2018.05.01 | コラム

麻疹流行に備えて感染症内科医から伝えたいこと:麻疹の症状、合併症、ワクチン(予防接種)など

知っておくと得する、麻疹の症状、合併症、ワクチン(予防接種)などについて

麻疹流行に備えて感染症内科医から伝えたいこと:麻疹の症状、合併症、ワクチン(予防接種)などの写真

2018年3月23日、沖縄県内を旅行中の台湾からの旅行者が麻疹(読み方:はしか)と診断されたと報告がありました。以降、この患者(初発例)と接触歴のあった二次感染例を中心に、沖縄県内では麻疹患者の発生が続いています。このコラムでは古くて新しい麻疹という感染症について、医療者の立場から一般の方々に知っていただきたいポイントを、感染症内科医伊東と医学生古谷との対話形式で解説していきます。

1.麻疹(麻しん)排除国の日本でなぜ麻疹が流行しているのか?

伊東「さて古谷君、ここのところ麻疹の発生が続いているね。」

古谷「そうですねー。でも、あれ・・・?麻疹って2015年3月に日本は排除状態※1になりませんでしたっけ?てっきり過去の病気かと思っていました。」

※1 排除状態:12カ月以上にわたり、特定の地域で存続しているウイルス株による感染流行がない状態。

伊東「日本では2006年から麻疹・風疹混合ワクチン(MRワクチン)の2回接種(赤ちゃんのうちに1回、小学校入学直前にもう1回)、さらに2008年から中学1年生、高校3年生を対象に補足的ワクチン接種が行われたことなどもあって、確かに2015年に排除状態になっている・・・けど、決して過去の病気なんかじゃないんだ。」

古谷「排除したのに過去の病気じゃない?どういう意味ですか?」

伊東「今も海外からの持ち込み株による麻疹発症が問題となっているんだよ[1]。」

古谷「なるほど、そうだったのですね。」

伊東「ちなみに、麻疹のワクチンは2回接種で97%と高い有効率があるんだ[2]。」

古谷「ワクチン、めちゃ重要ですね。それじゃあ、麻疹にかかってしまうヒトって基本的にワクチンを接種していないヒトってことですか?」

伊東「お、良い質問だね。それじゃあ表1を見てもらってもいいかな?これは、麻疹患者の予防接種別報告数になるのだけれども、2017年に報告された患者さん187人のうち、予防接種歴は未接種33例(17.6%)で、接種歴1回49例(26.2%)、接種歴不明84例(44.9%)、接種歴2回21例(11.2%)となっているよね。つまり、麻疹を発症したのは未接種およびワクチン接種1回を含む不十分な免疫のヒトが約9割ということだね。」

 

【表1:麻疹患者と予防接種の関係(感染症発生動向調査を参考に作成)】

  接種なし 1回接種 2回接種 接種歴不明 合計患者数
2008年 4,914(590) 2,933(12) 132 3,034(9) 11,013(611)
2009年 173(73) 349 31 179(1) 732(74)
2010年 108(29) 193 29 117 447(29)
2011年 130(25) 139 26 144 439(25)
2012年 79(15) 76 17 111 283(15)
2013年 52(11) 50 9 118 229(11)
2014年 216(43) 87(3) 32 127 462(46)
2015年 16(3) 6 0 13 35(3)
2016年 47(7) 40 25 53(1) 165(8)
2017年 33(3) 49(1) 21 84 187(4)

*()内は0歳の患者数

 

古谷「おー、100%の発症予防効果ではなくとも、ワクチンはやっぱり有効ですね。ちなみに、接種歴不明が結構多いですね。」

伊東「ヒトの記憶はあてにならないことが多いからね。打った気がする・・・なんてヒトも含めて記録がないなら未接種と考えたほうが良いね。不安な人は手帳にワクチンの種類と接種した日付を記録しておくと良いよ。」

 

◆ポイント
  • 麻しんは決して過去の病気ではない。
  • 麻しんワクチンの2回接種は有効性が非常に高い。

 

2.麻疹の症状とは?

