Beta 慢性腎臓病のQ&A
- 高血圧の薬を内服します。中でもACE阻害薬やARBと呼ばれる薬は血圧を下げるだけでなく、尿タンパクも減らすことができるために用いられることが多いです。
- 塩分制限や減量、運動などの生活習慣の見直しを行います。詳細は次項以降でも解説しますが、慢性腎臓病と分かった段階で生活習慣を改善することは有効です。
- 血液透析
- 最も選択されている割合の高い治療法です。詳細は次項以降で解説します。
- 腹膜透析
- お腹の中に管を通し、そこから透析液と呼ばれる液体を入れて行う治療です。
- 透析液を数時間入れておくことで、体内の老廃物や余計な水分が、透析液の中に溶け込むことになります。最後にその透析液を再びお腹の中から外へ出して捨てることで、体内の老廃物と水分を取り除こうとする治療です。
- 多くの場合、自宅で毎日、自身の手で行うことになります。血液透析よりもじっくり時間をかけて行う(それでいながら日常生活は行える)ため、短期的には体への負担が小さい治療であると言えます。
- 体内の腹膜と呼ばれる部分にかかる負担は徐々に積み重なっていきますので、6〜8年間を目安に中止を検討しないといけません。
- 腎移植
- 透析と異なり、腎機能という点からは圧倒的に優れた方法です。移植を行えば、免疫抑制剤と呼ばれる内服薬を飲み続けること以外には、慢性腎臓病のない人にかなり近い生活を送ることができます。
- ご家族からの提供を受ける生体腎移植と、亡くなった方の提供を受ける献腎移植があります。腎臓を提供いただける方はどなたでも良いわけではなく、学会の定めた検査をクリアできた健康な方に限られます。
- 腎臓の障害を表す検査結果がある(尿、血液、画像、生検など)
- 血液検査でGFRが60ml/min/1.73m2未満
- 体内からの老廃物の除去
- 体内の水分量の調整
- 体内の電解質の調整
- 血圧の調整
- 血液の産生を助ける
- 骨の産生を助ける
- 尿検査
- 尿タンパク、尿アルブミン:腎臓の障害が強くなると値が上昇する
- 血尿の有無:血尿の出やすさは慢性腎臓病の原因にもよるが、血尿があると慢性腎臓病が進行しやすいことが知られている
- 血液検査
- クレアチニン:腎臓の機能を反映する最も簡便な検査です。この値によって慢性腎臓病の重症度(ステージ)が決定されます
- 電解質:腎機能が低下すると、カリウム、リン、カルシウムといった電解質の血液濃度が変化します。カリウムとリンは上昇し、カルシウム低下します。この値が一定の範囲から外れると、不整脈やだるさなど様々な病態の原因となるため、食生活や内服薬、血液透析で適切にコントロールすることを目指します
- ヘモグロビン値:慢性腎臓病では、ヘモグロビン値が低下して貧血を起こします。この有無や程度を確認します
- 尿酸値:腎機能が低下すると尿酸値が上がり、また尿酸値が上がると腎機能が低下するという、この二者は互いに影響し合う関係にありますその程度を確認します
- 重炭酸イオン、pH:血液が酸性になりすぎると腎機能低下につながり得るため、酸性度を測ります
- 糖尿病がある場合、または無くてもタンパク尿(アルブミン尿)がある場合には130/80mmHg未満が推奨されています。
- 糖尿病がなくて、かつタンパク尿(アルブミン尿)がない場合には140/90mmHg未満が推奨されています。
- アルコール度数10%のワイン100mlであれば、
0.1 × 100 x 0.8 = 8g - アルコール度数5%のビール350mlであれば、
0.05 × 350 x 0.8 = 14g
慢性腎臓病の治療法について教えて下さい。
まず原則として、慢性腎臓病のもとになっている病気の治療が必要になります。高血圧であれば血圧を下げる治療、糖尿病であれば血糖値が高くなりすぎないような治療、腎炎であればステロイド薬などを用いた腎炎の治療を行います。その上で次のステップへ進みますが、多くの場合、慢性腎臓病を根治させることは困難です。悪い状態を改善させるというよりも、それ以上悪化させない、腎不全への進行を抑える、といった認識が実際に近いかもしれません。
・進行を予防するために行われる治療
このような治療を行っても、残念ながら末期腎不全になってしまうケースは少なくありません。そのような場合には腎代替療法という、腎臓の機能を肩代わりさせるような治療が必要となります。
・腎代替療法
慢性腎臓病の原因とメカニズムについて教えて下さい。
慢性腎臓病とは、腎臓の機能が長期的に低下している状態を指す言葉です。原因となる病気は1つではありません。よく知られているものですと高血圧や糖尿病などの生活習慣病が原因の1つですが、それ以外には、慢性腎炎というような腎臓そのものの病気が原因となることもあります。
腎臓の主な仕事は老廃物の除去と水分の調整ですが、この仕事をする腎臓の一部分を糸球体といいます。糸球体は両方の腎臓に100万個ずつあります。腎臓に障害が及ぶとこの糸球体が少しずつ壊れてしまいますが、そうすると残りの糸球体の仕事量が増えます。これによって過剰な負荷がかかった残りの糸球体も壊れていくという、負のスパイラルが生じているのが多くの慢性腎臓病です。したがって慢性腎臓病になった腎臓は、徐々に悪化していくケースが多いと言えます。ただしそのスピードは人それぞれです。
慢性腎臓病は、どんな症状で発症するのですか?
