末梢静脈栄養輸液製剤(PPN製剤)
糖質・電解質・アミノ酸などを含み主に腕などの末梢静脈から点滴投与する輸液剤。通常、食欲不振や軽度の意識障害などにより経口からの栄養摂取が不十分な場合や比較的栄養状態は良いが経口摂取ができない手術前後などで使われる輸液剤

末梢静脈栄養輸液製剤(PPN製剤)の解説

末梢静脈栄養輸液製剤(PPN製剤)の効果と作用機序

  • 腕などの末梢静脈から点滴投与することを主な目的とした糖質・電解質アミノ酸などを含む輸液
    • なんらかの原因によって、体内の水分量や電解質濃度が崩れると生命活動が正常に維持できなくなる
    • 水分や電解質を含む輸液剤を点滴により補給することで体液のバランスを整え病態の治療効果を高められる
    • 栄養分を含む輸液剤を腕などの末梢静脈から点滴投与することを末梢静脈栄養(PPN)という
    • 本剤は主にPPNに用いる輸液剤で糖質・電解質・アミノ酸などを含む
  • 糖質からのエネルギー産生に必要なビタミンB1などを含む製剤もある
  • 点滴の際の手技が比較的簡便で、カテーテル穿刺・留置に伴う危険性や合併症が少ないなどのメリットが考えられる

末梢静脈栄養輸液製剤(PPN製剤)の薬理作用

ヒトは通常、食事から糖質、タンパク質(アミノ酸)、脂質、ビタミン、ミネラルといった栄養素を摂っている。栄養が摂れない場合には、肝臓や筋肉のグリコーゲン(ブドウ糖が結合した多糖類)をエネルギー源として利用し、次に体内の脂質やタンパク質を分解してエネルギー源として利用する。このように栄養が摂れない状況が続くと、脂質や筋肉の分解が進み生命の危機状態に近づく。このような状況において、静脈から栄養素を含む輸液製剤を点滴することで飢餓状態の改善が期待できる。

輸液による補給の中でも腕などの末梢静脈から点滴投与することを末梢静脈栄養(PPN:Peripheral Parenteral Nutrition)と呼ぶ。PPNは通常、食事が摂取できない期間が10日前後の場合などに行われる。

PPNは糖質、アミノ酸、脂肪などの補給により体のタンパク質消耗を抑えられ、手技や管理がTPN(中心静脈栄養:心臓に近い太い血管である中心静脈から高濃度の栄養輸液を投与する方法)に比べて簡便であり、カテーテル穿刺・留置に伴う危険性や合併症が少ないなどのメリットが考えられる。一方で、投与できるカロリーには限り(1000kcal程度)があるため、食事が摂取できない期間が2週を超えるような場合などには通常、高カロリーを投与できるTPN(中心静脈栄養)を用いる。

PPNが用いられる場合は大きく分けて二つで、一つは食欲不振や軽度の意識障害などにより経口からの栄養摂取が不十分な場合での使用、もう一つは比較的栄養状態は良いが経口摂取ができない手術前後における使用、となる。

本剤はPPNに用いる輸液剤で、糖質、アミノ酸、電解質などを含む。また本剤の中には糖質からのエネルギー産生に必要なビタミンB1(塩酸チアミン)などを含む製剤もある。

末梢静脈栄養輸液製剤(PPN製剤)の主な副作用や注意点

  • 消化器症状
    • 吐き気・嘔吐などがあらわれる場合がある
  • 循環器症状
    • 胸部不快感、動悸などがあらわれる場合がある
  • 血管痛、静脈炎
    • 主に輸液の浸透圧やpH、滴定酸度の影響により血管痛や静脈炎があらわれる場合がある
  • カリウムを含む製剤に関する注意
    • 大量・急速投与することで高カリウム血症があらわれる可能性があるため輸液濃度、投与速度、投与量などを十分に守って投与する
    • 腎機能不全、腎機能障害、抗アルドステロン薬(エプレレノンなど)、ACE阻害薬、ARBの使用時などは高カリウム血症により注意が必要

末梢静脈栄養輸液製剤(PPN製剤)の一般的な商品とその特徴

プラスアミノ輸液

  • 7.5%ブドウ糖アミノ酸液製剤
    • 電解質としてナトリウムとクロールを含む
  • アセチル化したトリプトファン(N-アセチル-L-トリプトファン)を配合
    • トリプトファン(L-トリプトファン)が主な原因でおこるブドウ糖とアミノ酸の配合時に生じる褐変現象(メイラード反応)を防止

ビーフリード輸液

  • 7.5%ブドウ糖電解質アミノ酸ビタミンB1液製剤
    • アミノフリード輸液にビタミンB1を配合した製剤
    • ビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスなどの懸念を軽減
  • 1つのソフトバックに貫通できる隔壁を設けたダブルバック方式
    • ブドウ糖とアミノ酸がそれぞれ別室に充填されている
    • ブドウ糖とアミノ酸の配合時に生じる褐変現象(メイラード反応)を防止

ツインパル輸液

  • 7.5%ブドウ糖電解質アミノ酸液製剤
    • 電解質としてナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどを含む
    • 創傷治癒や各種栄養素の代謝などに関与する微量元素の亜鉛も含有
  • 1つのソフトバックに貫通できる隔壁を設けたダブルバック方式
    • ブドウ糖とアミノ酸がそれぞれ別室に充填されている
    • ブドウ糖とアミノ酸の配合時に生じる褐変現象(メイラード反応)を防止

パレセーフ輸液

  • 7.5%ブドウ糖電解質アミノ酸ビタミンB1液製剤
    • 電解質としてナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどを含む
    • 創傷治癒や各種栄養素の代謝などに関与する微量元素の亜鉛も含有
    • ビタミンB1を配合することでビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスなどの懸念を軽減
  • 1つのソフトバックに貫通できる隔壁を設けたダブルバック方式
    • ブドウ糖とアミノ酸がそれぞれ別室に充填されている
    • ブドウ糖とアミノ酸の配合時に生じる褐変現象(メイラード反応)を防止

アミグランド輸液

  • 7.5%ブドウ糖電解質アミノ酸ビタミンB1液製剤
    • 電解質としてナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどを含む
    • 創傷治癒や各種栄養素の代謝などに関与する微量元素の亜鉛も含有
    • ビタミンB1を配合することでビタミンB1欠乏による乳酸アシドーシスなどの懸念を軽減
  • 貫通できる隔壁によって大室と小室に溶液を分けた製剤
    • ブドウ糖とアミノ酸がそれぞれ別室に充填されている
    • ブドウ糖とアミノ酸の配合時に生じる褐変現象(メイラード反応)を防止

パレプラス輸液

  • 糖(7.5%ブドウ糖)、電解質アミノ酸に加え、ビタミンB1を含めて9種類の水溶性ビタミンを配合した製剤
    • 末梢静脈栄養療法時に不足の懸念がある9種類の水溶性ビタミンの補充効果が期待できる
      ・水溶性ビタミン混注時の汚染・異物混入・針刺し事故のリスク軽減なども期待できる
    • 電解質としてナトリウム、クロール、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンなどを含む
    • 創傷治癒や各種栄養素の代謝などに関与する微量元素の亜鉛も含有
  • 1つのソフトバックに貫通できる隔壁を設けたダブルバック方式
    • ブドウ糖とアミノ酸がそれぞれ別室に充填されている
    • ブドウ糖とアミノ酸の配合時に生じる褐変現象(メイラード反応)を防止