Beta 大動脈弁狭窄症のQ&A
- 心臓の働き
- 心臓はポンプの役割をもち、全身へ血液を送り出しています。心臓には4つの部屋(空間)がありますが、その中でも特に重要なものが左心室です。左心室が縮んだり開いたりを繰り返すことによって、血液が全身へ行きわたります。
- 血液は左心室から大動脈へ送り出されるのですが、そこには大動脈弁と呼ばれるドアのようなもの(弁)があります。何らかの原因でこの大動脈弁が開きにくくなってしまったのが、大動脈弁狭窄症です。
- 大動脈弁狭窄症で起きていること
- 大動脈弁(血液の出口)が狭くなればなるほど、血液を送り出すのには大きな力が必要になります。たとえるならば、細いストローであるほど、水や空気を通すのに大きな力がいるのと同じ理屈です。これによって左心室に常に負荷がかかってしまうのが大動脈弁狭窄症です。
- 大動脈弁狭窄症の原因
- 以前はリウマチ熱という病気の後遺症としての大動脈弁狭窄症が多かったのですが、最近では医学の進歩とともに減ってきました。逆に主要な原因になりつつあるのが加齢にともなう大動脈弁狭窄症です。
- その他の原因としては、生まれつき大動脈弁の形に異常がある場合(「二尖弁」ほか)などがあります。
大動脈弁狭窄症は、どんな症状で発症するのですか?
軽症のものでは特に症状がなく、健康診断の聴診や心電図で異常が見つかり、精査を経て診断がつくことがあります。逆にすでに何らかの症状がある大動脈弁狭窄症では、ある程度進行した状態である可能性が高まります。
大動脈弁狭窄症に起きる症状として多いのは、運動時の息切れや足のむくみ、体重の増加といった心不全症状、運動時などで胸に締め付けられるような痛みが生じる狭心症症状、突然意識を失ってしまう失神発作です。
大動脈弁狭窄症の治療法について教えて下さい。
軽度から中等度の大動脈弁狭窄症であれば、特に治療を行うことなく、経過を見ることがあります。ただし半年から1年おきに心エコー検査を受けた方が良い場合もあるため、決して放置しても良いというわけではありません。
大動脈弁狭窄症による症状が出現している場合や、症状がなくても重度の大動脈弁狭窄である場合、また心機能が低下している場合などは早期の治療が必要となります。息切れやむくみなど、心不全の症状が出現している場合には利尿薬などの薬を使用しますが、内服薬はあくまでも対症療法です。これで弁そのものが治るというわけではありません。
根本的に弁を治療するためには外科的治療(手術)が必要です。大動脈弁置換術と言って、狭くなった大動脈弁を切り取り、新しく人工弁を付け替える手術になります。人工弁には機械弁と生体弁がありそれぞれに長所、短所があるため、個人個人で、どちらが適しているかを慎重に判断し、相談の上で方針を決定します。
大動脈弁狭窄症の原因、メカニズムについて教えて下さい。
大動脈弁狭窄症の原因、メカニズムについて理解するためには、まず心臓の働きについての理解が必要です。
大動脈弁狭窄症は、どのように診断するのですか?
診断の上で最初のきっかけとなるのは聴診です。大動脈弁狭窄症などいくつかの疾患では心臓の音と一緒に余計な音が聞こえることがあり、これを心雑音と呼びます。
また、心電図やレントゲンで直接大動脈弁狭窄症を診断することはできませんが、心拡大や心肥大といった所見があると、大動脈弁狭窄症を疑うきっかけになります。
他の弁膜症と同様に、最終的な診断は主に心エコー検査でなされます。心エコー検査で狭窄を起こした大動脈弁を観察し、また血液の速度を測定すると、大動脈弁狭窄症の重症度を判定することができます。
心エコー検査には経胸壁エコー(胸の上から超音波をあてる)と経食道エコー(食道の中から超音波をあてる)があります。経食道エコーは胃カメラと同じように管を飲み込んで行う検査です。苦痛をともなうこともあるので経胸壁超音波でまずは診断をつけて、場合によっては経食道エコーでさらに精査を行うことがあります。
大動脈弁狭窄症は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?
