2015.06.30 | コラム

移植を待つ子どもを助ける補助人工心臓、心臓外科医の観点から

国内承認を受けて

移植を待つ子どもを助ける補助人工心臓、心臓外科医の観点からの写真

先日、EXCORというドイツ製の小児用補助人工心臓が国内の製造販売承認を受けました。「補助人工心臓」というのは、心臓の動きが極端に低下した患者さんにつける装置で、簡単にいうと、弱った心臓のかわりに血液を体に送り出すポンプの役割を果たす機械のことです。

心臓の動きが悪くなる病気の代表的なものとして、「拡張型心筋症」という病気があります。根本的な治療法がなく、内科的な治療で効果がなければ最終的には心臓移植をすることでしか助からないこともあります。ただし、心臓移植を待っている間に心臓の動きがさらに悪くなるともう自分の心臓で血液を全身に循環させることができなくなり、手術で「補助人工心臓」をとりつけて循環をサポートし、そうして心臓移植を待つ、ということになります。

 

◆補助人工心臓とは?

この補助人工心臓には大きく分けて「体外式」と「植込み型」の二種類があり、今回承認されたものは「体外式」の装置となります。

血液を送るポンプが体の外にあるものが「体外式」、体の中に植込まれるものが「植込み型」と呼ばれ、それぞれ特徴があります。「体外式」のものは、ポンプが体の外に設置されているため、退院することができません。対して、植込み型は体の中にポンプが植込まれるため、体の外に出る部分は電源を送ったり、ポンプをコントロールするためのケーブルが一本になるので、手術の後、落ついていれば退院して生活ができる、という利点があります。しかしながら、ポンプを体の中に植込むためには、ある程度体が大きくなければいけないため、体の小さな小児には不向きで、このような場合、体外式の補助人工心臓を選択することになります。

今回承認されたEXCORという小児用補助人工心臓は、体重3kg程度の新生児から30kg程度の小児まで使用できる、世界で唯一の体外式補助人工心臓で、これまで世界では2000例以上の装着の実績があります。しかし、日本ではこの機械の使用は保険で認められておらず、比較的体重が大きなお子さんの場合には成人用の補助人工心臓をなんとか利用することもありましたが、体格の違いからおこる合併症をおこすことも少なくはなく、小児用の補助人工心臓の承認が待ち望まれていました。

 

◆日本で使えるようになるまで

「全世界で使われているものなら、輸入してすぐ使用すればいいのではないか?」と思われるかもしれません。

しかし、医療機器に関しては、海外で使われているからといってそのままどんどん使うわけにはいかず、日本人でもそれらを使っても大丈夫かどうかを確かめる必要があります。このプロセスを「治験」といい、これらの機器が必要な患者さん(小児の場合はご家族)に同意を取って、いろいろな細かい検査などをすすめます。そして、手術を行って機器を装着し、その後詳しく経過を観察して、もしなにか不都合があれば、すぐに報告して情報を共有する、という仕組みを作っています。この「治験」を行って安全性を確かめることによってはじめて、この機器が多くの患者さんに使われることができるようになります。

ただ、治験が終了するまでは、その間、この機器が必要な患者さんが現れても、治験に参加していなければ使うことができない、という制限が生じます。他に代替する機器がある場合はそれを使えば良いのですが、体の小さなお子さんに対して使える同等の機器はありません。今回の治験では治験に参加した患者さんの機器装着後の具合が非常に良く、その効果と安全性が確かめられたこと、そして、同じような状況にある患者さんたちのために一刻も早い承認が望まれたこともあり、今回の承認に至りました。

 

◆心臓移植に向けて

けれども、これによって問題が解決するわけではありません。補助人工心臓はあくまでも心臓移植までの「つなぎ」の役割のための機器なのです。心臓移植がない限り、患者さんは自由に生活できず、また補助人工心臓をつけたまま残念ながら亡くなってしまう方も少なからずいらっしゃいます。

2010年に法改正が行われ、15歳以下の方の脳死が認められるようになって、法律上は、小さなお子さんでも日本国内で脳死心臓移植が受けられるようになりました。しかし、脳死から臓器の提供へ至るドナーの数は非常に少なく、年間1-2人程度で推移しています。対して、心臓移植を必要とするお子さんの数は多く、海外に渡航して移植を受ける方も多い、というのが現状です。医療としては心臓移植という治療が可能であるにもかかわらず、ドナー不足のために、多額の寄付をつのって海外へ渡航せざるを得ない、という矛盾があります。

移植治療でしか救えない人々がいるということ、そして脳死からの臓器提供がそういった方々の命につながることを多くの方々に知っていただきたいと思います。そうして、ドナーが増えることで、少しでも多くの子供たちを日本で救えるように、と願っています。

執筆者

平田 康隆

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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