2015.11.24 | ニュース

老人ホームにいる人は、尿漏れがあっても9割は薬で治せない?

アメリカの療養施設滞在者の統計から

from Journal of the American Geriatrics Society

老人ホームにいる人は、尿漏れがあっても9割は薬で治せない?の写真

頻尿や尿失禁の治療に、自律神経の働きを調節する薬が使われますが、ほかの薬との飲み合わせで使えない場合や、運動障害などのため効果が期待できない場合もあります。アメリカの療養施設に滞在している人のうち、薬が勧められない人の割合が調査されました。

◆薬が使えない人はどれぐらいか

抗ムスカリン薬は、自律神経を調節する作用があり、頻尿などの症状を起こす過活動膀胱や尿失禁の治療に使われます。しかし、ほかの病気の治療などで、同様の働きをする薬を使っている人では作用が強くなりすぎる恐れがあり、同時に使うことは勧められません。

また、アルツハイマー病などの治療に使われる薬には、抗ムスカリン薬と逆方向の働きをするもの(アセチルコリンエステラーゼ阻害薬)があり、やはり同時に使うことは勧められません。

研究班は、アメリカの療養施設滞在者の調査データを使い、過活動膀胱または尿失禁が診断された人を対象として、そのうち抗ムスカリン薬が適していないと見られる人の割合を調べました。

 

◆90%以上は不適切

次の結果が得られました。

過活動膀胱または尿失禁のある療養施設滞在者の24%に対して、アセチルコリンエステラーゼ阻害薬と抗ムスカリン薬が同時に処方されていた。過活動膀胱または尿失禁のある療養施設滞在者は、過活動膀胱も尿失禁もない滞在者に比べて、中等度から重度の認知機能障害がある場合が多かった(70.1% vs 29.9%、P<0.001)。

療養施設滞在者のうち中等度から重度の認知機能障害、重症の運動障害、抗コリン作用のある薬物またアセチルコリンエステラーゼ阻害薬の使用を除くと、抗ムスカリン薬治療の候補となりうる人は療養施設滞在者のうち小さい割合にとどまった(過活動膀胱または尿失禁のある人のうち6.6%、尿失禁がある人のうち6.2%)。

対象者のうち、同時に使うべきでない薬を使っている、または認知機能障害や運動障害が理由で抗ムスカリン薬が勧められない人が90%以上を占めるという結果でした。実際にはアセチルコリンエステラーゼ阻害薬と抗ムスカリン薬を同時に処方されている人が24%いました。

 

高齢の人では複数の病気や症状を同時に治療しなければならない場合も多く、全身状態について、また薬の副作用や飲み合わせについて特に注意が必要になります。そうした難しさの一端が示されているのかもしれません。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Challenges in the Pharmacological Management of Nursing Home Residents with Overactive Bladder or Urinary Incontinence.

J Am Geriatr Soc. 2015 Oct 27 [Epub ahead of print]

[PMID: 26503458]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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