ヘリコバクター・ピロリ感染症の基礎知識
POINT ヘリコバクター・ピロリ感染症とは
ヘリコバクター・ピロリ感染症はピロリ菌が胃の粘膜に感染した状態です。50歳以上では多くの方が感染しています。ピロリ菌の感染が持続すると、慢性胃炎や胃がん、特発性血小板減少性紫斑病などの原因になるため、感染が判明したら抗菌薬を用いて治療するのが望ましいです。 検査には様々な方法があり、吐いた息を用いて調べる検査・便検査・血液検査・胃カメラなどがあります。検査も治療も消化器内科で行っていますが、一般内科や外科でも行える場合も多いため、近くにある医療機関に問い合わせてみると良いでしょう。
ヘリコバクター・ピロリ感染症について
- ヘリコバクター・ピロリ(
ピロリ菌 )は胃の粘膜に感染する細菌 - 感染すると胃粘膜が
炎症 を起こし、胃酸によるダメージを受けやすくなってしまう - ピロリ菌は不衛生な飲み水や食べ物から体内に入ると考えられている(衛生状態の改善に伴い、若年者での感染率は低下している)
- 近年は衛生状態が良くなっており、保護者が離乳食を噛んで子どもに与える行為が感染の大きな要因と想定されている
- 感染すると胃粘膜が
- 頻度
- 多くは5歳以下の幼児期に感染する(胃酸分泌が少なく、胃粘膜の
免疫 が不十分なため) - 日本での感染率は50代以上では80%程度、10-20代では20%前後
- 感染者の5%程度に症状が出る
- ピロリ菌は一度持続感染すると、多くの場合で生涯にわたって胃の粘膜に感染し続ける
- 大人になってから新規の持続感染は起こりにくく、一過性の胃炎を起こすのみである
- 多くは5歳以下の幼児期に感染する(胃酸分泌が少なく、胃粘膜の
- ピロリ菌が原因になることがあると分かっている病気
- 慢性胃炎
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 胃ポリープ
- 胃がん
- 胃MALT(マルト)リンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
- 機能性ディスペプシア (FD)
- 鉄欠乏性貧血
- ピロリ菌感染との関連が推測されている病気
- ピロリ菌を発見したバリー・マーシャル博士らは、2005年にノーベル賞を受賞している
ヘリコバクター・ピロリ感染症の症状
ピロリ菌 の感染によって胃炎などの症状が起こる- 胃もたれや吐き気
- 空腹時の腹痛
- 食後の腹痛
- 食欲不振
- ピロリ菌に感染しているだけでは症状が出ないことも多い
ヘリコバクター・ピロリ感染症の検査・診断
上部消化管内視鏡検査 (胃カメラ )- 胃炎や胃潰瘍、胃がんなどの有無を調べる検査
- 2017年12月現在は、先に胃カメラで胃炎などを診断されている場合のみ、
ピロリ菌 検査および治療が保険適応で受けられる - 胃
X線 (バリウム)検査で胃十二指腸潰瘍と診断されている場合や、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)と診断されている場合は胃カメラの検査前に、保険適応でピロリ菌の検査や治療が受けられる - 胃カメラ検査時に胃粘膜の一部を採取(
生検 )した場合には、胃粘膜に存在するピロリ菌を調べるために以下の検査が行われることがある- 迅速ウレアーゼ試験
- 鏡検法
培養 法、薬剤感受性試験
- 血液検査:血液中のピロリ菌に対する
抗体 の有無を調べる- 簡便な検査であり、広く使われている
- 抗体値が3-10U/ml(EIA法)くらいの、高めの陰性の場合には、20%弱のケースでピロリ菌感染を見逃している可能性があると報告されている
- 高めの陰性の場合には、他の検査も組み合わせてピロリ菌感染を判断するのが望ましい
- 除菌治療後は抗体が陰性化するまでに1年以上かかることもあるので、除菌判定には使いにくい
- 尿検査:尿中のピロリ菌に対する抗体の有無を調べる
- 血液検査と同等以上の精度がある検査と考えられている
- 除菌判定に用いることは推奨されない
- 尿蛋白が出ている場合には正しく診断できないことがある
- 尿素呼気試験(UBT):試薬を内服する前後で呼気を分析する検査
- 総合的に最も信頼度が高いとされている検査
- 除菌判定にも優れている
- 除菌判定でカットオフ値に近い陽性の場合には、誤って除菌失敗と判定(
偽陽性 )してしまうことがあるので、その場合は時間をおいて再検査、あるいは他の検査を受けるのが望ましい(ただし保険適応外)
- 便検査:便から排出されるピロリ菌を検出する
- 尿素呼気試験と同様に信頼性の高い検査
- 便秘や下痢の場合にはうまく検査できないというデメリットがある
- 除菌判定にも用いることができる
- 検査時に一部の胃薬(プロトンポンプ阻害薬)や
抗菌薬 などを飲んでいる場合には、ピロリ菌感染の正確な判定が出来ないことがある- 胃薬や抗菌薬を最近服用した場合には医師に相談してから検査する
- 血液、尿などによる抗体検査は胃薬などの影響を受けずに検査可能
- 便検査も検査キットによっては胃薬の影響を受けずに検査可能
ヘリコバクター・ピロリ感染症の治療法
- 服薬による「除菌療法」で治療することができる
- 主な治療の流れ
- プロトンポンプ阻害薬(PPI)もしくはカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)+アモキシシリン(AMPC)+クラリスロマイシン(CAM)もしくはメトロニダゾール(MNZ)の3種類の薬物を1日2回、7日間服用する
