Beta 上室性頻拍のQ&A
- 心臓のうち洞結節という部分が、一定のタイミングで電気信号を発信する
- 電気信号は心臓内の決まった経路を流れる。この経路(の本流)は一筆書きで一方通行になっている
- 電気が流れると心臓は拍動して血液を全身に送り出す
- 洞結節以外の部分が、勝手に電気信号を発信してしまう
- 洞結節からの信号と、他の部分からの信号が入り乱れるので、その分心拍数が増えてしまう
- 電気経路が一筆書きでなくなってしまい、既に通った道へ戻ってくる新しい経路を辿ってしまう
- この新しい経路は、心臓に生まれつき存在している人や、心筋梗塞などの影響(後遺症)として新たに発生する場合がある
- 一筆書きでなくなった電気経路内で信号が何度も巡り続けてしまい、そのたびに心臓が脈打つために心拍数が増えてしまう
- 動悸(胸や血管がドキドキすることを自覚できる)
- 脈拍が速くなる(1分間に150-200回程度)
- 胸の違和感、嫌な感じ
- ほてり、熱感、冷や汗
- 息切れ
- 胸の痛み
- めまい
- 意識の低下、気の遠くなる感じ、失神
- 発作を止めるための治療
- まず始めに行われるのが、バルサルバ手技と呼ばれる方法で、これは薬剤を使用しなくても発作を止められる場合がある手法です(次項で詳しく説明します)。
- 薬剤を用いた治療の基本は、抗不整脈薬と呼ばれる薬です。病院ではしっかりとした効果のある注射薬を使用しますが、発作の頻度が高い人の場合には、自宅でも服用できる内服薬の処方がされることがあります。この内服薬には、日々飲み続けることで発作を未然に防ぐためのものと、発作が起きた時だけ内服して、発作を治めようとするものがあります。
- また、これら内服薬や注射薬でも症状が改善しない場合には、その次の手段として同期下カルディオバージョンと呼ばれる治療法があります。いわゆる電気ショックによる治療ではありますが、AEDなどで心肺停止の人に用いられるよりも弱い電気エネルギーを使用します。上室性頻拍の影響で血圧が低下していたり、その他差し迫ったような状況でなければ、麻酔薬を使用して、意識や痛みの感覚が低下した状態で行われることが多いです。
- 発作を予防するための治療
- 上述の内服薬もありますが、根本的に発作をなくすためには、カテーテルアブレーションと呼ばれる治療があります。これについては、次項以降でより詳しく説明します。
- 息ごらえ(空気を吸い込んだ後、風船を膨らませる時のように、のど、胸やお腹に力を入れて行う)
- 深呼吸をする
- 顔面を冷水につける
- 横になって頭を下げた(足を上げた)体勢を取る
- 頚動脈洞マッサージ(特定の方法で首に行うマッサージ。ただしおこなって良い場合とそうでない場合があるため、自己判断は危険)
- 房室結節リエントリ頻拍
- 心房と心室のつなぎ目(房室結節)で生じる不整脈
- 房室リエントリ頻拍
- 心房と心室の間に特殊な回路(ケント束など)が生じて発生する不整脈
- 洞結節リエントリ頻拍
- 洞結節で生じる不整脈
- 心房頻拍
- 心房が本来と異なるリズムで、勝手な電気信号を発してしまう不整脈
- 期外収縮:期外収縮は、一定時間続くものではなく、単発で生じる不整脈です。「トトン」と脈が数回連発したり、「トントン・・・・・・トントントン」と間が抜けたりすることがあります。
- 心房細動:上室性頻拍と同様、心拍数が突然上昇する種類の不整脈です。心房細動には、心拍のリズムが一定ではないという特徴がありますが、それ以外の点は、突如自然に止まることも含めて上室性頻拍と似ています。上室性頻拍は「トン、トン、トン、トン・・・」と一定なのに対し、心房細動は「トン、トトン、トットン・・・」と毎回別の間隔で脈が打ちます。しかし、この場合も元々が1分間に100-200回などととても速いものですから、間隔のずれを見極めることは慣れていないと難しい行為でもあります。
- 上室性頻拍:期外収縮や心房細動ほどではありませんが、不整脈の中でも頻度が高いのが上室性頻拍です。一定のリズムで脈拍が速くなり、自然に出て自然に止まるという特徴があります。
上室性頻拍のメカニズムについて教えて下さい。
上室性頻拍を理解する上では、まず通常の心臓の働きについての理解が大切です。
・心臓の働き
この電気の流れの経路が、正常な状態ではなくなってしまったものが不整脈です。上室性頻拍で生じている異常には2つのパターンがあり、上室性頻拍の原因がどちらであるかは人それぞれです。
・上室性頻拍で起きている異常
上室性頻拍は、どんな症状で発症するのですか?