伊東「じゃあさ、麻疹の症状って知ってる?」

古谷「えーと・・・2-3日持続する発熱と、結膜充血そして、咳、鼻水、くしゃみ、といった上気道症状、いわゆるカタル症状(風邪のような症状)ですね・・・それらがあった後に一旦解熱して・・・今度は高い発熱と全身に発疹が出現する・・・といった感じでしょうか?」

伊東「すばらしい。それは典型的な麻疹の経過だね。でもね、実際はそういった典型的な話ばかりではないんだよ。修飾麻疹って聞いたことある?」

古谷「初めて聞きました。何ですかそれは?」

伊東「うん、修飾麻疹っていうのはね、ワクチン接種を1回しか受けていないなど麻疹に対する免疫が不十分なヒトが麻疹ウイルスに感染した場合のことを指すんだ。軽い症状で、いま古谷君が言ってくれたみたいな典型的な症状とは異なる症状が見られるんだ。」

古谷「そうなのですね。ただの風邪と間違えてしまいそうですね。」

伊東「そうなんだよ。だから、僕らは風邪の症状で病院に来くる患者さんには、必ず予防接種歴と一緒に海外や国内の旅行歴、さらに人が多く集まるイベントに行ったかなども詳しく聞いて麻疹のリスクが高いかどうかを知っておかないといけないってわけ。」

古谷「患者さんは必ずしも自分が麻疹と思って病院にくるわけではないですもんね。」

伊東「そうそう。また、典型的な麻疹であっても全身に発疹が出現する前のカタル症状の時に正しく診断するためには、麻疹を疑って患者さんに話を聞くことことが特に大切だね。」

 

◆ポイント
  • 典型的な麻疹の症状は、2~3日持続する発熱、結膜の充血そして上気道症状(咳・鼻水・くしゃみ)と、一旦解熱した後の高熱と全身の発疹。
  • 麻疹に対する免疫が不十分なヒトが麻疹に罹ると、典型的な症状が見られないことがある(修飾麻疹)。
  • 旅行や人が多く集まるイベントは麻疹の感染リスクなので、受診時に医療者に伝えるようにする。

 

3.麻疹の合併症と死亡率は?

古谷「先生、自然に罹患したほうが予防接種を受けるよりも強力な免疫力がつくので良い、とか予防接種に頼らずに病気をうつしあって免疫をつければよい、なので予防接種は必要ありません!ワクチンは毒です!なーんて言われてしまうことがたまにあるんですけど・・・実際どうなんですか?」

伊東「うん、まあ、それは誤解だよね。まず麻疹が死ぬことがある病気というのを知ってもらうことが必要だね(表2)。さらに、一旦発症すると約3割の患者さんが表2にあるような合併症を1つ以上発症するとされているんだ[4]。」

 

【表2:麻疹の合併症】

下痢 8%
中耳炎 7%
肺炎 6%
急性脳炎 0.1%
けいれん 0.6-0.7%
死亡 0.2%

 

古谷「うわ・・・急性脳炎なんて怖い名前もありますね。」

伊東「急性脳炎の死亡率は約15%で、25%に後遺症を残すと言われているんだよ。」

古谷「怖っ!!」

伊東「怖いよね。あと、忘れてはいけないのが肺炎。肺炎は麻疹死亡者の約6割を占めているんだ。最もよくみられる死亡の原因はこどもの肺炎と、成人の急性脳炎だね。」

古谷「そうするとやっぱりワクチンですね。」

伊東「そうそう。麻しんには有効な治療法もないしね。ちなみに、麻疹に限らずワクチンで防げる病気をVPD (Vaccine Preventable Diseases)」と言うのだけれども、VPDに関しては一般の方向けのKNOW VPD!というページ がとてもよくまとまっているので、機会があればぜひ患者さんに読んでもらいたいね。」

古谷「ちなみに、ワクチンの副作用を心配されている方にはどのように説明したらいいですか?」

伊東「3種混合ワクチン(MMR:麻疹、ムンプス、風疹)のデータだけど、表3[4]を見てもらえるかな?」

 

【表3:MMRワクチンの有害反応】

  頻度
発熱 5-15%
皮疹 5%
血小板減少 1/30,000-40,000接種
リンパ節腫脹 まれ
アレルギー反応 まれ

 

古谷「んー、ほとんどが軽微な副作用が多いですね・・・。この程度の副作用であれば、感染した時の危険性を考えると、接種を勧めない理由はないですね。」

伊東「そのとおりだね。ただし、麻疹ワクチンを接種することができないヒト、いわゆる接種不適当者がいるから、それは注意かな。後で説明するよ。」

 

◆ポイント
  • 麻疹は死に至ることもある病気。発症すると約3割の患者が合併症を発症する。
  • 麻疹はワクチンで防げる病気。
  • 麻疹ワクチンの副作用は、発症した際の合併症に比べるとはるかに軽微なものが多い。

 

4.麻疹の感染経路と感染力は?

