膵損傷を保存的に治療した7歳男子
バーレーンの医師らが、けがで膵臓が損傷し入院となり、手術はせず治療して回復した7歳男子の例を、専門誌『Journal of Medical Case Reports』に報告しました。
この男の子は、サッカーのゴールポストにぶつかったあと、腹痛と嘔吐を訴えて救急部で受診しました。
意識ははっきりしていました。脈拍121/分、血圧96/53mmHg、呼吸30/分と、脈拍・呼吸が増えているものの、致命的な状態が迫っている様子はありませんでした。
CTの画像で肝臓、両側の腎臓、膵臓の損傷が指摘されました。膵臓の損傷が最も重いと見られました。
入院となり、手術はせず治療(保存的治療)する方針とされました。
膵仮性嚢胞で腹痛、再発も
入院中の状態は安定していました。
18日目に腹部膨張と嘔吐の症状がありました。診察では上腹部に触れるものがありました。CTで膵仮性嚢胞(すいかせいのうほう)が見つかりました。
膵仮性嚢胞とは、膵臓の組織の中に液体のたまりができ、袋のように膨らんだものです。仮性嚢胞は膵臓の損傷や急性膵炎のあとにできることがあります。破裂して出血などを起こす場合もありますが、自然に消えることも期待できます。
ここではお腹の上から針を刺し、たまった液体を排出させました。
25日目に仮性嚢胞が再発しました。今度はカテーテルという管を仮性嚢胞の中に置いたままにして液体を出す治療が行われました。カテーテルは10日間置いたままにされました。
55日目に退院となりました。
報告では考察として「膵損傷の非手術管理は、ほかに手術の理由がなく血行が安定している患者においては有効で安全である」と記されています。
膵損傷・膵仮性嚢胞は危険?
けがで膵損傷と膵仮性嚢胞を治療した人の例を紹介しました。
膵臓が傷付くことは決して軽いけがとは言えませんが、直接の死因になることはほとんどありません。仮性嚢胞も破裂しなければ命に関わることはほとんどありません。大出血がなかったのが不幸中の幸いと言えるでしょう。
治療では入院期間や患者の負担などを考えて方針が選択されます。事例が報告されていることで、さまざまな場面で判断の参考にすることができます。
執筆者
Pancreatic injury in children: a case report and review of the literature.
J Med Case Rep. 2017 Sep 9.
[PMID: 28886723]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。