上室性頻拍では、以下のような症状が出ることがあります。
一方で、たまたま心電図を測定したときに上室性頻拍がありながらも、何の症状も自覚されないような場合もあります。
上室性頻拍は、どのように診断するのですか?
最も基本的かつ重要な検査は心電図です。発作中に測定することができれば、多くの場合診断がつきます。一方で、発作の最中でないと心電図を測定しても上室性頻拍の診断はできません。しかし、上室性頻拍の原因になりやすいWPW症候群がある人の場合には、平常時の心電図であってもWPW症候群(の一部)の有無については診断が可能です。
「WPW症候群の診断」がつき、かつ「直前または定期的に動悸を感じている」ということであれば、上室性頻拍の可能性が高いと言えます。
上室性頻拍の治療法について教えて下さい。
治療は、上室性頻拍の発作を止めるための治療と、発作を予防するための治療に大きく分かれます。
上室性頻拍の原因について教えて下さい。
上室性頻拍の原因は様々ですが、有名なものにはWPW症候群があります。
WPW症候群の人では、心臓の内部にある電気の流れ道が、元々ふたまたに分かれています。通常それは問題になっていないのですが、ふたまたになってから再び合流する部分までで、何かしらのきっかけで時計回り(またはその逆)に電気信号が回り続けてしまい始めると、不整脈が発生します。この「きっかけ」については、疲れやアルコール、自律神経の乱れや内服薬の影響などが該当する場合もありますが、多くの場合には特別な理由なく突然発症します。
WPW症候群は(診断がついた人だけで)1000人に数人程度の患者数がある、決して珍しい病気ではありません。WPW症候群以外の原因には、これと同様の先天的な心臓の異常や、心筋梗塞の後遺症などがあります。
なお、上室性頻拍の「上室」とは、心臓に4つある空間(右心房、右心室、左心房、左心室)のうち、下部にある右心室と左心室からみて、それよりも上方にある心臓の部位全体を指した言葉のことです(具体的には、洞結節、右心房、左心房、房室結節などを指します)。このあたりに原因のある不整脈の一種、ということからそう名付けられています。
上室性頻拍が重症化すると、どのような症状が起こりますか?
元々心臓に大きな問題がない場合には、上室性頻拍が生じてもいずれ自然に停止して、大事に至ることは基本的にありません。一方で、心筋梗塞や狭心症、心筋症、過去の心臓手術、加齢などによって、心臓の機能が強く低下している場合には注意が必要です。そのような場合には、上室性頻拍によって心臓がうまく働けなくなると、体が持ちこたえられなくなって急性心不全を引き起こしてしまうことがあります。
急性心不全の症状としては、強い息切れが最も特徴的です。医療用酸素を吸入すれば症状は多少改善しますが、点滴注射などの処置を受けない限り症状が改善しづらいため、やがて苦しさが増して救急車で病院を受診することが多いです。一度心不全を起こすと、上室性頻拍が止まったとしても心臓にかかった負担が抜けるまでに数日かかりますので、入院治療が必要となる場合が多いです。
上室性頻拍の、その他の検査について教えて下さい。
発作中の心電図がないと診断がつきにくいということから、ホルター心電図と呼ばれる検査を行うことがあります。24時間装着して生活できる小型の心電図を着用し、いつ発作が生じても記録できるようにしておくものです。とは言え、多くのホルター心電図は24時間までの記録にしか対応していないので、月に1回など低い頻度でしか発作が生じない人の場合には、ホルター心電図を着用しても、たまたまその日が発作のタイミングに重なる可能性は低いという問題があります。
血液検査や尿検査、レントゲンやCTなどの画像検査は、その他の病気でないことを確認することはできますが、上室性頻拍の診断に直接結びつくものではありません。
上室性頻拍の治療で行われるバルサルバ手技とは、どのようなものですか?
バルサルバ手技は、上室性頻拍の発作を止めるための手法の一つです。いくつかの方法がありますが、全てに共通するのは、副交換神経(迷走神経)に刺激を与えることで発作を止めようとしていることです。
一見すると医学的要素を感じにくい処置ですが、これらはいずれも上室性頻拍の発作に一定の有効性が確かめられているものです。
上室性頻拍と不整脈の違いについて教えて下さい。
不整脈とは、心臓内の電気信号の流れに乱れが生じている状態を指す総称的な言葉です。心臓が脈打つ間隔が一定でなくなるものや、間隔は一定でありながらペースが速くなるもの、遅くなるもの、また一瞬で終わるものから永続的に続くものまで、様々な種類があります。
この中の一つとして上室性頻拍があります。
不整脈の中で、上室性頻拍は比較的頻度の高いものです。また、不整脈の中には命に関わる危険なものもありますが、上室性頻拍では通常そのようなことはありません。ただし、元々心臓の機能が低下しているような人では、上室性頻拍によって心臓が持ちこたえられなくなり、心不全を発症してしまう場合があります。
上室性頻拍と診断が紛らわしい病気はありますか?
