えいちあいぶいかんせんしょう
HIV感染症
HIVウイルスに感染している状態。AIDSが発症していない状態も含む
5人の医師がチェック 39回の改訂 最終更新: 2022.11.29

Beta HIV感染症のQ&A

    AIDSの原因、メカニズムについて教えて下さい。

    時にHIV感染と混同しがちですが、HIVとはヒト免疫不全ウィルスによる感染のことを指します。このHIVに感染することが原因で高度の免疫不全をきたした状態をAIDS(後天性免疫不全症候群)と言います。 HIVに感染すると、体内でHIVが増殖してくると同時に、免疫細胞が徐々に減っていきます。そうすると、次第に健康な状態ではかからない様々な病気にかかりやすくなります。この健康な状態ではかからない病気は23個決められていて、HIVに感染した方でそれらの病気を1個以上発症した状態をAIDSと呼びます。

    HIVに感染したらすぐにAIDSになるわけではありません。通常は以下の流れで病状が進行していきます。

    ① HIV感染成立

    ② 急性感染期

    ③ 無症候期

    ④ AIDS発症期

    感染初期の急性感染期では、HIVのウィルスが急激に増加します。その後、ウィルスの量は一旦減り、無症状期と呼ばれる状態が訪れます。この期間に個人差はありますが、数年-10年程度の場合がほとんどです。ただ、この期間にもウィルス量は徐々に増加しており、パートナーにも感染させる可能性があるので注意してください。そして、段々と免疫細胞の数が減りAIDS期に至ります。

    AIDSは、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    2014年の報告では、新規のHIV感染者数は1091件で新規のAIDS患者数は455件でした。また、2014年に累積報告件数(凝固因子製剤による感染例を除く)は、HIV感染者16903件でAIDS患者7658件と両者併せて合計24561件となりました。

     ただし、これらは何らかの形で検査して判明して診断が確定した人数です。検査してないけれど実はHIV陽性という人が多数潜んでいることが考えられ、実勢はこの数字よりもだいぶ増えることが予想されます。

    AIDSの人が他に注意すべきことはありますか?

    病気をもらわない・うつさないためにsafety sexを心がけることが重要です。 また、AIDSが進行すればするほど、体調も死亡率も悪化してしまいます。早期発見が重要ですので、心当たりがある方は検査を行ってください。保健所で無料の検査を行っていますので、これを利用することもできます。

    HIV感染は、他人にうつる病気ですか?

    うつります。

    HIVは感染力が弱く空気や水に触れれば感染力を失うため、日常生活で感染することはまずありません。ですので、正確には日常生活でうつることは考えにくいですが、濃厚な接触をするとうつる可能性があります。

     感染経路は以下の3つがメインとなっています。
    ① 性感染:性行為の際に体液や粘膜を介してうつる。
    ② 母子感染:出産や授乳の際に母親からうつる。
    ③ 血液感染:汚染された血液の輸血(最近はほとんどない)や注射の回し打ちでうつる。
     そのうちの約9割が性行為を介する感染で、その大多数が男性同性間の性交渉によるものです。

    HIV感染は、遺伝する病気ですか?

    親がAIDS患者の場合は出産の際に、子供もHIVに感染するケースは多々あります。そのため、出産時には慎重な対応と専門的な施設での介入が必要です。

    AIDSの親は出産できますか?

    親がHIVに感染していることに気づかないで出産すると、約30%の子供はHIVに感染します。しかしその一方で、妊娠初期までに感染が分かり適切な対策をとることができれば、子供の感染率は1%程度まで下がります。

     具体的には以下の対策を取ります。

    ・妊娠14週以降に、抗HIV薬を服用する。
    ・分娩時には抗HIV薬を点滴する。
    ・帝王切開で分娩する。
    ・母乳栄養は行わない。
    ・新生児に抗HIV薬(レトロビルシロップ)を6週間飲ませる。

     また、これらの対策をとっても子供がHIVに感染している可能性はあり得ますので、1歳半までは定期的にHIV検査を行います。

    HIVに感染するとどんな症状で発症するのですか?

    感染初期の急性期にはインフルエンザに似た症状(39-40℃の発熱など)が出ることがあります。HIVに感染してから約2週間後に発症し、これは数日から数週間後には治まります。ただし、人によっては必ずしも初期症状があるわけではないですし、単なる風邪だったということも多いため、症状だけでHIVに感染したと判断することは出来ません。

     その後無症候期に入ると症状は出なくなりますので、この時期も検査なしでHIV感染を証明することは難しいです。

    AIDSの症状について教えて下さい。

    AIDSの指標とされている23疾患それぞれによる症状が起こります。中でも、ニューモシスチス肺炎、カンジダ感染、サイトメガロウィルス感染が主に認められ、咳や息苦しさ、吐き気、飲み込みづらさ、胸部の痛み、発熱、だるさなどの症状が出現します。

    AIDSが重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    AIDSが重症化すると合併症が重複してきます。そのため、各々の疾患による多彩な症状が出現してきます。また、HIV感染自体による、発熱・倦怠感・下痢等の症状も出現します。

    HIV感染は、どのように診断するのですか?