慢性腎臓病は発症したばかりの段階、つまり血液検査で診断がつくはじめの段階では自覚症状があまりありません。ただし、尿の中に様々なタンパク質(アルブミンもこの一種です)が漏れてくるようになります。
この原因は多くの場合、生活習慣病や腎炎なのですが、この腎障害は徐々に進行していきます。腎臓の機能を表す指標に糸球体ろ過量(GFR)という血液検査の項目がありますが、これが正常の半分程度になると、自覚症状が出てき始めます。
慢性腎臓病は、どのように診断するのですか?
慢性腎臓病には診断基準があります。以下1, 2のいずれかまたは両方が3ヶ月以上持続していること、というのが診断基準です。
診断基準については、上記の通りです。一方で、慢性腎臓病の診断がつくことと、そうなった原因を確定させることは別の問題です。
タンパク尿や血尿の有無なども参考にしながら、糖尿病が原因のもの、高血圧が原因のもの、膠原病が原因のものなどを診断することが重要です。それは、同じ慢性腎臓病であっても、原因が違えば細かな治療が変わってきたり、長年の経過で病状が進行するペースが違ったりするためです。
腎生検(背中から針を刺して腎臓の一部を採取して行う検査)を行うと、多くの場合に慢性腎臓病に至った原因を特定することができます。
慢性腎臓病は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?
慢性腎臓病の患者数は、日本人の8人に1人と言われています。これを聞くと、かなり多いという印象を受けるかもしれません。慢性腎臓病の初期では自覚症状がでないので、これらの人も含めた数値です。この8人に1人全員が重症の慢性腎臓病(腎不全)というわけではありません。
慢性腎臓病の、主な症状について教えて下さい。
腎臓の担っている仕事は多岐にわたり、以下のようなはたらきを持っています。
慢性腎臓病が進行すると、これらのことがうまくできなくなります。
初期には尿の量が増えたり、貧血によってすぐに息切れが生じるように感じられたり、血圧が上がったりすることがあります。より腎臓の機能が低下してくると次に尿の量が減ってきて、だるさや吐き気などによる食欲不振、体力の低下、動悸、めまいなど様々な症状が出現します。
慢性腎臓病の、定期的な通院外来で行う検査について教えて下さい。
通院で行う定期的な検査としては、主に以下のようなものがあります。
慢性腎臓病で見られる、タンパク尿、アルブミン尿とは何ですか?
通常、尿の中にはタンパク質はほとんど含まれていません。これは腎臓のろ過装置である糸球体がタンパク質を漏らさないように働いているからです。しかし、糸球体に障害をもたらすような状況(生活習慣病や腎炎など)があると、タンパク質(アルブミン)が尿の中へ漏れ出ることになります。慢性腎臓病になると尿中にこのようなタンパク質が出てくるようになり、この状態の尿をタンパク尿と言います。
アルブミンはタンパク質の一種であり、こちらも尿の中に本来は含まれない物質です。これらを検査することで、腎臓の障害をおおまかに確認することができます。慢性腎臓病の中でも特に糖尿病が原因のものについては、尿中アルブミンの検査で早期発見がしやすいとされています。
またこれら尿の中に漏れ出てしまったタンパク質は、腎臓の一部を障害するという特徴ももっています。つまりタンパク尿(アルブミン尿)は慢性腎臓病の結果でありながら、慢性腎臓病を進行させる原因にもなっていると言うことになります。
慢性腎臓病で、塩分はどの程度控えたほうが良いのですか?
