2020.11.04 | コラム

2020年10月からロタウイルスワクチンが定期予防接種になったことを知っていますか:【後編】ロタウイルスワクチンについて

ロタウイルスワクチンの立ち位置変更を踏まえて、わかっていることを説明します

2020年10月からロタウイルスワクチンが定期予防接種になったことを知っていますか:【後編】ロタウイルスワクチンについての写真

2020年初頭に突如として現れた新規感染症(COVID-19)によって、皆さんの予防観念は過去にないくらい高まっていると思います。そんな中、2020年10月1日から厚生労働省の推奨するワクチンの内容が変更されました。具体的には、今までは任意接種であったロタウイルスに対するワクチンが定期接種になりました。

ワクチンは感染症を予防する観点において、とても重要な役割を果たします。それは新型コロナウイルスに対するワクチンが全世界で切望されている事実からも、皆さんも実感するところでしょう。

このコラムではロタウイルスワクチンを中心にワクチンの意義についてまで説明していきます。

「【前編】ロタウイルスについておさらい」はこちら

 

感染予防に重要な役割を持つワクチン

感染症にかかったときの症状のつらさはケースバイケースですが、大なり小なり身体はしんどくなります。誰だって症状に苦しい思いは避けたいはずなので、感染症にかからないように予防することはとても大事です。

2020年の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の脅威を経験した我々は感染症の予防方法については以前より詳しくなっているはずです。新型コロナの予防策として特に重要なのは「手洗い(もしくはアルコール手指消毒)」と「ユニバーサルマスキング(症状があろうとなかろうとマスクを装着する)」です。この考え方は、ウイルスや細菌を口や鼻、目の中に極力入れないようにするのが狙いです。ロタウイルスでも同じようにウイルスを体内に入れないように心がける必要があります。ただし、ロタウイルスはコロナウイルスと違ってアルコール消毒の有効性が低いことがわかっているので、アルコールを使わずに手洗いをするようにしてください。

 

ワクチンの仕組みについて

感染症を予防する上で大事な役割を担うものの一つにワクチンがあります。少し難しい話になりますが、ワクチンは人間の免疫システムの中でも「獲得免疫」という部分を高めることで予防効果を発揮します。獲得免疫とは簡単に言うと、「一度体内に侵入した微生物の特徴を記憶して、次回の侵入に備える免疫のはたらき」のことです。免疫システムに微生物の情報を上手に伝える働きがワクチンにはあり、その恩恵によって我々は感染症の脅威から免れることが出来ています。

(ワクチンについてもっと詳しく知りたい人は「新型コロナウイルス感染症のワクチンに待望論:この機会にワクチンについて考える」を参考にしてください。)

 

どんな感染症にワクチンがあるのか

そんな便利なワクチンですが、すべての感染症に対して存在するわけではありません。むしろ、数多ある感染症の中で、一部にだけ(とはいえ結構な数ですが...。)ワクチンが存在すると考えたほうが良いかもしれません。

 

【ワクチンが存在する感染症の例】

  • 麻しん
  • 風しん
  • 水ぼうそう(水痘)
  • 日本脳炎
  • 結核
  • ジフテリア
  • ポリオ
  • 百日咳
  • 破傷風
  • A型肝炎
  • B型肝炎
  • 肺炎球菌感染症(肺炎、髄膜炎など)
  • インフルエンザ桿菌(B型)感染症(喉頭蓋炎、肺炎、髄膜炎など)
  • 髄膜炎菌感染症(髄膜炎)
  • おたふく風邪
  • ヒトパピローマウイルス感染症(子宮頸がんに関連する感染症)
  • インフルエンザ
  • 狂犬病
  • 黄熱病
  • ロタウイルス感染症
  • 新型コロナウイルス感染症

 

上にあげた感染症に対応するワクチンを接種することで、感染の予防や重症化の予防が期待できます。日本国政府はさまざまな観点からこれらのワクチンを接種することを推奨しています(※A型肝炎、髄膜炎菌感染症、狂犬病、黄熱病は条件が合致する人のみ推奨となります。)が、中でも一部については、定期接種という枠組みで基本的に無償で受けることができるようになっています。ワクチンのスケジュールや定期接種となっているワクチンの種類についてもっと知りたい人はこちらのコラムを参考にしてください。

