能に対する治療効果を比較しました。

  • 課題志向型トレーニングを行う群(ASAP群)
    • 目的とする課題(例えば、椅子から立つ、物を取るなど)を設定し、強度などに配慮しながら、一定の方法でリハビリを行いました。治療期間は、1回1時間の治療を週3回、10週間としました。
  • 従来型のリハビリを、課題志向型トレーニングと同じ量行う群(DEUCC群)
    • 詳細は記載されていませんが、「通常のケア」を1回1時間の治療を週3回、10週間行いました。
  • 従来型のリハビリを行い、どの程度の量かは研究者が介入せず記録のみ行う群(UCC群)

 

◆課題志向型トレーニングと従来型のリハビリに大差なし?

以下の結果が得られました。

361人のランダム化された患者において(平均年齢60.7歳、男性56%、アフリカ系アメリカ人が42%、脳卒中の発症からの平均時間46日)、304人(84%)が12か月後の主要アウトカム評価を完遂した。ITT解析の結果、群の平均変化量(Log WMFT、ベースラインから12か月時点の比較)は、ASAP群で2.2から1.4(0.82差)、DEUCC群で2.0から1.2(0.84差)、UCC群で2.1から1.4(0.75差)であり、いずれの群間にも差は認められなかった(ASAP vs DEUCC: 0.14; 95%信頼区間-0.05から0.33; P = .16、ASAP vs UCC: -0.01; 95%信頼区間-0.22から0.21; P = .94、DEUCC vs UCC: -0.14; 95%信頼区間-0.32から0.05; P = .15)。

課題志向型トレーニングは、その他の治療群と比べて効果があるとは言えない、という結果でした。

筆者らは、「これらの知見は、運動性の脳卒中で主に上肢の中等度の障害がある患者では、課題志向型トレーニングの優位性を示さない。」と結論付けています。

 

今回の結果は、これまでリハビリで行われていた課題志向型トレーニングの有効性に警笛を鳴らすものであるかもしれません。

しかし、内容をよく見てみると、「通常のケア」としてどのようなことが行われていたかは記載されておらず、「課題志向型トレーニングvs従来のリハビリ」といった構図では言及できない可能性もあります。例えば、その内容が課題志向型トレーニングと非常に類似していたら、もちろんその効果は薄まります。また、欧米諸国のリハビリ手法は日本と比べて進んでいるとも言われているため、この結果をそのまま日本人に当てはめるのは難しい可能性もあります。

今後さらなる詳細な検証が重ねられ、どのような方法が良いかを国や文化も含めて検討していくことが望まれます。

執筆者

Shuhei Fujimoto

参考文献

Effect of a Task-Oriented Rehabilitation Program on Upper Extremity Recovery Following Motor Stroke: The ICARE Randomized Clinical Trial.

JAMA. 2016 Feb 9.

[PMID: 26864411]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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