プロテアーゼ阻害薬(抗HIV薬)
プロテアーゼという酵素を阻害することで、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の標的細胞でのウイルス粒子産生を阻害し感染拡大を抑える薬
プロテアーゼ阻害薬(抗HIV薬)の解説
プロテアーゼ阻害薬(抗HIV薬)の効果と作用機序
- プロテアーゼという
酵素 を阻害し、ヒト免疫不全ウイルス (HIV )の体内での感染拡大を抑える薬- HIVは
リンパ球 などに感染し、免疫 系を徐々に破壊することでHIV感染症を引き起こす - HIVは標的となる細胞に感染し
ウイルス 粒子を産生することで増殖していくが、ウイルス粒子産生に必要な機能タンパク質を作るためにはプロテアーゼという酵素などが必要となる - 本剤はプロテアーゼを阻害しウイルス粒子の産生を抑える作用をあらわす
- HIVは
- 本剤は他の抗
HIV 薬と併用し多剤併用療法に用いる
プロテアーゼ阻害薬(抗HIV薬)の薬理作用
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)は、免疫の中心的な役割を担うリンパ球(主にCD4というタンパク質を発現しているリンパ球)やマクロファージに感染し、免疫系を徐々に破壊することでHIV感染症を引き起こす。
HIV感染症の治療は一般的に、抗HIV薬を複数の種類(複数の成分)併用した強力な多剤併用療法(ART)を行う(なお、ARTは、HIVを抑制する効果がより強力な「キードラッグ」と呼ばれる薬とキードラッグを補いウイルス抑制効果を高める「バックボーン」と呼ばれる薬を組み合わせて実施することが一般的だが、近年では「キードラッグ」を2剤(2成分)組み合わせて行う方法なども治療の選択肢となっている)。
抗HIV薬はその作用機序により、NRTI(核酸系逆転写酵素阻害薬)、NNRTI(非核酸系逆転転写酵素阻害薬)、PI(プロテアーゼ阻害薬)、INSTI(インテグラーゼ阻害薬)などに分かれる。
HIVは標的細胞に吸着し細胞内に侵入した後、いくつかの工程を経て自身の遺伝子を宿主の染色体に組み込み感染を成立させる。その後、ウイルス粒子に必要な複合タンパク質が合成されるが、この複合タンパク質が機能するタンパク質になるにはプロテアーゼという酵素によって切断される必要がある。
本剤はプロテアーゼを阻害し、機能タンパク質の産生を抑える作用をあらわす。これによりウイルス粒子の組み立てが阻害され感染性ウイルス粒子を産生させないため、感染拡大が阻止される。
プロテアーゼ阻害薬(抗HIV薬)の主な副作用や注意点
- 消化器症状
- 下痢、吐き気・嘔吐などがあらわれる場合がある
- 精神神経系症状
- 頭痛、めまい、不眠などがあらわれる場合がある
- 皮膚症状
発疹 、痒み、紅斑 などがあらわれる場合がある- 頻度は非常に稀だが、重度の発疹、粘膜症状を伴う発疹などがあらわれる場合もあり、医師や薬剤師に連絡するなど適切に対処する
- 筋骨格症状
- 筋肉痛、関節痛、骨密度の低下などがあらわれる場合がある
高血糖 - 口渇、多飲、多尿、体重減少などがみられ、これらの症状が急にあらわれたり続いたりする場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
- 出血傾向
- 突発性の出血性関節症などがあらわれる場合がある
- 脂質
代謝 異常- 総
コレステロール ・LDLコレステロール・TG(トリグリセリド )などの数値上昇などを伴う脂質異常症があらわれる場合がある 動脈硬化 や心血管障害などの温床となることも考えられるため注意が必要- リポジストロフィーという体脂肪分布異常があらわれる場合がある
- 総
肝機能障害 倦怠感 、食欲不振、発熱、黄疸 、発疹 、吐き気、痒みなどがみられ症状が続く場合は放置せず、医師や薬剤師に連絡する
プロテアーゼ阻害薬(抗HIV薬)の一般的な商品とその特徴
ノービア
- リトナビル製剤(略号:RTV)
- 錠剤、液剤があり嚥下機能の低下した患者などへのメリットも考えられる
- 他のプロテアーゼ阻害薬の血中濃度を高く維持する(ブースター)目的で使用する場合がある
カレトラ
- ロピナビルとリトナビル(ノービアの成分)配合剤(略号:LPV/r〔又はLPV/RTV〕)
- 錠剤(配合錠)、液剤(配合内用液)があり、嚥下機能の低下した患者などへのメリットも考えられる
- 本剤は食事有無に関わらず服用可能
プリジスタ
- ダルナビル製剤(略号:DRV)
- 通常、リトナビル及び他の抗
HIV 薬と併用する
- 通常、リトナビル及び他の抗
- プリジスタ錠(600mg)に関して
- 通常、本剤1回600mgとリトナビル1回100mgを併用し、それぞれ1日2回食事中又は食直後に服用する
- 「抗HIV薬による治療経験があり少なくとも1つのダルナビル
耐性 関連変異を持つ患者」へ使用する
レクシヴァ
- ホスアンプレナビル製剤(略号:FPV)
- リトナビル(ノービアの成分)をブースターとして併用する場合がある
- 服用方法などに関して
- 治療内容などにより、1日1回で服用する場合と1日2回で服用する場合がある(処方医の指示に従い適切に服用する)
- 食事の有無に関わらず服用可能
レイアタッツ
- アタザナビル製剤(略号:ATV)
- 通常、1日1回、食事中又は食直後に服用する
プレジコビックス
- ダルナビル(DRV:プリジスタの成分)とコビシスタット(COBI)の配合製剤
- コビシスタットは他剤の血中濃度を高めるブースターの役割
- 服用方法に関して
- 通常、1日1回、食事中又は食直後に服用する
- 併用薬に関する注意
- 本剤中のコビシスタットは薬物
代謝 酵素 阻害薬であり、他の薬剤の効果を過度に高める可能性があるため併用薬に関しては特に注意が必要となる - シンバスタチン(主な商品名:リポバス)、トリアゾラム(主な商品名:ハルシオン)などとは本剤と併用禁忌(併用しないこと)となる
- 本剤中のコビシスタットは薬物