 

ロタウイルスワクチンの変更点

2020年10月1日にロタウイルスワクチンの立ち位置が変更となりました。それまでは任意接種だったのが、定期接種のワクチンに指定されました。この変更によって無償で予防接種を受けられるようになったため、更に多くの子どもがロタウイルスに対して免疫を持つようになることが期待されています。

ロタウイルス感染症にかかると発熱・下痢・嘔吐といった症状が出ます。(詳しくは「2020年10月からロタウイルスワクチンが定期予防接種になったことを知っていますか:【前編】ロタウイルスについておさらい」を参考にしてください。)乳幼児がかかりやすい病気ですし、体力や免疫システムが未熟である小さな子どもは、ちょっと元気がないかなと思う程度であってもみるみる体調が悪化することがあるので注意しなければなりません。ワクチンにはこうした親御さんの不安を軽減してくれる意味も期待できます。

 

現在使用されているロタウイルスのワクチンは2種類

現在ロタウイルスのワクチンは国内で2種類(ロタリックス®ロタテック®)使用されています。そのどちらも飲み薬(経口薬)ですが、接種の仕方など少し異なる部分があります。

 

【ロタリックス®とロタテック®の比較】

  ロタリックス® ロタテック®
ワクチンの特徴 経口生ワクチン 経口生ワクチン
含まれるウイルスの種類 1種類 5種類
接種回数 2回 3回
初回接種 生後6週から14週6日まで 生後6週から14週6日まで

この2つのワクチンを考える上での大きな違いは接種回数です。「含まれるウイルスの種類」の数にも差はありますが、どちらもロタウイルスに対して感染予防効果や重症化予防効果があるため、その選択について判断が難しいかもしれません。生まれてから1歳までにはたくさんのワクチンを打つ必要があるので2回接種のほうが便利だなとつい思ってしまいがちですが、子どもの状況を踏まえてどちらを選択するべきか、小児科の先生と相談してみると良いです。

 

ワクチンは承認されて実用化に至るまでには莫大な苦労が・・・

感染予防や重症化予防が期待できるなら、もっとたくさんの感染症でワクチンが出来たら良いのにと思う人も多いかもしれません。しかし、なかなかそうもいかない理由があります。何よりワクチンの開発が始まってみなさんが接種を受けることができるようにに至るまでに、膨大な時間と労力がかかっているのです。

一般的にワクチンの開発がスタートしてから実用化されるまでには10-15年かかります。新型コロナ(COVID-19)ではあらゆる段階において猛ピッチで進められていることもあり、来年(足掛け2年!?)には実用化されるのではないかと考えられていますが、本来は慎重なステップが踏まれていく必要があるため、どうしても時間がかかってしまいます。

また、開発費に関しても、実用化までには1000億円ほどかかるとも言われており、時間も費用もとても多くの苦労があってこその予防接種であることがわかります。

ワクチンの開発から実用化について詳しく知りたい人は「ワクチンの開発に時間がかかるのはなぜ?安全性と有効性の確認に必要なステップとは」も参考にしてください。

 

ロタウイルスワクチンの注意点

ワクチンは感染症からの予防効果がある一方で、副反応と呼ばれる注意すべき点があります。一般的な注射型ワクチンの副反応は、刺入部周辺の腫脹・かゆみ・痛みや発熱などになりますが、ロタウイルスワクチンは飲むタイプですので少し異なります。第15回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会の資料では、次の副反応について触れています。

 

【ロタウイルスワクチンの副反応の代表例】

  • 発熱
  • 下痢
  • 血便
  • 嘔吐
  • 腹痛
  • 蕁麻疹

 

ロタウイルスワクチンについては、中でも腸重積と呼ばれる状態が起こりうると考えられているため注意が必要です。

 

