ししついじょうしょう(こうしけっしょう)
脂質異常症(高脂血症)
悪玉コレステロールが多い、または善玉コレステロールが少ない状態。動脈硬化を速め、脳卒中や心筋梗塞を起こしやすくする
16人の医師がチェック 139回の改訂 最終更新: 2023.07.16

Beta 脂質異常症(高脂血症)のQ&A

    脂質異常症の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    脂質異常症の発症には、食生活や運動習慣が大きく関与しています。動物性脂肪やコレステロール、糖質の摂り過ぎなどによって、また、運動不足や喫煙習慣によっても、脂質異常症の診断基準に該当しやすくなります。

    しかし中には生活習慣によらず、特殊な疾患の影響で脂質異常症が起きてしまう場合もあります。家族性高コレステロール血症などの遺伝し得る病態や、甲状腺機能低下症という病気の影響で結果的に脂質異常が生じている例などが挙げられます。食生活、運動習慣などに比して脂質異常症の程度が著しい場合には、これらでないことを確認するために検査が行われることがあります。

    脂質異常症は、それ自体が強い症状を示すような病気ではありませんが、将来的に冠動脈疾患(急性心筋梗塞、狭心症)などの病気につながるリスクが大きいため、積極的に治療を行うことが推奨されています。

    脂質異常症は、どの程度の頻度で起こる病気ですか?

    30歳以上で脂質異常症が疑われる者の割合は、男性22.3%、女性17.7%とされています。

    参考:「平成22年 国民健康・栄養調査(厚生労働省)」

    脂質異常症はどんな症状で発症するのですか?

    脂質異常症には、多くの場合症状がありません。まれにある症状としては黄色腫(手、肘、膝、まぶたなどにできるしこり)やアキレス腱肥厚(アキレス腱が通常より硬く太くなる)といったものがあります。これらの症状は、家族性高コレステロール血症などで、血液検査の値が著しく基準値から外れているような場合に見られやすくなっています。

    脂質異常症は、どのように診断するのですか?

    空腹時に行った血液検査で、以下のいずれかを満たす場合に脂質異常症と定義されます。

    • 高LDLコレステロール血症:LDLコレステロールが140mg/dl以上
    • 低HDLコレステロール血症:HDLコレステロールが40mg/dl未満
    • 高トリグリセライド血症:トリグリセライドが150mg/dl以上

    なお、採血時の条件である空腹時とは、10-12時間以上の絶食(ただし水、お茶などは摂取可)が目安とされています。前日の夕食を最後に朝食抜きで行った採血などで判定されることが多いです。

    参考:「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)日本動脈硬化学会

    脂質異常症で、コレステロールと中性脂肪(トリグリセライド)は、いくつ以下を目標に治療するのでしょうか?

    トリグリセライドは150mg/dl未満、HDLコレステロールは40mg/dl以上を目標とします。

    LDLコレステロールは、冠動脈疾患に1度でもなったことがある場合には100mg/dlを目標とします。冠動脈疾患の既往が1度もない場合には、各自のリスクに応じて、目標値が160, 140, 120mg/dl未満の3段階に分類されます。

    参考:「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)日本動脈硬化学会

    この3段階のどこに分類されるかは、性別、喫煙習慣の有無、血圧、総コレステロール値、低HDL血症の有無、冠動脈疾患の家族歴の有無、耐糖能異常(食後の血糖値が高い)の有無によって700パターンほどに細かく分けられた上で定められています。ここでは大きな傾向をお示しします。

    • 男性の方が女性よりもリスクが高く、LDLコレステロールの目標値が厳しい傾向にある
    • 喫煙、高血圧、総コレステロールの高値、低HDL血症、冠動脈疾患の家族歴、耐糖能異常のいずれもが同様に、リスクの高い病態であり、これらに該当する項目が多いほどLDLコレステロールの目標値が厳しい傾向にある

    脂質異常症と高脂血症の違いについて教えて下さい。

    従来高脂血症と呼ばれていたものが、近年脂質異常症と呼ばれることになりました。その背景には脂質異常症の定義が変わったことがあります。現在では後述の3項目のうち1項目以上を満たす場合に脂質異常症に該当するとされますが、HDLコレステロールのように、項目によっては脂質の値が(高いのではなく)低いことが診断基準になるため、高脂血症という呼び名が適切でないとされました。基本的な概念は同じですが、現在では高脂血症という呼称はあまり用いられません。

    脂質異常症の診断基準(空腹時の採血で判定する)

    • 高LDLコレステロール血症:LDLコレステロールが140mg/dl以上
    • 低HDLコレステロール血症:HDLコレステロールが40mg/dl未満
    • 高トリグリセライド血症:トリグリセライド(中性脂肪)が150mg/dl以上

    参考:「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)日本動脈硬化学会

    動脈硬化があるかどうかは、検査で確かめられるのでしょうか?

    エコー検査や、血管の生理学的検査で動脈硬化の程度を確認することができます。

    頚動脈エコーでは首の血管の断面を描出し、動脈硬化の厚みを測定することができます。また、CAVI(心臓足首血管指数)と言い、心臓の拍動が血管内を伝わる速度を測定することで、血管の硬さを推定することができる検査があります。寝たまま血圧を測定するような形式で行われる簡易的な検査です。

    脂質異常症の治療法について教えて下さい。

    治療の基本は生活習慣の改善であり、これは全ての方が試みるべきとされています。その上で、冠動脈疾患の既往歴がある方の場合には、最初から内服薬を併用します(薬物療法については別項目で解説します)。

    生活習慣の改善とは、具体的には以下のような項目を指します。

    • 禁煙して、受動喫煙を避ける
    • 標準体重を維持する
    • 肉の脂身、乳製品、卵黄の摂取を抑える
    • 魚類、大豆製品、野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を増やす
    • 食塩の摂取量を控える(1日6g未満)
    • アルコールの過剰摂取を控える(エタノール量として1日25g未満)
    • 有酸素運動を毎日30分以上行う

    参考:「動脈硬化性疾患予防ガイドライン(2012年版)日本動脈硬化学会

    脂質異常症の人が他に注意すべき病気はありますか?