    まずは簡易検査で血液を用いて検査します。これに関しては、簡易とはいえ非常に優れている精度を誇っており、陰性と結果が出た場合はほとんど間違いなく陰性です。ただ、陽性と出た場合は、実際にはHIVにかかっていない人が数%まぎれていると言われています。そのため、精密検査が必要となります。(罹患者の割合が低い疾患の場合は、どんなに優れた検査でもこういったことが起こります。)

    HIV感染の、その他の検査について教えて下さい。

    簡易検査で陽性となった方はさらに確認検査を行います。これで陽性となった場合はHIV感染症が確定します。但し、HIVに感染して間もない場合は血液検査では陰性となり、感染していることが検査では分らない時期があります。これをウインドウピリオドと言いますが、通常感染してから4週間くらいがその時期にあたりますので注意が必要です。

    AIDSと診断が紛らわしい病気はありますか?

    AIDSは免疫が弱ってしまう病気です。免疫不全に至る病気はAIDSと似た症状をきたすことがあります。ただ、AIDSは後天的という名の通りに、産まれた後から免疫が弱っていく病気です。また、感染の経路も概ね把握されています。したがって、今までどんな病気をしてきたか・家族にどんな病気の人がいるか・薬物乱用していないか・同性間性交をしていないか・コンドームをしないでsexをしていないか等を確認することで、病気を絞ることができます。

    HIV感染の治療法について教えて下さい。

     治療としてウィルス増殖を防ぐ薬を週種類飲みます。但し、これらの薬は強い薬ですので、副作用が出現しやすい欠点があります。そのため、やみくもに内服すればよいわけではありませんので、HIV感染の進行の程度を免疫の状態を見ながら把握し、治療開始のタイミングを図る必要があります。

     また、非常に重要なのが「毎日飲む」ことです。ウィルスの増殖力が強いので、一日飲み忘れるだけでウィルスは勢いを盛り返してきます。飲み忘れがないように、アラーム設定をしたりパートナーに注意をお願いしたりして、飲み欠かさないための背景設定も需要となります。

    HIV感染の治療薬の使い分けについて教えて下さい。

    HIVと言っても実はそれぞれで顔つきが違ってきます。日本人と言っても色んな人がいるように、Aさんに感染しているHIVとBさんに感染しているHIVは違っています。(例外として、AさんからBさんに感染した、あるいは逆の場合は同じウィルスの可能性が高いです。) 具体的には、HIVの細かい検査を進めていくと、治療薬に関してこの薬は効くけどこの薬は効きにくいということがしばしば起こります。ですので、治療薬は患者さん一人一人に適した効果的なものを選ぶ必要があります。また、治療薬の副作用に関しても配慮が必要で、肝障害・腎障害・骨粗鬆症等の副作用と患者さんの状態を考慮して選択していきます。

    HIV感染の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    HIV感染の治療薬は長期的に飲み続ける必要があります。ウィルスを完全に駆逐するには70年以上かかると言われており、基本的には一生涯薬を飲み続けることになります。但し、この治療薬は日進月歩で変化しており、近い未来にもっと短期間に完治できる薬が出てくる可能性は十分にあり得ます。

    AIDSでは入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    AIDSだから必ずしも入院が必要というわけではありません。しかし、合併症が重症なために入院が必要となる場合も多々あります。また、治療薬を飲み始めた段階は状態が不安定になりますので非常に注意が必要です。治療薬の副作用の出現のみならず、免疫再構築症候群という特殊な状態が出現し、治療しているのに状態が悪くなることがあります。その場合は、仮に定期外来で治療していても無理をせずに医療機関に罹ることをお勧めいたします。

    HIV感染に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。

     感染力のある体液が粘膜に接触するとHIVは感染することがあります。ここで、「することがあります」と書いたのは、一回の性交で感染する確率は0.1-1%と言われており、確率自体は低いものとなっているからです。しかし、HIVに罹らないよう努めることは、自分を守るだけでなく周囲の人を守ることになるため非常に重要です。

     具体的に感染力のある体液は、血液・精液・膣分泌液・唾液等ですが、汗は感染性がないと考えられています。これらを粘膜に触れないように気を付ければ、特に感染を心配して警戒しすぎることはありません。

    HIV感染は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    HIV感染が完治することはほとんどありませんが、過去に完治した(ウィルスが体から除去された)報告はあります。しかし、現実的には、今ある効果的な治療薬をもってしてもウィルスを駆逐するのに70年以上かかると言われており、この背景からも完治は難しいと考えた方が良いです。