不整脈全般は、上室性頻拍と区別する必要があります。上室性頻拍のように脈が速くなるタイプの不整脈には、心房細動、心房粗動、心室頻拍などがあります。
この中で心室頻拍は、重症なものの場合には命に関わることもあるため、区別が必要です。これもやはり、発作中の心電図を測定することで診断をつけることができます。
上室性頻拍で行われる、カテーテルや、カテーテルアブレーションとは何ですか?
カテーテルは、細い管のような医療器具です。手首や足の付け根の血管からこの管を入れて、レントゲンで位置を確認しながらカテーテルを心臓内部まで進めます。このカテーテルの先端では、心臓内の電気信号を測ることができます。電気信号の流れ方の異常が上室性頻拍の原因ですから、この異常を起こしている部位を特定することができるわけです。これがカテーテルによる検査です。
アブレーションとは、電気や熱で細胞の一部を焼くことです。50-60℃、30-50W程度の熱と出力で異常な電気経路を焼いて使えなくしてしまうことで、以降の上室性頻拍を抑えることができます。これがカテーテルによる治療です。
カテーテルの検査と治療は別々の事柄ではありますが、検査までを行った場合には、その場で引き続き治療を行ってしまうケースが多いです。検査の結果によってアブレーションを行う心臓の部位が変わり、それに伴って治療の安全性も変わります。どこまで(検査のみか、検査+治療か)を希望するかは、もちろん事前またはその場で相談しながら決定します。
上室性頻拍は、無治療のままでも良いのですか?どうなったら治療を受けるべきですか?
上室性頻拍をもつ人のうち、失神やめまいといった症状が出る場合には、少なくともカテーテルの検査を受けることが重要とされています。そうでなくとも、日常生活に支障があるなど自身にとって症状が辛く、また上室性頻拍だと診断が確定している場合にはカテーテルアブレーションはひとつの選択肢となります。
カテーテルアブレーションの治療を受けた後の発作再発率は1-5%と低く、その一方で失神やめまいのある上室性頻拍を放置すると、まれですが大きな発作で命に関わる場合があり得ることがその理由です。
上室性頻拍にはどのようなものがあるのですか?
専門的な内容になりますが、上室性頻拍は以下のものに分類されます。
これらは不整脈の発生源となる心臓の部位によって分類されていますが、いずれも症状や必要な検査は大筋で違いないため、あまり違いを意識する必要はありません。カテーテルアブレーションという治療を行う際には、治療の安全性や成功率(発作再発の抑制率)が多少異なります。
自分の不整脈が上室性頻拍かどうかは、症状からは分からないのですか?
上室性頻拍の診断を確定させるためには、心電図を取らなければなりません。しかし、不整脈の中でも最も頻度が高い3つに関しては、以下のようにある程度区別をすることができます。
動悸や胸の症状、息切れといったような症状は様々な不整脈に共通するものですので、この観点から区別することはできません。
上室性頻拍では入院が必要ですか?
カテーテルアブレーションを受けた場合には、その後数日間の入院が必要です。何か別の処置が必要というわけではありませんが、新たな不整脈など何かしらの合併症が起きるとしたらこの時期に起きることが多いため、数日間は心電図を確認しながら万が一に備えた環境で生活することになります。問題がなければ2泊3日の入院や、長くても1週間未満で退院できることが一般的です。
上室性頻拍に関して、日常生活で気をつけるべき点について教えて下さい。
心臓に負担のかかる行為は全て、安静にしているよりも不整脈発作が出る可能性を上げることになります。しかし発作が出るかどうかが分からない状況で、例えば一概に「飲酒や運動は全て禁止」などと制限をすることも実情に則した対応とは言えません。上室性頻拍の発作を経験したことがある人でも日々スポーツや肉体労働を行っている人は大勢いますし、理由なくそれが制限されるべきではありません。
一方で、頻繁に発作を起こしていたり、めまいや失神などの危険な症状がある人、また公共交通機関の運転手やパイロットなどで発作により自身以外の人命に影響を及ぼす可能性がある人は、専門医と相談の上で、治療を受けるかどうかと、日常生活や仕事の注意点について個別の事情を元に相談すべきと考えられます。
上室性頻拍は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?
現状では、カテーテルアブレーション以外の方法で上室性頻拍を完治させることは困難です。一方で、軽い発作があっても日常生活に支障がないものであれば、全員がカテーテルアブレーションを必ず受けなければならないというものでもありません。
後遺症については、カテーテルアブレーションの合併症として生じる場合があります。再発予防率が95-99%と非常に精度の高い治療ではありますが、この処置によって新たな不整脈が逆に発生し、深刻な場合にはペースメーカーの植え込みが必要となることも、まれですが一部にあり得ます。