    脂質異常症があると動脈硬化が生じやすく、動脈硬化性疾患と呼ばれる心筋梗塞や脳卒中を発症するリスクが高まります。これらを予防することが、脂質異常症を治療する最大の目的です。

    脂質異常症の人で、有酸素運動にはどんな効果があるのでしょうか?

    直接的には、HDLコレステロールを増やし、中性脂肪(トリグリセライド)を低下させる効果があります。また、インスリンの感受性が良くなり血糖値が低下します。長期的には、動脈硬化性疾患やメタボリックシンドロームの予防、治療効果があります。

    動脈硬化とはどのような状態ですか?何が原因となるのですか?

    体のすみずみに酸素と栄養を配るための血管である動脈が、硬く、細くなることを動脈硬化と言います。

    高血圧、脂質異常症、高血糖、喫煙などが原因となって、全身の血管は「傷ついては修復される」というプロセスを繰り返しています。こうして修復されるたびに小さな傷跡が少しずつ蓄積されて、血管の内側が徐々にデコボコに、かつ狭く硬くなっていってしまうのが動脈硬化です。これは、皮膚の傷がかさぶたを経て治った後にもわずかな皮膚の引きつれやでっぱり、質感の異なる部分が残るのと同じ原理です。

    加齢に伴う動脈硬化は完全に避けられるものではありませんが、これが進むことで心筋梗塞や脳卒中など様々な病気の原因となります。血管が徐々にデコボコと硬くなると、内部は徐々に細くなり、ついには血管内の血のかたまりやゴミのようなものが流れてきたことをきっかけに詰まってしまいます。心臓の血管が詰まってしまうのが心筋梗塞で、脳の血管が詰まるのが脳梗塞です。こういった血管が細くなる変化は一時的なものではなく、脂質異常症や高血圧といった原因が改善しない限りは進む一方ですので、常に深刻な病気に陥るリスクをかかえてしまっていることになります。

    生活習慣病の治療に適切に取り組むことで、動脈硬化は改善させることができます。

    脂質異常症は、遺伝する病気ですか?

    脂質異常症は、厳密に言えば単独概念としての病気ではありません。採血で脂質の値が基準値から外れている状態のことを指します。一方で、脂質異常症を引き起こす別の病気があり、その中でも、家族性高コレステロール血症(以下FH)と呼ばれる遺伝性が高いものがあります。

    FHは国内で500人に1人と比較的高い頻度で認められる病気であり、常染色体優性遺伝と呼ばれる遺伝形式を取ります。両親の一方がFHであれば50%の割合で子に遺伝します。また両親が2人ともFHである場合には、子がFHの重症型(ホモ接合体と呼ばれます)になる場合があります。

    脂質異常症の薬物療法について教えて下さい。

    生活習慣の改善で脂質の血中濃度が目標値に達しない場合には、薬物療法が検討されます。また、冠動脈疾患の既往がある場合には最初から、糖尿病・慢性腎臓病・非心原性脳梗塞・末梢動脈疾患のある場合には早期から、薬物療法の併用が検討されます。

    治療薬には、種類だけでも様々なもの(スタチン、陰イオン交換樹脂、小腸コレステロールトランスポーター阻害薬、フィブラート、ニコチン酸誘導体、プロブコール、多価不飽和脂肪酸)があり、それぞれの種類ごとに、更に複数個の薬剤が存在しています。

    LDLコレステロールが高い場合、まずはじめに推奨されているのがスタチンです。その他の種類の薬剤については、脂質異常症の種類や他に併発している病状に応じて、医師の判断で使い分けられることになります。高LDLコレステロール血症に対するスタチンを除いては、薬の種類の選び方に絶対的な統一見解があるわけではありません。

    脂質異常症の薬は、生涯飲み続けることになるのですか?

    基本的には、血液検査の値が改善しない限り内服を続けます。しかし脂質異常症の原因には体質(病気や遺伝を含む)と生活習慣の両方の因子があるため、生活習慣の改善のみで値が改善することもあり得ます。そのような場合には、内服薬を飲み続ける必要はありません。

    また、甲状腺機能低下症やネフローゼ症候群など特定の病気が背景にある脂質異常症の場合、元となっている病気の治療を行うことで血液検査の値が正常化することがあります。

    コレステロールの下げ過ぎで死亡率が上がるというのは本当ですか?

    様々な研究において、コレステロールが極端に下がり過ぎると、逆に死亡率が上昇することが報告されています。しかしながら、その背景には、コレステロールが極端に低い人の中に(治療によって下がったのではなく)もともと栄養状態が悪かったり、癌などの病気があったりする人が高い割合で含まれていて、その結果としてコレステロールが低くなっているだけではないかという指摘があります。別の言い方をすると、もともと健康状態が良くない人の中でコレステロールが低い傾向があるのであって、コレステロールが低くなっても健康状態が悪くなるわけではない、という指摘です。

    それでは、健康な人が実際にコレステロールを下げ過ぎても問題はないのかというと、この点に関しては、まだ精度の高い研究が十分に集まっていると言えません。現時点で言えることとしては、通常の治療で下がる程度までの範囲であれば、あまり心配しすぎる必要はないということです。