お腹が痛くてどうしようもないときや便に血が混じるときは要注意

腸重積は腸が腸の内側にはまり込んで重なり合った形で戻らなくなってしまった状態です。生後数ヶ月から2歳くらいの子どもに多く起こる病気で、ひどい腹痛(痛みになみがあることもしばしば)や血の混じった便(いちごゼリーに似ているとも言われる)、嘔吐などが特徴です。

実はロタウイルスワクチンの接種によってこの腸重積の頻度が上がるという報告が海外を中心に存在します。世界的にも生後15週以降では特に腸重積が起こりやすいと考えられており、日本でも初回のワクチンを15週までに接種するように推奨されています。こうした努力のかいあってか、日本の研究においてはロタウイルスワクチンを導入してから1歳未満の腸重積患者は増えてはいないことが確認されています。

 

病気を予防するメリットの大きさを踏まえてワクチンの重要性を考える

ワクチンの最も大きな存在価値は、言うまでもなく感染症を予防することです。ここでいう予防効果は、「感染症にならないように予防する」効果だけでなく、「重症化しないように予防する」効果も含まれます。一方で、ワクチンには副反応が存在します。研究者や製薬会社が甚大な努力を重ねてワクチンを作りますが、それでも副反応は一定確率で出てしまいます。

 

子宮頸がんワクチンを踏まえてワクチンを考える

2013年の子宮頸がんワクチンに関しては多くの報道がなされたことはまだ記憶に新しいと思います。日本では定期接種になっているものの積極的勧奨がされない状態が続いており、多くの医師や知識者から懸念の声が上がっている状態です。というのも、子宮頸がんは年間10,000人が罹患し、3,000人が亡くなっている病気ですので、これを予防する効果は決して軽視できないからです。また、段々と科学的調査の結果が集まってきており、子宮頸がんワクチンを打った人と打っていない人で、懸念されている複合性局所疼痛症候群や体位性起立性頻拍症候群などの病気にかかる割合に差はなかったという科学的調査が報告されていることは見逃せません。

 

副反応についてもメリットとの両サイドから冷静に考える

現段階で集まっている情報をきちんと整理すると、ワクチンの積極的勧奨を再開するべきという考えが興隆するのは当然かも知れません。医師として個人的にも接種しないことによる損失は大きいと思います。しかし、実際ワクチンを接種した後から症状に苦しんでいる人がいるのは事実です。筆者も子宮頸がんワクチンを接種した後に体調を崩した女性を定期的に外来で診ていました。こうした人たちの症状が実際にワクチンの影響なのかについて完全に切り分けることはできないと思いますが、積極的勧奨には接種後に症状が出た人への対応についてきちんとした配備が必要です。この配備によってワクチンを勧奨する土壌が完成したと言えると思います。もし万が一、接種後に体調が悪くなった場合には、医療機関に相談するようにしてください。詳細は厚生労働省のサイトを参考にするとスムーズです。

どんなワクチンであっても副反応は存在します。薬剤を使用する場合にゼロリスクというのは難しいため、「このワクチンにはどういった効果があってどういったデメリットが起こりうる」という客観的事実を押さえておく必要があります。感情的にどちらかの意見に振り切ってしまうと選択肢が狭まってしまうので、こうした事実を踏まえて冷静に考えたほうが結局は有利です。

そのために、僕たち医師は今わかっていることを正直に伝えるという作業を怠ってはいけません。他方、わかっていないことはわからないと伝えることも重要です。表も裏も理解した上で初めて自分の選択が自分のものになると考えています。

 

日本においても2021年2月から新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチンが実用化されました。ワクチンには副反応があるため恐怖を感じる人もいると思いますが、副反応のデメリット以上に感染予防のメリットは大きいです。しかし、そうは言ってもワクチンのことをよく知らない状態で判断することは難しいわけですので、ロタウイルスワクチンの変更をきっかけに、ワクチンへの興味や理解が深まると良いなと思っています。
コロナで大変な生活を送っているからこそ、自分に関わる医療をより自分ごとにしていきたいですね。

【2021.05.04】
ワクチンの状況の変化に鑑みて一部内容を修正しています。

MEDLEY編集部

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

▲ ページトップに戻る