きゅうせいじんしょうがい(きゅうせいじんふぜん)
急性腎障害(急性腎不全)
何らかの理由で腎臓の機能が急激に低下した状態。体の水分のバランスや、血液中の成分のバランスが保てなくなってしまう
11人の医師がチェック 120回の改訂 最終更新: 2022.02.18

Beta 急性腎障害(急性腎不全)のQ&A

    急性腎障害の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    腎臓は、血液を尿に変換する工場のような臓器です。血液中の様々な老廃物を集めて尿の中に排泄します。腎臓を通って出てきた血液は、老廃物が取り除かれてきれいになった血液です。腎臓の機能が低下してしまうと、老廃物が溜まった血液が体内を循環し続けることになります。

    急性腎障害とは、短期間の間に腎臓の機能が急激に悪化した状態、もしくは尿の量が著しく少ない状況が続いている状態を指します。急性腎障害には、大きく分けて3つの原因があり、以下のように分類されます。

    • 腎前性腎不全
      • 腎臓へ流れてくる血液が減ってしまった状態です。腎臓には問題がないのですが、腎臓まで血液が辿りつけないために、老廃物を取り除くことができなくなってしまいます。原因として多いのは、脱水や様々な出血、また腎臓へ向かう血管が細くなってしまうことなどです。
    • 腎性腎不全
      • 腎臓そのものの働きが弱まってしまった状態です。腎臓が悪くなる別の病気、腎臓の酸素不足、薬の影響などが原因で、腎臓の細胞が死んでしまったり、働きが低下してしまったりします。
    • 腎後性腎不全
      • 腎臓は正常なのですが、腎臓で作られた尿を送り出す尿路の途中が、結石や腫瘍などで詰まってしまうことが原因です。これによって尿路が渋滞して、それ以上腎臓で尿を作ることができなくなってしまいます。

    腎臓を水の浄水場に例えるとするならば、

    • 浄水場まで水を引いて来れない、入り口の異常:腎前性腎不全
    • 浄水器の性能低下、浄水場自体の異常:腎性腎不全
    • 浄水場から水を送り出せない、出口の異常:腎後性腎不全

    このように例えることができます。

    本当に腎臓に問題があるのはこのうち腎性腎不全のみなのですが、腎前性でも腎後性でも、その状態が数時間~数日間続くと、腎性腎不全が引き起こされてしまいます。

    急性腎障害は、どんな症状で発症するのですか?

    急性腎障害では、尿の量が低下するか、全く出なくなることがあります。また少量しか出ない尿も、色が濃くなったり血尿になったりします。

    初期には吐き気や食欲不振、だるさ、頭痛などの症状が出ることがありますが、これらはいずれも他の病気でも出現し得る症状です。症状のみから急性腎障害を診断することは、尿の量が急激に減ったりしていない限り難しいと言えます。

    急性腎障害は、どのように診断するのですか?

    急性腎障害の診断は、以下の2つに分かれます

    1. 急性腎障害そのものの診断
      • 尿が出ていないことと、血液検査の値(クレアチニン値)から診断をします。
    2. 急性腎障害の原因の診断
      • 腹部エコーで尿路の詰まりの有無を確認し、身体診察や血液検査から、血液量が少なくなった状態でないことを確認します。
      • ここまでは一般的な手順ですが、これで原因がわからない場合は、その他の症状や検査値に応じて、腹部CT、尿と血液のより専門的な検査などをはじめとする様々な検査が行われることがあります。

    急性腎障害の診断よりも、その原因の診断の方に時間がかかることが多いです。

    急性腎障害の治療法について教えて下さい。

    急性腎障害の治療は、分類とその原因によって異なります。

    • 腎前性腎不全

      • 点滴で水分を補ったり、輸血を行うことが治療の主体になります。

    • 腎性腎不全

      • 原因によって治療が異なりますが、点滴による水分補給、使用している薬剤の一時中断、ステロイド薬、免疫抑制剤などから適切なものを選択して治療を行います。

    • 腎後性腎不全

      • 尿路の詰まりを取ることが治療ですが、その詰まりを取るのに時間がかかりそうな場合には緊急で尿道カテーテルや腎盂カテーテルと呼ばれる管を入れて、尿を排出する処置を行います。腎盂カテーテルは、背中から針を刺して直接腎臓の近くにカテーテルを入れる処置です。

    いずれの場合でも、急性腎障害の程度が強く一刻を争うような場合には、血液透析を行って体の状態を整えた上で、根本的な治療に進むことがあります。

    急性腎障害は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    急性腎障害は単独の病気というよりも、他の病気が原因で起こった「状態」と言った方が正確かもしれません。正確な頻度は不明ですが、脱水、胃潰瘍などの消化管出血、薬剤の副作用、尿路系の腫瘍や結石などで発症することがあるため、入院が必要となる患者さんの中では、とても珍しい病状というわけではありません。

    急性腎障害が重症化すると、どのような症状が起こりますか?

    急性腎障害が重症化すると、体内に老廃物が溜まることと水分が溜まることによって様々な症状が生じます。全身に過剰に水分が溜まって体がむくんだり、呼吸が苦しくなったり(肺水腫)することがあります。また、けいれんや意識障害などを起こすこともあり、最終的には血液透析などの適切な対処が行えないと、生命に関わる場合があります。

    急性腎障害では入院が必要ですか?通院はどの程度必要ですか?

    基本的には入院が必要です。診断がついたばかりの時点では、病状がまだ悪化途中なのか、それとも改善しつつある状態なのか、区別がつかないことが理由です。急性腎障害の治療は一刻を争う場合があり、治療が遅れると腎機能が永続的に低下してそのまま治らないこともあります。そのような事態を避けるために、多くの場合は入院をして、血液中の老廃物(クレアチニンや電解質を含む)の濃度や、尿の量を確認します。

    ただし熱中症からの脱水症などと急性腎障害の原因が明確で、かつその後の回復の見込みも明らかな場合には、入院せずに翌日以降に外来を受診して採血、尿検査を行うなどのケースも実際にはあり得ます。

    急性腎障害と腎不全の違いについて教えて下さい。

    腎不全とは、腎臓の機能が低下した状態を総称して指す言葉です。同様の語としては、心臓ならば心不全、肝臓ならば肝不全といった言葉があります。

    それに対して、腎臓の機能低下について具体的に数値で定義して、かつ、それが急激に起こったものなのか、それとも慢性的に続いているものなのかという点で区別したのが、急性腎障害と慢性腎臓病になります。

    急性腎障害は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    腎前性腎不全や腎後性腎不全の多くは完治しますので、一度治ってしまえばあまり問題がありません。しかし腎性腎不全のうち各種の腎炎などは完治が困難な場合があります。また急性腎障害のいずれのタイプであっても、その状態が長引くと慢性腎臓病に移行して完治が難しくなります。

    いずれの場合でも、急性腎障害そのものではなくその原因の治療が大切です。原因となっている病気が完治するものなのかどうか、という点がその後の経過を大きく左右します。