ししんけいせきずいえん
視神経脊髄炎
視神経と、背骨の中にある脊髄の両者に、繰り返し炎症がおこる病気のこと。免疫が原因と考えられている
8人の医師がチェック 102回の改訂 最終更新: 2022.02.20

Beta 視神経脊髄炎のQ&A

    視神経脊髄炎(NMO)の治療法について教えてください

    視神経脊髄炎(NMO)は視神経(目に入った情報を脳に送るための神経)と、背骨の中にある脊髄に繰り返し炎症がおこる病気です。もともと多発性硬化症の一部と考えられていましたが、別の病気ということがわかりました。以下では視神経脊髄炎の治療法について、多発性硬化症と比較しながらご紹介します。

    ①急性増悪期の治療
    症状が急に悪くなってきた場合には、ステロイドパルス療法を行います。大量のメチルプレドニゾロンという薬を3日間ほど点滴して投与します。これは多発性硬化症の急性増悪期の治療法と同じです。

    視神経脊髄炎に対してステロイドパルス療法を行っても効きが悪いことがあります。その場合には血漿交換療法という治療を行います。血漿交換療法は、いわゆる透析で使うような装置が必要になり、単なる点滴で済むステロイドパルス療法に比べ、大掛かりなものになります。多発性硬化症でもステロイドパルス療法が効かなければ血漿交換療法を行いますが、多発性硬化症よりも視神経脊髄炎のほうがステロイドパルス療法が効きやすいと言われています。

    ②再発抑制のための治療
    急性増悪期の治療は多発性硬化症の治療と大きくは変わりません。ですが、再発抑制のための治療は多発性硬化症と視神経脊髄炎で大きく異なります。このために多発性硬化症と視神経脊髄炎を厳密に区別しておくことに意味があります。

    多発性硬化症の再発抑制のためにはインターフェロンβが使われますが、視神経脊髄炎でインターフェロンを使ってしまうと、無効であるばかりかかえって再発率を高めてしまうことがあり投与すべきではありません。

    基本的には、視神経脊髄炎ではステロイド、特にプレドニゾロンという薬を使います。半年ほど症状の再発がなければ、それ以降は徐々に減らしていくのですが、減らす速度が速くなってしまうと症状が再発しやすくなってしまうため、注意が必要です。 ただし、ステロイドは副作用が多い薬で、副作用のために薬の内服を続けることが難しくなってしまうことがあります。その場合は、免疫抑制剤というタイプの薬を併せて使っていく場合があります。

    視神経脊髄炎(NMO)と多発性硬化症(MS)は違う病気ですか?

    多発性硬化症とよく似た病気に視神経脊髄炎があります。かつて視神経脊髄炎は多発性硬化症の亜型と考えられていましたが、最近では違う病気だと考えられるようになりました。以下で経緯を説明します。

    以前より、日本人を含むアジア人には視神経と脊髄に病変がくりかえし生じる人が多いことが知られており、このタイプの病気の人の症状は重篤で、失明に近いぐらいの視力低下や麻痺が出てしまうほどの筋力が低下することがあります。かつての日本においては多発性硬化症の一亜型であると考えられており、「視神経脊髄型の多発性硬化症」と呼ばれていました。

    一方、欧米では1894年のDevicらの報告以降、視神経炎と脊髄炎を繰り返す病気のことを「視神経脊髄炎(Devic病)」と呼び、多発性硬化症とは区別してきました。1999年には視神経脊髄炎の診断基準が提唱され、その診断基準は日本で言うところの視神経脊髄型の多発性硬化症も含むものとなってしまうため、混乱を招きました。

    ですが、抗アクアポリン4抗体の発見がこの混乱を解決しました。抗アクアポリン4抗体とは視神経脊髄炎の患者の血液にみられるもので、視神経脊髄炎に深く関与していることが示されました。アクアポリンとは水チャネルといって、細胞に水を透過させる働きを担っており全身の細胞にみられるのですが、中枢神経系では特にアストロサイトという細胞に多くみられることがわかっています。

    視神経脊髄炎ではこのアストロサイトが障害されるため、アストロサイトに多く存在するアクアポリンの障害が視神経脊髄炎の病態そのものに関係しているのではないかと考えられています。多発性硬化症で障害される細胞はオリゴデンドロサイトと呼ばれる細胞であり、このことからも2つは違う病気であると考えることができます。

    視神経脊髄炎の症状はどんな特徴がありますか?

    多発性硬化症は20代で発症することが多く、50歳以上で発症することは稀ですが、視神経脊髄炎では発症年齢は30代後半とより高く、高齢発症も稀ではありません。シェーグレン症候群や全身性エリテマトーデス、橋本病など、様々な自己免疫疾患を合併することが多いことも知られています。

    上でも述べたように、視神経脊髄炎は重篤な視神経炎と脊髄炎を特徴とします。 主な症状は以下に挙げるとおりです。

    • 重度の視力低下(失明に至ることもある)

    • 重度の感覚障害、筋力低下

    以上は多発性硬化症でもみられる症状ですが、視神経脊髄炎のほうがさらに重症となることが多いです。

    また、視神経脊髄炎では延髄最後野に病変ができることがあるため、しゃっくりや嘔吐がしつこく続くことがあります。

    視神経脊髄炎の診断に必要な検査について教えてください

    頭部・脊髄MRIや各種誘発電位の検査が必要である点は多発性硬化症と同じです。

    脊髄MRIでの所見の特徴は、3椎体以上の長さにわたる病変がみられ、横断面では全体に病変の広がりがみられます。多発性硬化症では2椎体未満のことが多く、横断面でも全体に病変が拡がっていることはまれですが、画像だけで確実に区別することはできません。

    血液検査では、抗アクアポリン4抗体の検査を行います。一度検査をして陰性であっても、その後症状が再発した時に陽性となることがあるので、繰り返し検査することもあります。