伊東「では、古谷君、麻疹がどうやって感染するか分かるかな?」

古谷「感染経路は飛沫感染に加えて空気感染です[2]。」

伊東「いいね。でも、両者の違いは分かるかな?」

古谷「えーと・・・飛沫感染は咳やくしゃみをした時の飛沫が近くのヒトの鼻や口に入り込んで感染することです。空気感染は・・・飛沫が空気中を飛んでいるうちに、含まれている水分が蒸発して、飛沫核になって、その飛沫核が入り込んで感染することでしょうか?」

伊東「合ってる、合ってる。飛沫はせいぜい2メートル程度しか飛ばいないけれど、飛沫核がそれ以上の距離を浮遊するので、空気感染する麻しんは広範囲に感染を拡げてしまう可能性があるってわけなんだ。」

古谷「なるほど。確かに今年3月からの麻疹も沖縄から県外に拡散してますもんね。」

伊東「空気感染であることもやっかいだし、さらに基本再生産数がとても高いのが問題だよね。」

古谷「・・・基本再生産数って何ですか?」

伊東「基本再生産数というのは、感染者1人が他人へ感染させる平均人数のことで、感染力の高さの指標のことだよ。インフルエンザの基本再生産数が2-3くらいなのに対して、麻疹の基本再生産数は16-21だから[5]、感染力が非常に高いことになるんだ」

古谷「そうなんですか!メチャ感染力高いっすね・・・。」

 

◆ポイント
  • 麻しんの感染経路は飛沫感染+空気感染。
  • 麻しんの基本再生産数は16-21と、非常に感染力が高い。

 

5.麻疹の発症と感染の拡大をどのように予防するのか?ワクチン(予防接種)の重要性

伊東「さて、ここまでの流れから麻疹の予防で最も大切なことはもう分かったよね?」

古谷「ワクチンですね!」

伊東「正解!さすが、空気感染だけに空気を読む男は違いますね!」

古谷「え・・・あ、はい。」

伊東「えーと・・・国立感染症研究所は2018年4月17日付けで、"麻疹・風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方"[6]を公表しているのだけれども、その中からワクチン接種が推奨される人表4に、接種における注意点表5にまとめるね。」

 

【表4:できるだけ早くワクチン接種が望まれる人】

【定期接種対象者】
●第1期定接種対象者(1歳児)
●第2期定接種対象者(小学校入学前1年間の幼児:今年度6歳になる者)

【定期接種対象者以外】
○1か月以内に海外旅行・国内旅行を予定している者(可能な限り2週間以上前に接種を済ませる。旅行直前に接種をする場合は、接種後5~14 日の体調変化に注意が必要)
○医療関係者(救急隊員、事務職員等を含む)
○保育関係者
○教育関係者
○不特定多数の人と接触する職業に従事する人
○近隣で麻疹患者の発生が認められる、生後6-11か月児(緊急避難的な場合に限る)
○0歳児の家族
○麻疹抗体価陰性あるいは低抗体価の妊婦の家族
○麻疹抗体価陰性あるいは低抗体価の麻しん含有ワクチン接種不適当者の家族
○2歳以上第2期定期接種対象期間に至る前の幼児で、麻しん含有ワクチン未接種あるいは接種歴不明者
○小、中、高、大学、専門学校生等で、麻しん含有ワクチン未接種あるいは1回接種あるいは接種歴不明者

 