塩分摂取は高血圧や心血管疾患(脳卒中、心筋梗塞など)と関連があるため、塩分の量は適度に制限することが良いと考えられ、1日6g未満にすることが推奨されています。ただし、1日3g未満にまで制限することは、かえって悪影響が懸念されるため推奨されていません。
2011年の国民健康・栄養調査結果では、(慢性腎臓病の有無によらず)国民の平均食塩摂取量は、1日あたり10.4gであったと報告されています。塩5gは小さじ1杯分に相当しますので、日本人の平均的な食生活を送っていた方からするとかなり薄めの味付けです。塩分の代わりに酸味や、程よい辛み、和風だしなどで味付けを工夫することが良いでしょう。
一方で、体内の塩分(ナトリウム)バランスは食事から摂取する量だけでは決まりません。自身に合っていない塩分制限で、誤って脱水や低ナトリウム血症といった状態になることのないよう、定期的に採血などで血液中のナトリウム濃度を測定しながら塩分制限を行うようにします。
慢性腎臓病が重症化すると、どのような症状が起こりますか?
慢性腎臓病が重症化すると、腎臓がその役割を果たすことができなくなってしまいます。
体内の電解質の調整ができないと、例えばカリウムと呼ばれる電解質が体内に溜まりすぎてしまいます。これが一定の水準を超えると、不整脈の心臓発作(心室頻拍)が極めて生じやすくなって命に関わります。また、体内に水分が溜まり過ぎると、肺にも水が溜まる肺水腫と呼ばれる状態になって、呼吸が苦しくなってしまいます。
一旦低下してしまった腎臓の機能を根本的に元通りにするのは現代の医学では困難であり、このような水準まで腎機能が低下した場合には、血液透析など、腎代替療法と呼ばれる治療以外の選択肢がなくなってしまいます。
慢性腎臓病と診断が紛らわしい病気はありますか?
慢性腎臓病によって出現する症状は多彩であるため、これらの症状が出現する他の病気と間違える可能性はあります。貧血だけだと思っていたら慢性腎不全(による貧血)だった、心不全の検査をしていたら慢性腎臓病が原因の心不全だったというようなケースです。
一方で、慢性腎臓病の診断自体は血液検査でクレアチニン(Cr)という項目を見て多くの場合診断をつけることができますので、実際に腎不全を見逃してしまうケースというのは少ないと思われます。
慢性腎臓病で、体重はいくつくらいを目標にすれば良いのでしょうか?
体重は、BMIで20-25を目標にすることが推奨されています。
適切な体重を維持することで、血圧の低下、タンパク尿の減少、インスリン抵抗性の改善(血糖値が下がりやすくなる)などの効果が期待されます。
ただし、これはあくまでも長期的な体重管理の目標です。血液透析や腹膜透析を行っている患者さんは、心エコーやレントゲン、血圧などを見ながら(短期的に)最適な体重を決定して透析を行います。これはドライウエイトといって、透析を行う際に透析後の体重を決める目安にします。例えばドライウエイト45kgの人が透析前に体重47kgだったとしたら、この2kg分の水分を取り除くことを透析の目標にします。
短期的な目標体重としてのドライウェイトと、長期的にどの程度の体重を目指していくかの目標については、区別して考える必要があります。
慢性腎臓病が発症しやすくなる、または慢性腎臓病の人が他に注意すべき病気はありますか?
慢性腎臓病の人は、心筋梗塞1)や脳卒中などの心血管疾患を起こしやすいと言われています。タンパク尿、アルブミン尿はその指標となり、尿中のタンパク量やアルブミン量が増えるほど、心血管疾患が発症しやすくなるとされています。
慢性腎臓病で、運動はどの程度行うのが良いのでしょうか?
1回30分以上、週5回の運動を目標とすることが推奨されています。
運動によって血圧、血糖値やコレステロール値の改善が期待できますので、定期的な運動習慣をもつことが大切です。
上記のような頻回の有酸素運動を行うことで様々な効果があるという研究は数多くありますし、可能であれば30分以上週5回を目標とすべきです。しかしながら、生活環境によってはそれが難しいという人もいます。上記の回数や時間はあくまでも目安であり、それを下回る量であっても効果はあると考えられますし、特別に時間を取らなくても通勤や通学中のウォーキング(できれば汗ばむ程度)も有酸素運動には含まれます。
慢性腎臓病は、遺伝する病気ですか?
