2017.07.26 | ニュース

左だけまぶたが下がる27歳女性、右の隠れた症状を見分けた技術とは

重症筋無力症の症例写真

from The New England journal of medicine

左だけまぶたが下がる27歳女性、右の隠れた症状を見分けた技術とはの写真

まぶたが下がる症状は、片目に出た場合と両目に出た場合で考えられる原因が違います。しかし、両目に出ていても左右差があってはっきりしない人もいます。診察で両目に症状があることを確かめられた人の例が報告されました。

サウジアラビアとシンガポールの研究者が、左のまぶたが下がる症状を訴えた27歳女性で、診察により右にも同じ症状があることを確かめた写真を、医学誌『The New England Journal of Medicine』に報告しました。

この女性は、1か月前から左のまぶたが下がる症状を感じていました。症状は午後に悪化していました。

診察ではほかに神経の異常を疑わせる症状はありませんでした。瞳孔の大きさは左右で同じで、光を当てたり遠くの物を見たりした時の動きも正常でした。

 

まぶたが下がる症状を医学用語では眼瞼下垂(がんけんかすい)と言います。重い眼瞼下垂で目を開けられないほどになる人もいます。

午後に悪化する眼瞼下垂は、重症筋無力症で現れやすい特徴です。重症筋無力症は神経から筋肉に信号を伝えるしくみに異常が起こる病気です。眼瞼下垂などの症状で発見され、しだいに全身の筋肉に力が入らなくなっていくことがあります。

重症筋無力症は全身の病気です。このため、眼瞼下垂も典型的には両目に現れます。片目の眼瞼下垂では違う原因が考えられます。両目であれば、重症筋無力症や症状が似ている病気(ランバート・イートン症候群など)を考えて検査を進めることで診断に近付きます。

ただし、両目に症状があるけれども片方が軽くて見分けにくいといった場合に注意が必要です。

片目の眼瞼下垂を起こす病気としては、脳梗塞や脳動脈瘤なども考えられます。脳や神経に原因がある場合、眼瞼下垂と同じ側の瞳孔が大きくなるなどの症状もあります(ホルネル症候群では瞳孔が小さくなります)。

重症筋無力症はほかの病気と治療法が大きく違うため、正しく見分けることはとても大切です。

この人では重症筋無力症らしい特徴がいくつかあります。

  • 若い女性
  • 症状が1か月前からある(突然始まったわけではなさそう)
  • 午後に悪化する
  • ほかに神経の異常がない

しかし、眼瞼下垂が片目にしかなければ重症筋無力症らしくないことになります(例外もあります)。そこで眼瞼下垂が片目なのか両目なのかをはっきりさせることに意義があります。

 

診察では左目にはっきりした眼瞼下垂がありました。右目は正常のように見えました。しかし、左まぶたを手で持ち上げたところ、右まぶたも下がりました

両目に眼瞼下垂があることがはっきりしたので、重症筋無力症と考えて無理がないことになり、さらに血液検査で抗アセチルコリン受容体抗体が陽性となりました。

抗アセチルコリン受容体抗体は重症筋無力症に特徴的な物質です。

そこで重症筋無力症の治療薬であるピリドスチグミン(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)とプレドニゾロン(ステロイド薬)が開始されました。症状は改善し、2年間の経過の中で良好な状態が続きました

なぜ左まぶたを手で持ち上げると右まぶたの症状が出たのでしょうか。

軽度の重症筋無力症では、神経からの信号が伝わりにくくなることにより、神経がより強く働いてまぶたを上げる信号を出します。すると眼瞼下垂の症状が軽いほうの目は一見正常に見えるかもしれません。そこで、明らかな眼瞼下垂があるほうを手で持ち上げると、神経はまぶたを上げる信号を弱くするため、症状が軽いほうにもはっきりした眼瞼下垂が観察されるようになります。

この現象はほかの病気で現れることもありますが、ここでは両目に症状があることを確かめられたことで、より重症筋無力症らしいという判断に結び付きました。

 

重症筋無力症の症状を確かめるために「まぶたを手で持ち上げる」という技術が役に立った人の例を紹介しました。

診察では症状を細かく観察することがとても大切です。医師はさまざまな技術を使って、症状の場所や特徴をはっきりさせようとします。

「参照文献」のリンク先で、この女性の症状の写真と、まぶたを持ち上げて診察した動画が見られます。

気になる症状がある時に、症状だけで自己診断しようとすることはおすすめできませんが、診察室で自覚症状をなるべく詳しく正確に伝えることは大事です。この人のように「左だけなのか、両方なのか」が診断の分かれ目になるような状況もありえます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Unmasking Ptosis in Both Eyes.

N Engl J Med. 2017 Jul 6.

[PMID: 28679097] http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMicm1611978

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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