2020.06.02 | コラム

本当に安全で効果がある薬が患者さんに届くまで:治験とは何か?

薬の効果と安全性を調べる治験について解説します

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新しく開発された薬を患者さんが使えるようになるには、「治験」と呼ばれる実践的な研究で薬の効果や安全性を調べる必要があります。治験という響きには堅苦しいイメージがあるかもしれませんが、世の中にある薬はどれも治験を行われてから皆さんの手に届けられているのです。このコラムでは薬が承認されるために必要な「治験」について解説します。

薬が患者さんに届くまでの流れ

「ある病気の治療薬候補となる物質を発見」

このようなニュースが出た後、実際に薬として使えるようになるのは、いくつもの試験を乗り越えたほんの一握りのものにすぎません。厳しい言い方をすると、このニュースが出てもほとんどの場合で薬剤として実用できる段階まで至ることはできません。

患者さんが薬を使えるようになるまでには、次のようなステップが必要になります。

 

1. 基礎研究

薬は化学合成物や自然界から見つかった物質(植物、菌、海洋生物など)を元にして開発されます。開発された薬がどのような特徴をもつかはこの段階である程度メドはつけているのですが、実際にどうなるのかに関して細胞や病原体を使った実験で調べられます。

 

2. 非臨床試験

基礎研究の結果から効果が期待できる薬が見つかったら、動物実験でその効果や副作用をさらに詳しく調べます。マウスやラットなどの小動物を用いた実験が多いですが、イヌ、ブタ、ヤギなどの大動物に薬を投与することもあります。ここまでに分かったデータで病気に対する効果が期待でき、かつ安全と考えられるものが薬の最終候補となります。

 

3. 臨床試験

非臨床試験で候補に挙がった薬を患者さんが使えるようになるためには、病気の人に対して本当に効果があるのか、安全性に問題はないかをチェックする必要があります。このチェックをするために、実際に患者さんに薬を使ってもらって調べる試験を「臨床試験」と呼びます。

臨床試験の中でも特に厳しくルールが定められ、「医薬品医療機器等法」という法律に基づいて厚生労働省からの薬事承認を得るために行われる試験が「治験」です。治験は病気に対する薬の効果を証明し、十分な安全性があることを証明する目的で、実際には三段階で行われます。

 

4. 薬事承認から保険適用

治験で有望なデータが得られた薬を製造販売するために、厚生労働大臣に承認申請を行います。詳細は省きますが、安全性や効果の審査、薬価(薬の値段)の決定や保険適用の判断といった綿密な手続きを経て、患者さんの元に治療薬として届けられます。

 

どのくらいの時間とお金がかかるのか?

薬の候補を見つける基礎研究に始まり、治験を行って医薬品として承認を受けるまでには10-18年もの時間がかかると言われています。治験の計画、遂行だけでも3-7年が必要ですし、その後の承認申請などの手続きには1-2年の時間が必要です。つまり、薬が開発されてから患者さんのもとに届くまでには長い年月がかかるのです。また、これらの研究・治験を進めるのに必要な費用は総額で500-1000億円とされています。さらに、薬の候補として見つかった物質のうち実際に承認されて医薬品になる確率は3万分の1とも言われており、計画の達成は雨夜の月のようなものだったりするのです。

これらの数字を見るだけでも、ひとつの薬を開発するためには膨大な労力・時間・資金が必要であることが分かります。

 

実際の治験はどのように行われているのか?