大動脈弁狭窄症をもっていても、気付かずに病院を受診しないまま生活している方も多いと考えられます。そのような方も大勢いることから、正確な頻度は不明です。
ただし、今後社会の高齢化によってますます患者数は増えてくると考えられっています。
大動脈弁狭窄症の、その他の検査について教えて下さい。
大動脈弁狭窄症を詳しく調べるための検査として、カテーテル検査を行うこともあります。カテーテルとは血管の中を通す細い管のことです。これを心臓の中(左心室)に挿入することで、内部のいくつかの箇所で圧力を測定すると、大動脈弁狭窄症の重症度を判断することができます。これとセットで行う検査として、冠動脈造影検査、スワンガンツカテーテル検査を行うこともあります。
また、胸部CTを行うことがあります。これによって直接大動脈弁狭窄症の程度を判断することはできませんが、弁の性状を確認したり、手術が必要な場合には手術前の検査の一環として用いられたりすることがあります。
大動脈弁狭窄症の手術で用いられる、機械弁と生体弁はどう違うのですか?
生体弁は牛の心膜や豚の弁を用いて作られた弁です。機械弁に比べて耐久性に劣るため15年程度で劣化し、再度の手術が必要になる場合があります。
機械弁は人工的に作りだした弁でカーボンやチタンなどから作られています。生体弁に比べて耐久性に優れる点がメリットですが、血液と接触して血が固まりやすく、血栓を形成するリスクが高いため抗凝固薬(ワルファリン)を生涯内服し続ける必要があります。
どちらもメリットとデメリットがあるため、個人個人で、どちらがより適しているかを検討することになります。
大動脈弁狭窄症と心臓弁膜症の違いについて教えて下さい。
心臓には大動脈弁以外にも僧帽弁、三尖弁、肺動脈弁があります。
心臓弁膜症とは心臓の弁に関わる病気全体のことを指しますので、大動脈弁以外の僧帽弁疾患、三尖弁疾患なども含めて弁膜症と呼びます。大動脈弁狭窄症も弁膜症の中のひとつです。
大動脈弁狭窄症が重症化すると、どのような症状が起こりますか?
心不全症状、狭心症、失神発作を呈するような重度の大動脈弁狭窄症があると、最悪の場合には突然死のリスクもあるため早期の治療が勧められます。
このような進行した大動脈弁狭窄症は命に関わるリスクが高く、症状が出現してからの平均余命は狭心症症状があると5年、失神発作があると3年、心不全症状があると2年とする報告もあります。ただし、これはあくまでも統計的な数値であって必ずしもその通りであるというわけではありません。
できればこのような症状が出現する前に診断をして、必要なタイミングで適切な治療を行うことが重要です。
大動脈弁狭窄症には、手術以外の治療法はないのでしょうか?
手術の一種ではありますが、いわゆる胸を切開して行う手術とは異なる方法として、血管内手術と呼ばれる方法があります。これはカテーテルを使った治療の一種です。
カテーテルを使って大動脈弁を新しいものに置き換える「経カテーテル大動脈弁留置術(通称TAVI)」が、2013年から日本でも保険診療で行われるようになりました。この方法であれば胸に大きな傷を作ることなく、足の付け根から針を刺したり、胸の小さな切開などで手術が行えます。
ただし日本ではまだこの治療が行える施設(施設基準が厳密に定められています)が限られています。また、大動脈弁狭窄症の重症度やその他の病気の有無、年齢などの条件によって、この治療を受けられるかどうかも変わってきます。実際にTAVIを行っている施設を受診して、ご自身が治療を受けるための条件を満たしているかどうか相談することが必要です。ご希望があれば、一度主治医に尋ねられてみても良いでしょう。
大動脈弁狭窄症と診断が紛らわしい病気はありますか?
聴診の心雑音のみでは他の弁膜症と区別がつきにくいことがあります。しかし最終的には心エコー検査で弁を直接確認して診断するため、心エコー検査を行いさえすれば、診断に苦慮することはあまりありません
一方で、重度の大動脈弁狭窄症になると心臓の馬力が弱ってしまい、心エコー検査で正確な重症度を測定することが難しくなってしまうことがあります。実際は重症であるにもかかわらず、過小評価で軽症と判断されてしまうことがあるため注意が必要です。
大動脈弁狭窄症の人が他に注意すべき病気はありますか?
