せきずいそんしょう
脊髄損傷
背骨の中に存在する太い神経(脊髄)がダメージを受けることにより、感覚障害や運動障害がおこる
7人の医師がチェック 83回の改訂 最終更新: 2022.02.21

Beta 脊髄損傷のQ&A

    脊髄損傷の原因、メカニズムについて教えて下さい。

    脊髄は、脳からの指令を手足に伝えたり、手足の感覚などの情報を脳へ伝える役割を持ちます。脊髄は、脊椎(背骨)にあるトンネル(脊柱管)を通っており、首から腰までつながっています。脊椎(背骨)は、椎骨という骨が積み重なってできています。首の骨(頚椎)が7つ、胸の骨(胸椎)が12個、腰の骨(腰椎)が5つあり、脊髄も脳から首、腰までつながっており、頭から首まで部分を頸髄、胸の部分を胸髄、腰の部分を腰髄、仙骨(おしり)の部分を仙髄と呼びます。脊髄損傷は、脊椎の骨折や脱臼によって、脊髄が損傷された状態を指します。脊髄が損傷されると、傷害された部位より下へ、脳からの指令が届かなくなり、手足からの情報も脳に届かなくなります。そのため、手足に麻痺が出たり、手足の感覚が鈍くなったりします。また、尿や便を我慢したり出したりする機能も障害されます。主な原因は、交通事故、高い場所からの転落、スポーツによるけがです。

    脊髄損傷は、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    日本では、1年間に約5,000人が脊髄損傷となっているという報告があります。これは、人口100万人に対し40.2人が受傷している割合となります。受傷した時の年齢をみると、20歳代と50-60歳代の患者さんが多いと言われています。

    脊髄損傷が発症しやすくなる、または脊髄損傷の人が他に注意すべき病気はありますか?

    脊柱管狭窄症(脊髄が通るトンネルが狭くなる病気)や、後縦靭帯骨化症(脊椎同士をつなぐ靭帯が固くなる病気)、頚椎症などは、脊髄を圧迫する病気ですので、このような病気がある方は、転倒や外傷などで脊髄損傷となる場合があります。

    脊髄損傷は、どんな症状で発症するのですか?

    受傷直後は、血圧が下がったり、脈拍が低下します。手足の麻痺が出たり、感覚が鈍くなります。尿や便を出したり我慢したりする機能も麻痺します。麻痺の程度は、脊髄の損傷の程度によって決まります。損傷の程度は、完全に手足が麻痺する場合(完全麻痺)と、手足がある程度動いたり、感覚が残ったりする場合(不全麻痺)があります。受傷直後は、脊髄ショックと呼ばれる状態で、完全麻痺の場合が多いですが、受傷して24-48時間すると、脊髄ショックの状態から抜け出すといわれており、完全麻痺か不全麻痺か区別がつきます。麻痺する体の部位は、脊髄の損傷部位によって変わります。脊髄は首から腰までつながっており、頭に近い部位の損傷ほど、つまり腰髄損傷より頸髄損傷の方が麻痺は広範囲に及びます。

    脊髄損傷の、その他の症状について教えて下さい。

    自律神経の調節も難しくなるため、姿勢を変えただけで、血圧が大きく変動し、めまいやひどいときには意識消失を起こします。また、冷や汗が出たり脈が遅くなったりと、コントロールが難しくなります。

    脊髄損傷は、どのように診断するのですか?

    症状から、脊髄損傷が疑われれば、MRI検査やX線(レントゲン)検査を行います。MRI検査では、脊髄が写り、どの部分が損傷されているのかみることができます。

    脊髄損傷の治療法について教えて下さい。

    受傷直後は、損傷した部位をこれ以上傷つけないように、首や体を固定します。血圧など全身状態を管理します。麻痺が残った場合には、リハビリテーションを行い、日常生活が行えるよう練習していきます。リハビリテーションでは、運動療法や物理療法、呼吸理学療法などを行います。

    脊髄損傷は、完治する病気ですか?あるいは、治っても後遺症の残る病気ですか?

    損傷した脊髄は元には戻りません。多くの場合、手足に麻痺が残ります。損傷の程度が軽度であれば、リハビリテーションによって麻痺が改善することもありますが、完全損傷の場合は、回復が難しいとされています。残っている機能を使い、日常生活が送れるようリハビリテーションを行います。

    脊髄損傷の具体的な症状を教えてください。

    損傷した部分以下が麻痺するため、損傷部位によって麻痺する部位が異なります。具体的には、以下のような病態になります。
    ・第1~第3頸髄:呼吸するために必要な筋肉が麻痺するため、人工呼吸器が必要です。

    ・第4頸髄:頭を動かしたり、肩をすくめたりする動きは可能です。口や顎でコントロールする車いすやリモコンなどは操作できることが多いです。

    ・第5頸髄:腕を曲げたり、肩を挙げたりすることは可能です。電動車いすの操作が可能となる場合が多いです。

    ・第6頸髄:手首を動かすことができます。車いすをこいだり、車いすへの乗り降りできる可能性があります。自動車を運動することも可能となる場合があります。

    ・第7頸髄:肘を伸ばすことができます。リハビリで寝返りや起き上がりが自立して行えるようになることが多いです。

    ・第8頸髄~第1胸髄:手を握ることが可能となります。ベッド上での動作や、身の回りの動作は自立して行えるようになります。

    これらは、あくまでも一般的な症状であり、損傷の程度やリハビリによって、症状やできるようになる動作は異なります。

    脊髄損傷のその他の具体的な症状を教えてください。

    損傷した部分以下が麻痺するため、損傷部位によって麻痺する部位が異なります。具体的には、以下のような病態になります。


    ・第2~12胸髄:損傷部位が下(腰側)に行くほど、腹筋や背筋に力が入るようになります。

    ・第1~2腰髄:股関節を曲げることが出来るようになります。

    ・第3腰髄~4腰髄:膝を伸ばす筋肉が働くようになります。このころになると下肢装具を使って歩く練習ができるようになります。

    ・第4腰髄~第1仙髄:膝をしっかり伸ばすことができ、足首を動かすことができるようになります。
    これらは、あくまでも一般的な症状であり、損傷の程度やリハビリによって、症状やできるようになる動作は異なります。

    脊髄損傷のリハビリについて教えてください。

    受傷直後(急性期)では、全身管理と合併症の予防を行います。頸髄損傷では呼吸が難しくなり、うまく痰が出せなったり、肺炎を起こしやすくなります。そのため、呼吸のトレーニングを行います。また、受傷直後は、寝たきりの場合が多いため、褥瘡(床ずれ)ができないよう、寝ている姿勢を修正したり、関節が固くならないように、手足を動かします。合併症を予防するためには、できるだけ早期にリハビリを始めることが必要です。全身状態が落ち着いたら、日常生活が送れるよう練習を始めます。麻痺の程度によって、できる動作は異なりますが、残った機能を使い、身の回りの生活動作の練習をします。歩くことができるかどうかも、麻痺の程度によって異なります。