2024.01.26 | コラム

待望の「赤ちゃんのためのRSウイルスワクチン」とは?

妊婦さんが接種することで赤ちゃんを守るワクチン

待望の「赤ちゃんのためのRSウイルスワクチン」とは?の写真

RSウイルスワクチンは開発優先度の高いワクチンとして厚生労働省に指定されていたものの、長い間実用化されていませんでした。しかし、昨年9月に60歳以上の成人を対象としたGSK社のRSウイルスワクチン(アレックスビー)が厚生労働省に製造販売承認されたことに引き続き、2024年1月18日に妊婦さんに対するファイザー社のワクチン(アブリスボ)がついに製造販売承認されました。

一般的なワクチンは、ワクチン接種者の発症や重症化を防ぐことを目的としていますが、この新しいRSウイルスワクチンはそれとは異なります。妊婦さんに接種することでお母さんの体内でRSウイルスに対する抗体を作り、それが赤ちゃんに渡り、生まれたときからRSウイルス感染を予防することができます。

このコラムでは、この新しいRSウイルスとそのワクチンについて説明します。

 

RSウイルス感染症とは?

RSウイルス感染症は、乳幼児に多く見られる急性呼吸器感染症です。通常、せき、くしゃみ、鼻水、発熱といった風邪のような症状を引き起こします。RSウイルスは誰にでも感染する可能性があり、生後1歳までに50%以上の子どもが、2歳になるまでにはほぼ全員が感染します。ほとんどの子どもは感染から1-2週間で回復しますが、一部の子どもで重症化するおそれがあります。乳幼児における肺炎の約50%、細気管支炎の約50-90%はRSウイルスが原因です。

 

重症化しやすい赤ちゃんとは

早産の新生児や早産で出生後6カ月以内の乳児、また心臓や肺の病気、免疫不全がある子どもは重症化しやすい傾向があります。RSウイルス関連の重症下気道感染症の発生率は生後2-3カ月でピークに達し、入院が必要になるケースや、残念ながら死亡するケースもあります。

 

RSウイルスから赤ちゃんを守る方法

これまでも日本において、RSウイルス感染の重症化から赤ちゃんを守る方法はありました。それは、一部の重症化リスクのある赤ちゃんに対してのみに限定使用される抗体薬(パリビズマブ)です。

そこに今回のワクチンがもう一つの方法として登場したのです。これまですべての赤ちゃんが対象となるRSウイルス感染症の予防法は実用化されておりませんでしたので、まさに悲願のワクチンといえます。

 

今回のRSウイルスワクチンの特徴は?

妊娠時、母体で作られた抗体は、胎盤を経由して赤ちゃんに作られた抗体が引き継がれます。これは、受動免疫(母子免疫)と呼ばれていて、赤ちゃんが自分で十分な量の抗体をつくれるようになるまで、病原微生物による感染を防ぎます。今回のRSウイルスワクチン(アブリスボ)は、妊婦さんに接種することによって、まず母体でRSウイルスに対する抗体が作られます。作られた抗体が胎児に移行し、生まれたときからRSウイルス感染を予防できるようになるという仕組みです

 

予防効果はどれくらい?

今回の承認にいたった、ファイザー社が開発したワクチンに関する元の情報は2023年4月20日のNew England Journal of Medicineに公表されています(MATISSE試験)。ワクチンの有効率(*)は次のようになります。

 

  • RSウイルスによる重症の下気道疾患に対するワクチンの有効率
    • 生後90日以内:81.8%
    • 生後180日以内:69.4%
  • RSウイルスに関連する入院に対するワクチンの有効率
    • 生後90日以内で67.7%
    • 生後180日以内で56.8%

 

ワクチン接種者において、局所反応の発現率はプラセボ(偽薬)に比べて高く、最も頻度が高かったのは注射部位の痛みでした。重篤な有害事象については、プラセボと差がありませんでした。 

以上より、妊婦さんへのRSウイルスワクチンの接種は、出生児における重症のRSウイルス感染による下気道疾患、RSウイルスに起因する入院に対して有効で、安全性も問題ないということが言えるかと思います。

 

*有効率(Vaccine Efficacy, VE)とは:研究の対象者が常に研究者の管理下にあって、発症や受療状況などについて詳細に追跡できるような理想的な環境で実施された研究から得られた結果です。(非接種者の発症率 ー 接種者の発症率)/非接種者の発症率 × 100で計算されます。 噛み砕いていうと、ワクチンがなければ100⼈罹患するところ(100 ー VE)⼈に減らす効果があります。

 

おわりに

待望のRSウイルスワクチンの効果は期待できそうですが、残念ながら効果は100%ではありません。周囲に乳幼児など感染に弱い人がいる際には、特に手洗い、手指消毒、マスクといった基本的な感染対策を継続することが大切です。

 

参考文献

1. 国立感染症研究所:IDWR 2023年第28号<注目すべき感染症> ヘルパンギーナ・RSウイルス感染症

2. CDC:Respiratory Syncytial Virus Infection (RSV)

3. CDC. RSV Prevention.

4. CDC:Respiratory Syncytial Virus (RSV) Preventive Antibody: Immunization Information Statement (IIS)

5. Jones JM, Fleming-Dutra KE, et al. Use of Nirsevimab for the Prevention of Respiratory Syncytial Virus Disease Among Infants and Young Children: Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices - United States, 2023. MMWR Morb Mortal Wkly Rep. 2023 Aug 25;72(34):920-925.

6. Kampmann B, Madhi SA, Munjal I, et al. Bivalent Prefusion F Vaccine in Pregnancy to Prevent RSV Illness in Infants. N Engl J Med. 2023 Apr 20;388(16):1451-1464.

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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