治験は新薬の開発の最終段階にあたる臨床試験です。新薬を実際に患者さんが使ってみて、病気に対して効果があるかどうか、重い副作用が出ないかどうかを調べます。

多くの治験は薬剤を開発した製薬会社が中心となって行われます。製薬会社(治験依頼者)から病院(実施医療機関)に臨床試験の依頼があり、経験豊富な医師(治験責任医師)が中心となって治験が行われます。

 

治験のルール

治験に協力してくれる患者さんの安全と人権を守るために、治験に関わる製薬会社、病院、医師が守らなければいけないルールがあります。

 

  • 「医薬品医療機器等法(薬機法)」:くすり全般に関する法律
  • 「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」:Good Clinical Practice(GCP)とも呼ばれます

 

これらのルールでは、治験の計画をあらかじめ国に届け出ること、治験に参加する患者さんには文書で詳しく説明をし同意を得ること、重大な副作用が発生した場合には国に報告することなどが細かい部分まで厳格に決められています。

 

治験を行う病院

治験が行えるのは、次のような条件を満たした病院だけです。

 

  • 医療設備が十分に整っていること
  • 責任をもって治験を行う医師、看護師、薬剤師などがそろっていること
  • 治験の内容を審査する委員会(第三者の目による審査)があること
  • 緊急の場合に直ちに必要な治療が行えること

 

これらの条件を満たす病院を、「治験実施医療機関」と呼びます。治験実施医療機関はこちらのHPでも検索することができます。

 

治験の3つのステップ

治験は少人数から始められ、第I相から第III相まで3つのステップがあります。

 

◎第I相試験

少数の患者さんを対象に、主に薬の安全性(副作用の有無やその程度)を調べます。

薬の種類によっては、病気をもった患者さんではなく健康な人を募集して試験を受けてもらうこともあります。

 

◎第II相試験

数名から数十名の患者さんを対象に、薬の副作用と効果を調べます。

薬の投与量の候補をいくつか用意し、副作用が少なく高い効果が得られる投与量を決定します。「用量設定試験」とも呼ばれます。

 

◎第III相試験

数十名から数百名の患者さんを対象に、薬の副作用と効果を最終確認します。

第III相試験では「ランダム化比較試験」と呼ばれる方法がとられることが多いです。これは患者さんを2つのグループに分け、グループAには新薬を、グループBには標準治療薬(ガイドラインなどで定められているもの)またはプラセボ(新薬と同じ見た目だが効果のない偽薬)を投与し、その効果を比較する方法です。どちらのグループに入るかは特定のルールによらずランダムに決められます。また、通常は「盲検化」といって、どちらのグループに入ったかを患者さん自身も担当医も分からないようにして試験を進めます。これは、その患者さんがどちらの薬を飲んでいるかが分かってしまうと、患者さん自身や担当医が薬の効果を過大評価してしまうおそれがあるためです。(思い込みや気分による影響を最小限にする目的。)

第II相試験までは有望な成績が出ていたのに、第III相試験では新薬の効果が証明できなかった(2つのグループの間で治療効果に差がなかった)、ということがしばしば起こります。第II相試験までは新薬だけの成績を見ているため、患者さん自身や治験担当医の新薬に対する期待感によって治療効果が過大評価されがちです。それに対して第III相試験は、科学的に公平な条件で新薬と標準治療薬(またはプラセボ)を比較するため、期待感などによる評価の偏りが最小限になります。その結果、第II相試験までは有望と思われていた新薬の効果が、第III相試験では従来の治療薬と大差がなかったということが起こるのです。

 

すべての新薬は大きな期待を背負って治験に臨むわけですが、その本当の実力を証明するのは第III相試験ということになります。この高いハードルを乗り越えた薬のみが、本当に有効な薬として患者さんのもとに届くのです。

 

自分の病気に関わる治験の情報を探す方法

現在行われている治験の情報は、厚生労働省のHP(治験等の情報について)などで検索することができます。

また自分の病気を対象とした治験が行われているかどうかは、上記のホームページを参照したり担当のお医者さんに聞いてみることで詳しい情報が手に入ります。

 

今回のコラムでは「治験」について解説しました。本当に安全で効果がある薬を患者さんに届けるために、多くの人が関わって治験が行われています。このコラムが治験についての理解を深めるきっかけになれば幸いです。

参考文献

・厚生労働省ホームページ:「治験」とは

医薬品医療機器総合機構(PMDA)

臨床研究情報ポータルサイト 

(2020.6.2閲覧)

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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