大動脈弁狭窄症の人に起きやすい症状や病気としては、心不全、狭心症、失神発作といったものがあります。大動脈弁狭窄症があることで心臓には常に負担がかかっていて、これによって心不全症状が表れます。また、弁が狭くなっていて一度に少しずつの血液しか通ることができないために、狭心症、失神発作といった症状につながることがあります。
そして大動脈弁狭窄症の方は、頻度が多くはないものの感染性心内膜炎という疾患に注意する必要があります。抜歯などの歯科治療後や、怪我などが原因で細菌が血中に入り込んだ場合、細菌が大動脈弁に巣をつくることがあります(この細菌のかたまりを、医学的には「疣贅(ゆうぜい)」と呼びます)。
長期間の抗菌薬療法を必要とし、脳梗塞の原因となることもあれば、心臓の手術が必要となる場合もあります。感染性心内膜炎になると原因不明の微熱が続くことがありますので、このような症状があれば早めに医療機関を受診して精査する必要があります。
大動脈弁狭窄症の治療薬の使い分けについて教えて下さい。
内服薬は一般的に、大動脈弁狭窄症による心不全症状(息切れやむくみ)などを軽減させるために用います。体内に水分が溜まりすぎてむくみが生じている場合には利尿薬を使用しますし、心臓の負担が強い場合には強心薬を用いることもあります。一般的な心不全治療に用いられる血管拡張薬などは、逆に症状を悪化させる場合もあるので注意が必要です。
大動脈弁狭窄症は、他人にうつったり、遺伝したりする病気ですか?
大動脈弁狭窄症は感染症ではないので他人にうつる病気ではなく、またこれ単独で遺伝する病気でもありません。
ただし大動脈弁狭窄症の中には「二尖弁」が原因となるものがあり、こちらについては遺伝性の素因や傾向があります(親子間で必ず遺伝する、というものではありません)。その他の原因も含めて間接的な遺伝的要素はありますが、いわゆる遺伝病や遺伝子疾患に含まれる病気ではありません。
大動脈弁狭窄症では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?
自覚症状のない軽症から中等症の大動脈弁狭窄症であれば、必ずしも入院は必要ありません。場合によって半年から1年おきを目途に、外来で検査を受けながら経過観察をすることなどが多いのではないでしょうか。
一方で、胸の痛みや息切れ、むくみなど大動脈弁狭窄症によると思われる自覚症状が出現している場合や、手術を早期に検討していく場合には入院が必要となることが多いです。
大動脈弁狭窄症は、治療を受けても再発することがありますか?
手術(弁置換術)を受けた後でも術後の弁の不具合や、人工弁が壊れたりすると再発することがあります。大動脈弁狭窄症が再発することに加え、大動脈弁閉鎖不全症(逆流症)といった別の病気を発症することもあります。
手術後でも症状が悪化した際や、胸の痛みや息切れなどの症状が新しく出現したときには、早めに医療機関を受診する必要があります。
大動脈弁狭窄症に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。
大動脈弁狭窄症と診断されても、程度が軽く症状がなければ日常生活に特に制限をかける必要はありません。
一方で、早期に病状が進行することもあるので、医師と相談しながら定期的な検査が必要な場合もあります。指示がある場合の外来受診(心エコーなど)は怠らないようにしましょう。また、それまでになかったような症状(特に息切れや足のむくみ、胸痛、失神など)が出現したときは病状が悪化している可能性がありますので、早めの医療機関受診が必要です。
大動脈弁狭窄症で大切なのは手術の時期です。症状が出現してから行う手術や、無症状でも検査の結果が重症の場合には、治療を行ってもその後の経過があまり良くありません。無理に早くする必要はありませんが、手術の適切な時期を逃さないよう、主治医と相談が必要です。
また大動脈弁狭窄症の影響で発症することのある感染性心内膜炎には注意が必要ですので、弁膜症のある方は抜歯などの歯科治療を行う際、歯科医師にその旨を伝えることが大切です。歯科治療の内容によっては、事前に抗菌薬を内服するなどの対応をとることがあるためです。原因不明の発熱が長く続くときも、早めに医療機関を受診するようにして下さい。