イングランドの追跡調査
ロンドン大学の研究班が、イングランドで行われた追跡調査のデータをもとに統計解析で得られた結果を、医学誌『BMJ』に報告しました。
この研究は、2002年に始まった「ELSA研究」という調査で得られたデータを使いました。ELSA研究はイングランドの50歳以上の男女を対象としています。調査開始時に11,391人が対象となりました。対象者の健康状態や死亡についての情報が追跡調査されました。
今回の研究では、ELSA研究の参加者のうち、解析に適するデータがあった9,365人を対象としました。
ELSA研究の中で2002年、2004年、2006年にそれぞれ行われた聞き取り調査の結果から、「人生を楽しんでいる」という指標をまとめました。これらの調査では「自分がしていることを楽しんでいる」「ほかの人と一緒にいて楽しい」「どちらかといえば幸せな気持ちで人生を振り返ることができる」「最近はエネルギーが満ちていると感じる」という質問項目があり、これらの回答をまとめることで、各時点の回答を「人生を楽しんでいる」かそうでないかの2種類に分類しました。
対象者のうち2013年3月までに死亡した人の数を参照することで、「人生を楽しんでいる」という回答が死亡率と関係しているかを調べました。
解析の中では、病気が原因で楽しみがなくなり寿命も縮むなどの影響を除くため、健康状態・運動障害・うつ症状などの影響を計算上で調整しました。
3回とも楽しんでいた人は死亡率0.76倍
統計解析から次の結果が得られました。
全死亡率は、「人生を楽しんでいる」と答えた年がなかったグループに比べて、人口統計学的要因・調査開始時の健康状態・運動障害・うつ症状で調整すると、3回中2回で「楽しんでいる」と答えたグループではハザード比0.83(95%信頼区間0.70-0.99)、3回とも「楽しんでいる」と答えたグループではハザード比0.76(0.64-0.89)だった。
2002年・2004年・2006年の3回の調査のうち一度も「人生を楽しんでいる」という回答がなかった人に比べると、3回中2回で「人生を楽しんでいる」と答えた人は死亡率が0.83倍、3回とも「人生を楽しんでいる」と答えた人は死亡率が0.76倍に下がっていました。
楽しく健康な生活を
人生を楽しんでいる人で死亡率が低かったという結果になりました。
もちろん、ここでは「人生を楽しんでいる」の定義が聞き取り調査の結果なので、本当に実感している「人生の楽しさ」とどの程度一致するかは疑問の余地があります。また、計算上ほかの要素を調整したとはいえ、計算に入れていない要素が関係していた可能性もあります。そのため「長生きするには日々の生活を楽しくするべき」と言い切る根拠にはなりません。
とはいえ、生活が楽しくなければつい不摂生をしてしまったり、いざ病気にかかったときにも消極的な気持ちになってしまうかもしれません。
健康のために規則正しい生活を心がけるのも大切なことですが、ほどよく「楽しむ」という心の余裕も持ちたいものです。
執筆者
Sustained enjoyment of life and mortality at older ages: analysis of the English Longitudinal Study of Ageing.
BMJ. 2016 Dec 13.
http://www.bmj.com/content/355/bmj.i6267※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。