抗菌薬 が含まれているため、腹痛や下痢症状、味覚異常、アレルギー などが出ることがある- 正しく薬を服用すれば除菌療法は80-90%前後の割合で成功する
- 1回目の除菌療法(一次除菌)の効果が出なかった場合は、別の薬に変えて再び除菌を行う(二次除菌)
- 治療が終了して少なくとも4週間以上経過してから、
ピロリ菌 を除菌できたかどうかの検査を行う - 2017年12月現在、日本では二次除菌まで保険を使って除菌療法を行うことができる(三次除菌以降は薬を変えて治療できるが自費診療となる)
- 一次除菌の内容
- PPIまたはP-CAB+AMPC+CAM を1日2回 7日間服用する
- P-CAB+AMPC+CAMの合剤であるボノサップ®やPPI+AMPC+CAMの合剤であるラベキュア®などがしばしば処方される
- 近年はCAM
耐性 のピロリ菌が30%ほど検出されているため、薬剤感受性試験が行われ、CAMが感受性でないと分かっている場合はMNZを使用した方がよい
- PPIまたはP-CAB+AMPC+CAM を1日2回 7日間服用する
- 二次除菌の内容
- PPIまたはP-CAB+AMPC+MNZ を1日2回 7日間服用する
- P-CAB+AMPC+MNZの合剤であるボノピオン®やPPI+AMPC+CAMの合剤であるラベファイン®などがしばしば処方される
- PPIまたはP-CAB+AMPC+MNZ を1日2回 7日間服用する
- 治療後の経過
- 除菌後に不快感が出る場合がある
- 除菌後も萎縮性胃炎がある場合には1年ごとに
内視鏡 での経過観察 が望ましい
- 逆流性食道炎がある場合には、ピロリ菌除菌後に胃酸分泌が増えることで、酸逆流症状が一時的に悪化する可能性があるが、除菌するほうがメリットが大きいため、ピロリ菌感染があれば除菌すべきである
ヘリコバクター・ピロリ感染症に関連する治療薬
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
- 胃内において胃酸分泌を抑え、胃潰瘍などを治療し逆流性食道炎に伴う痛みや胸やけなどを和らげる薬
- 胃酸が過多に放出されると胃粘膜や食道の粘膜を壊し、胃潰瘍や逆流性食道炎などがおこりやすくなる
- 胃内において胃酸分泌の最終段階にプロトンポンプというものがある
- 本剤は胃内のプロトンポンプを阻害することで胃酸を抑える作用をあらわす
- ヘリコバクター・ピロリの除菌治療にも使用される場合がある
- 本剤とH2受容体拮抗薬(胃酸分泌抑制薬のひとつ)の胃酸分泌抑制作用の比較
- 通常、本剤の方がH2受容体拮抗薬より胃酸分泌抑制作用は強い
マクロライド系抗菌薬
- 細菌のタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑えることで抗菌作用をあらわす薬
- 細菌の生命維持や増殖にはタンパク質合成が必要となる
- タンパク質合成はリボソームという器官で行われる
- 本剤は細菌のリボソームでのタンパク質合成を阻害し細菌の増殖を抑える
- マイコプラズマやクラミジアなどの菌に対しても高い抗菌作用をあらわす
- 服用する際、比較的苦味を強く感じる場合がある
メトロニダゾール製剤
- 細菌や原虫のDNAの切断作用などにより、抗菌作用や抗原虫作用をあらわす薬
- 細菌や原虫などが生命活動を行うには遺伝情報が刻まれたDNAが必要となる
- 本剤は細菌や原虫といった病原微生物に取り込まれた後、抗菌作用及び抗原虫作用をあらわす
- 本剤は細菌や原虫のDNA切断作用などをあらわす
- 本剤は原虫であるトリコモナスによる感染症の他、ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)などの嫌気性細菌の感染症などで使用する
ヘリコバクター・ピロリ感染症の経過と病院探しのポイント
ヘリコバクター・ピロリ感染症が心配な方
ヘリコバクターピロリ感染症は胃潰瘍や胃がんといった病気の原因となる感染症です。ご自身がピロリ菌に感染しているのではないかとご心配な方は胃カメラ(上部消化管内視鏡)の検査が行えるクリニックや病院での受診をお勧めします。
ピロリ菌感染症の診断法には胃カメラや血液検査、便検査、呼気検査、尿検査などがありますが、多くのケースでは胃カメラを先に行わないと保険適応で検査や治療を受けることが出来ない点に注意が必要です。どうしても胃カメラの検査を受けたくない場合や、ピロリ菌の有無だけを胃カメラなしで簡単に調べたい場合には自費診療になります。ピロリ菌の検査・治療に関して、自費診療に対応していない医療機関もあるので、受診する前に電話などで確認するのが望ましいでしょう。
ヘリコバクター・ピロリ感染症でお困りの方
ヘリコバクターピロリ感染症の治療は、内服薬で行います。決まった種類の抗生物質と胃薬を一週間飲み続けます。ピロリ菌を除菌することによって胃潰瘍や胃がんの発生リスクを低下させることが治療の目的です。
一通り治療が終わって少なくとも1ヶ月以上経ってから再度ピロリ菌感染の検査を行い、除菌が成功したかどうかを確認します。まだ感染が残っていると判定された場合には、抗生物質の種類を変更して再び内服を行います。これらの治療を受けるにあたっては、大病院である必要はなく、消化器内科のクリニックで問題ありません。通いやすい医療機関を受診することが勧められます。