【表5:麻疹・風疹混合ワクチンを接種する際の注意点】

・ 接種不適当者*1に該当しないことを確認する。
・ 麻疹含有ワクチンの接種歴は記録で確認する(記憶はあてにならない。接種の記録がなければ、受けていないと考える)。
・ 妊娠出産年齢の女性は、接種前に妊娠していないことを確認し、ワクチン接種後約2カ月間は妊娠しないように注意する。
・ 1歳以上で2回の麻疹含有ワクチンの接種記録がある者、検査診断された麻疹の罹患歴がある者、既に発症予防に十分な麻疹抗体価を保有していることが明らかな者は受ける必要はない。
・ 初回接種の場合は、接種後5~14日を中心として、約20%に発熱、約10%に発疹が見られることがあることに注意する。2回目接種の場合は、これらの症状出現頻度は低い。
・ 接種不適当者に該当する場合は、麻疹抗体価を確認し、免疫状態を把握しておく。その結果、麻疹抗体価が陰性あるいは低い抗体価であった場合は、人が多く集まるところや麻疹流行国に行くのを避け、家族や周りの者が必要回数である2回の予防接種を受けて、麻疹に対する免疫を獲得しておく。

*1接種不適当者
・ 明らかな発熱を呈している者
・ 重篤な急性疾患にかかっていることが明らかな者
・ 本剤の成分によってアナフィラキシー*2を呈したことがあることが明らかな者
・ 明らかに免疫機能に異常のある疾患を有する者及び免疫抑制をきたす治療を受けている者
・ 妊娠していることが明らかな者
・ 上記に掲げる者のほか、予防接種を行うことが不適当な状態にある者

*2アナフィラキシー;重症のアレルギー反応のことで、全身の発疹、かゆみまたは紅潮、口唇の腫れや浮腫、呼吸困難、喘鳴、血圧低下、意識障害、腹痛、嘔吐などを認める。

 

古谷「なるほど・・・。特に麻疹に感染するリスクの高いヒトに2回のワクチン接種するというのがポイントですね。」

伊東「その通り。あと、国内の麻疹患者は基本的には海外からの持ち帰った人なので、海外旅行に行く予定がある人もワクチン接種が望ましいね。特にアジア、アフリカ、ヨーロッパといった流行国への渡航は注意が必要だね[7]。」

古谷「ゴールデンウィークや夏休みに海外旅行する人も多いと思うので心配ですね・・・。」

伊東「うん・・・。感染力も強いので、麻疹の可能性があるならば、病院にその旨を連絡した上で早めに受診してもらうことが望ましいね。」

古谷「はい。海外からの持ち込みを完全に防ぐことは出来ないですが、僕らは早期発見して少しでも感染の拡大を防止したいですね!」

◆ポイント
  • ワクチン接種の不適当者に該当しないことを確認した上でワクチン接種が必要かを検討する(表4表5)。
  • 麻疹の可能性があれば、病院に連絡した上で早めに受診を。

 

メドレー社では麻疹の正しい情報をお伝えして、麻疹に苦しむ人を少なくすることを目指しています。是非このページの情報を参考にして下さい。また、麻疹に限らずワクチンで予防できる感染症(VPD)がいくつかあります。予防接種についてはこちらのコラムも参考にして下さい。

 

参考文献

1. IASR Vol. 39 p60-61: 2018年4月号

https://www.niid.go.jp/niid/ja/allarticles/surveillance/2429-iasr/related-articles/related-articles-458/7966-458r07.html

2. CDC. Measles.

https://www.cdc.gov/measles/index.html

3. IASR Vol. 39 p49-51: 2018年4月号

https://www.niid.go.jp/niid/ja/measles-m/measles-iasrtpc/7959-458t.html

4. CDC. The Pink Book. Measles.

https://www.cdc.gov/vaccines/pubs/pinkbook/meas.html#

5. Nokes DJ, Anderson RM. The use of mathematical models in the epidemiological study of infectious diseases and in the design of mass immunization programmes. Epidemiol Infect. 1988 Aug;101(1):1-20.

6. 国立感染症研究所. 麻しん風しん混合(MR)ワクチン接種の考え方

https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/measles/MRvaccine_20180417.pdf

7. WHO. Measles and Rubella Surveillance Data.

http://www.who.int/immunization/monitoring_surveillance/burden/vpd/surveillance_type/active/measles_monthlydata/en/

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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