◆顎関節症の痛みにどのような治療法が有効なの?
顎関節症は、顎の痛み、口を開けにくい、口を開くとき雑音がする、などといった症状が見られる病気です。治療法としては、どのようなものがあるのでしょうか?
まず、顎関節症の治療法を大きく分けると保存療法と手術療法に分けられます。保存療法には、薬を使った治療、スプリント(マウスピースを装着するような治療)、理学療法などが含まれ、手術療法には、内視鏡手術などが含まれます。これらの治療法について詳しく説明していきます。
- 薬を使った治療
- 日本歯科薬物療法学会が作成した『顎関節症の関節痛に対する消炎鎮痛薬診療ガイドライン』では、消炎鎮痛薬(炎症や痛みを抑える薬)のジクロフェナクとナプロキセンについて、関節痛と口を開ける程度に対して効果があるという研究データがあることから、「顎関節症の関節痛を有する患者に消炎鎮痛薬は有効である」と記載されています。
- スプリント(マウスピース)
- スプリントは、噛み締める時に、関節にかかる負担を軽減するために行うものです。スプリントには、スタビライゼーション型スプリントとリポジション型スプリントなどの種類があります。スタビライゼーション型スプリントは、噛み合わせを安定させたり、顎への負担を軽くするマウスピースです。日本顎関節学会による『顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン』では、「咀嚼筋痛を主訴とする顎関節症患者において[...]上顎型スタビライゼーションスプリント治療を行っても良い」としています。
- 一方、リポジション型スプリントは、関節円板を正しい位置に誘導するためのマウスピースです。
- 理学療法
- 理学療法では、電気刺激、温熱療法、マッサージ、運動療法などが行われます。それぞれ、関節痛を軽減する、筋肉の緊張を和らげる、口の開き具合を改善するといった目的があります。マッサージや温熱療法のように、自分でついやろうとしてしまうこともあるのですが、まずは専門家の説明をしっかり受けることが大事です。
- 手術
- 関節鏡という内視鏡を使う方法や、開放手術があります。
- 関節腔洗浄療法
- 関節に注射で生理食塩水を入れ洗浄することで、関節の動きをよくすることを狙う方法です。
- パンピング・マニピュレーション
- 注射針から液体を流し入れて、圧を加えることで関節円板を元の位置に戻す治療法です。
これらの適応は病型によっても異なります。次に、顎関節症のどのような障害によって、どの治療法が適応になるか解説します。
◆病気の状態によって異なる顎関節症の治療法について
顎関節症と診断される人の中には、症状の原因などが違うさまざまな状態の人が混ざっていると考えられています。人の状態に応じて治療も使い分けることが考えられ、顎関節症の病型を分類することもなされています。障害像(病態)によって、以下のように大きく4つの型に分ける分類方法があります。
- 咀嚼筋痛障害(I型):嚙み砕く時に必要な筋肉(咀嚼筋)の障害が主である場合
- 顎関節痛障害(II型):筋肉や関節円板を除く、関節を構成する組織の障害がある場合
- 顎関節円板障害(III型):関節円板の障害がある場合
- a:復位性、b:非復位性
- 変形性顎関節症(IV型):骨の変形がある場合
こうした分類は、治療を考えるためにも使われます。
日本顎関節学会による『顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン2』は、「開口障害を主訴とする関節円板転位に起因すると考えられる顎関節症患者(III 型 b タイプ)において、関節円板の位置など病態の説明を十分に行ったうえで、患者本人が徒手的に行う開口訓練(鎮痛剤の併用は可)を行うことを提案する。」としています。
つまり患者が自分で手を使って行う開口訓練は、口が開きにくい症状が主体であり、強い筋肉の痛みはなく、顎関節の引っかかりを感じるなどの特徴があるタイプの顎関節症には行ってもよいとされています。
開口訓練を始める前に、自分が開口訓練に適しているのかを医師の診察などによって適切に判断し、病気の状態や訓練の狙いなどを理解するために十分な説明を受ける必要があります。
訓練の方法は、患者自身の指を使って、軽く力を加えるようにして口を開きます。これを数回繰り返して1セットとします。1日のうちに数セットの訓練を行います。訓練によって日常生活の中で顎関節の痛みが強くなったと感じた場合は中止してください。訓練をしながら痛み止めの薬を使ってもかまいません。訓練を始めてから2週間後に、効果が出ているかなどを判定するために再び受診する必要があります。
また上で挙げたように、痛み止めの薬(消炎鎮痛薬)は「関節痛を有する患者」では一般に有効とされます。
同様に、スタビライゼーション型のスプリントは「咀嚼筋痛を主訴とする」、つまり噛む動きをする筋肉の痛みがある場合に適しているとされます。
日本顎関節学会の『顎関節症患者のための初期治療診療ガイドライン3』は咬合調整について検討した結果を記しています。咬合調整とは、歯の噛み合わせの面にあたる部分を削って噛み合わせをよくしようとする治療です(取り外しできる入れ歯を直すことは含みません)。
咬合調整は、痛みや口が開く大きさに対する効果が示されておらず、知覚過敏などの害の報告はあることから、「顎関節症患者において、症状改善を目的とした咬合調整は行わないことを推奨する」とされています。
ほかにも顎関節症の中でもどのタイプにあたるかをもとに治療が検討されます。
それでは最後に、治療を行った時に可能性として考えられる副作用について見ていきましょう。
◆顎関節症の治療、副作用は?
どんな治療をしても、治療による害の可能性を考える必要があります。たとえば消炎鎮痛薬の代表的な副作用として、消化器系の障害による心窩部痛(胃痛)、嘔吐、吐き気などがあります。
スプリントに関しても、噛み合わせの変化が起こったなどの報告があります。
理学療法においては、電気刺激や温熱刺激といった物理療法を行う場合には副作用(有害事象)を起こさないために、皮膚炎はないか、感覚障害はないかといったことに注意が必要です。
このような副作用(有害事象)については治療を選ぶ前に十分な説明を受け、不安な点があれば質問することをおすすめします。
顎関節症の治療法について解説してきました。自分の状態に適している治療はどれか、予想される効果や害はどんなものかといった点から治療を選ぶことができます。
注:この記事は2016年3月19日に公開されましたが、2018年2月9日に編集部(大脇)が更新しました。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。