慢性腎臓病の多くは直接的に遺伝することはありません。また慢性腎臓病そのものは病気と言うよりも状態を指す言葉ですから、正確に表現しようとすれば、「慢性腎臓病の原因となるいくつかの病気は、それぞれ遺伝するものかどうか」が重要になります。
慢性腎臓病の中の一部には高い確率で遺伝するものもあり、常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)と呼ばれる病気が有名です。ADPKDは、両親のいずれかがADPKDの場合、半分の確率でお子さんに遺伝することになります。また、小児の先天性腎尿路奇形と呼ばれる、生まれつきの腎不全を引き起こす病気も遺伝することがあります。
一方で、糖尿病などの生活習慣病にもある程度の遺伝性はあるわけですから、その影響で起こる慢性腎臓病にも、間接的な遺伝性がないとは言えません。
慢性腎臓病で、血圧はどの程度ならば大丈夫なのでしょうか?
目標とする血圧の値は、慢性腎臓病に加えて、糖尿病があるかどうかで変わります。
高血圧が続くと慢性腎臓病が進行することと、また心血管疾患(脳卒中や心筋梗塞など)を発症する可能性が上昇するため、高血圧は適切に治療することが勧められています1)。
慢性腎臓病で、お酒は飲んでも良いのでしょうか?
アルコールの摂取量は、エタノール換算で1日あたり男性20g、女性10gを超えないのが望ましいとされています。
飲酒量のエタノール換算とは、飲酒量にアルコール度数と"0.8"をかけた数値のことです。例を挙げると次のようになります。
アルコールの摂取は、一時的そして慢性的な血圧上昇につながりますので、健康のためには節酒に努めることが良いとされています。
慢性腎臓病で行われる、血液透析とはどのような治療法ですか?
血液透析とは、血液を体の外に出し、老廃物を取り除いた後に再び体の中へに血液を戻す方法です。体の太い血管に点滴のような針を刺した上で血液を吸い出して、透析の機械の中を通った後に別の血管へ再び戻すことになります。
この治療を行うためは透析に適した血管を作成する必要があり、これはシャントと呼ばれます。静脈と動脈を手術によってつなぎ合わせることで、透析を行う条件に適した血管が得られることになります。
血液透析は一般的には週に3回、1回4時間程度かけて行われます。血液透析自体はとても効率よく老廃物を取り除いてくれる治療なのですが、1週間で12時間ですから、1週間で168時間(24時間×7日)も働いている本来の腎臓と同じようには仕事をすることができません。おおまかにいうと普通の腎臓の機能の10%程度を肩代わりすることができるに過ぎないと考えると良いかもしれません。したがって、食事制限や水分制限などは血液透析を行っていたとしても、継続する必要があります。
慢性腎臓病で一度透析を始めたら、一生続けなければならないのですか?
慢性腎臓病のうち、透析が必要となる末期腎不全の治療は大きく分けて3つあります。血液透析と腹膜透析、そして腎移植です。
透析は腎臓の代わりをしてくれる治療ですから、腎臓の回復が見込めない慢性腎不全では一生続けないといけないことになります。一方で腎移植については、腎臓そのものが入れ替わる治療ですので、免疫抑制剤を飲み続けなければならないということはありますが、透析そのものはやめることができます。
慢性腎臓病では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?
慢性腎臓病には多くの場合、その原因となる別の疾患があります。高血圧や糖尿病、慢性腎炎などが多いのですが、それぞれの治療を目的として入院することもあります。
慢性腎臓病自体では、少なくとも軽症の段階での入院は不要です。実際に慢性腎臓病が進行してきた場合には、薬剤の導入などに際して1週間程度の入院が必要となることもあります。
最終的に透析を開始する場合には、透析をするための手術(シャント作成術)や、最初の透析の設定を決めるために入院をすることがあります。こちらも1-2週間程度が標準的な期間です。
慢性腎臓病は、治ることのある病気ですか?
慢性腎臓病は残念ながら、今の医学では完治させることはできません。ただし日本の透析の技術は世界的にみても非常に優れていて、40年以上血液透析を継続しているケースもあります。海外では日本と比較すると、長年血液透析を続けている間に心筋梗塞や脳卒中などの他の疾患を発症して透析の継続ができなくなってしまうことがあります。これらの発症率が高まることは慢性腎臓病の結果として避けられないことではありますが、高い水準の血液透析を行うことによって、長期的な発症率はある程度低く抑えることが可能です。
また腎移植の成功率も高いため、腎移植を行った場合には、免疫抑制剤などの内服は必要ですが、慢性腎臓病のない方にかなり近い生活を送ることができます。