肩関節脱臼の基礎知識
POINT 肩関節脱臼とは
いわゆる「肩が外れた状態」のことです。肩に急激な力が加わることが原因で、身体接触の激しいスポーツ(ラグビーや柔道など)や転倒、交通事故で起こることが多いです。腕の骨が前側に外れる(前方脱臼)か後ろ側に外れる(後方脱臼)かで2つのタイプに別れますが、前方脱臼がほとんどです。画像検査を中心に肩を詳しく調べられ、手術もしくは保存的治療(安静にして回復を促す)のどちらかが選ばれます。肩関節脱臼の診療は主に整形外科で行われます。
肩関節脱臼について
- いわゆる「肩が外れた」状態
- 肩に急激な重みがかかったり引っ張られたりすることによって起こる
- 主な原因
- ラグビーや柔道などの身体接触の激しいスポーツ
- 転倒
- 交通事故
- 10-20代で起こることが多い
- 前方脱臼と後方脱臼に分類される
- 前方脱臼:腕の骨が前の方に外れた状態
- 後方脱臼:腕の骨が後ろの方に外れた状態
- 前方脱臼がほとんど
肩関節脱臼の症状
- 肩の痛み:動かすと、主に肩の前方に痛みを感じる
- 肩を動かすことができない:自分では動かすことができないが、医師による補助があれば動く
- 肩の丸みがなくなる(肩の部分に「くぼみ」ができる)
肩関節脱臼の検査・診断
- 画像検査
レントゲン 検査:脱臼や、それに伴う骨折がないかを調べる- まず最初に行う検査
- 脱臼の方向を確かめる意味もある
CT 検査:レントゲンで分からないような骨折を調べる- もしくは手術の方式を決定するために撮影する
MRI 検査:CT検査でも分からないような骨折や、骨と骨を結ぶ靭帯 のダメージを調べる
- 必要であれば関節や
軟骨 のダメージを調べるために関節造影 検査を行うこともある
肩関節脱臼の治療法
- 主な治療法
保存療法 :肩を整復した後に、三角巾 や肩専用の装具を使って固定する- 手術:
関節鏡 下手術(小さいカメラ を肩関節の中に入れて、肩の修復を行う) - リハビリテーション
- 保存療法または手術後に肩の働きを改善するために行う
- 脱臼しやすい動きがあるため、日常生活で危険な家事や腕の動きについて動作指導も行う
- 長期的な経過
- リハビリテーションを行うことで、スポーツに復帰できるレベルまでの肩の働きを改善することができることが多い
- 一度脱臼すると脱臼がくせになり、「反復性肩関節脱臼」になることが多い
肩関節脱臼の経過と病院探しのポイント
肩関節脱臼が心配な方
肩関節脱臼は、特に若い人では繰り返しやすい肩の障害の一つです。肩の骨同士は靱帯で結びつきながら、片方の骨のくぼみの中にもう一方の骨の先端が収まって本来しっかりと固定されています。しかし脱臼があるということは靱帯が傷ついたり、骨のくぼみが欠けたりして固定が弱まっているということですから、軽い力が加わるだけで再度脱臼を起こしやすくなっている状態でもあります。
肩関節脱臼は肩のケガの中でも比較的多いもので、スポーツなどで強い衝撃を受けた後から肩が痛くて腫れているような場合には、肩関節脱臼の可能性があります。それ以外に似た症状を来たす状況としては肩の骨や鎖骨の骨折といったものがあります。これらのいずれでも肩関節は腫れて強い痛みを伴うため、何度も繰り返している方以外では、症状だけからご自身で肩関節脱臼と診断するのは必ずしも容易ではありません。実際に医療機関を受診された後は、肩関節脱臼の診断は診察とレントゲンで行います。また靭帯の損傷を確かめるためにMRIが行われることもあります。
ご自身の症状が肩関節脱臼でないかと心配になった時、まずは整形外科のクリニックや、お近くの救急外来を受診されることをお勧めします。痛みで全く立ち上がれないという時には救急車での受診が適切でしょう。歩いての受診が可能で、結果的に骨折ではなく筋肉や靱帯の軽度の損傷であればクリニックで対応が可能です。もし診断が肩関節脱臼で手術が必要そうな場合には、レントゲンやその他行われた診察、検査の結果をまとめた診療情報提供書(紹介状)とともに、手術可能な病院を紹介してくれます。
受診先として、総合病院の救急外来は相対的に待ち時間が少ないというメリットもある一方で、専門の整形外科医ではなく広く浅く診察をする救急医が初期対応に当たることになります(日中は救急外来が開いていないこともあります)。総合病院の整形外科外来は、飛び込みで受診するには患者数が多く(待ち時間が長く)、また診療情報提供書を持っていないと受診ができなかったり、追加料金が必要となったりします。
肩関節脱臼でお困りの方
肩関節脱臼の場合、まずは脱臼を治すことが必要です。これを脱臼の整復と言います。麻酔を行った上で腕を引っ張りながら関節の位置が適切になるよう、骨を元通りにします。仰向けのまま行う方法や、腹ばいになって行う方法などさまざまな手法があります。
脱臼の整復は基本的には局所麻酔で行います。肩関節に注射をして行うことで痛みを和らげることができますが、それでも整復時には痛みが残ります。完全に眠ってしまう全身麻酔で整復を行うことも無くはないのですが、全身麻酔には様々な危険性があるため、気軽に行える処置ではありません。麻酔薬によって呼吸が止まってしまい人工呼吸が必要となってしまうリスクがあることや、麻酔薬が体から抜けるまで1泊入院が必要となることもあります。痛みを伴う局所麻酔の整復よりも、眠っている間に治して欲しいというご意見はよく聞くところではあるのですが、このような事情があり局所麻酔での整復を第一に考慮する医療機関が多いです。
脱臼を整復した後は、三角巾を装着して肩を動かさないようにして過ごします。平均的には3-6週間そのまま固定した後に徐々にリハビリを開始していきますが、ご高齢の方の場合にはあまり固定しすぎると肩の動く範囲が狭まってしまうため、この半分程度の期間に留めることが多いです。
肩関節脱臼を繰り返して日常生活に支障がある場合、またはスポーツを専門的に行っている方の場合には手術を受けるのも選択肢の一つです。肩関節を固定している靱帯や骨を修復する手術です。
手術を行う場合には、大きく分けて二通りの手段があります。直視下手術(肩に傷を開けて行う通常の手術)と関節鏡下手術(肩に小さな傷を開けて内視鏡で行う手術)です。関節鏡下手術の方が傷口が小さくて済むために術後の回復が早い、傷口が目立ちにくいというメリットがある一方で、関節鏡を用いた手術を行う施設は限られているのが現状です。病院によってどちらの手術を主体で行っているかが異なるため、受けられる治療が変わってきます。