のろういるすかんせんしょう
ノロウイルス感染症
ノロウイルスが原因となって引き起こされる胃腸炎の一種。例年冬季に流行する
24人の医師がチェック 177回の改訂 最終更新: 2017.12.06

Beta ノロウイルス感染症のQ&A

    ノロウイルスにはどうやって感染するのですか?

    ノロウイルスには大きく分けて、食品から感染する場合と、他の感染者からウイルスがうつる場合があります。

    もう少し細かく見ると、以下のようなパターンに分かれます。

    • ウイルスを保有した食べ物(カキ1)、シジミ、アサリなどの二枚貝に多く、鮮度とは関係ない)を生で食べた場合
    • 調理者がノロウイルスにかかっている時に、提供する食品を介してノロウイルスが他の人に広がる場合
    • ノロウイルスに感染した人と接触することで感染する場合(例:感染者の世話をする、食べ物をシェアする、食器を共有するなど)
    • ノロウイルスに感染した人の便や嘔吐物が空気中に舞い上がってそれを吸い込んでしまう場合

    食品からの感染では、上記の中でもカキが圧倒的に多いことが知られています。他の二枚貝や、感染者が調理したサラダ、サンドイッチなどでの感染も報告されていますが、カキは生で食べられることが多いことと、フライにした際にも中まで火が十分に通っていない場合があるのが原因と考えられます。

    ノロウイルス感染症ではどのような症状がでるのですか?潜伏期間はどれくらいですか?

    一般的な症状は、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛です。また発熱、寒け、頭痛、筋肉痛、だるさなどがでることもあります。発熱はおよそ半数の方に見られます。またお子さんは大人に比べて嘔吐が起きやすい傾向にあります。

    潜伏期間は通常12-48時間で、症状は(数日間かけて徐々に、ではなく)急激に出現するのが特徴です。2-3日ほど症状が続いた後に、症状が改善し始めてから軽快するのもまた速やかです。

    ノロウイルスの診断は、どのようにするのですか?

    通常は特に検査は行わず、症状や周囲の流行状況から医師が総合的にノロウイルス感染症、もしくはそれに類する胃腸炎と診断します。ノロウイルスと同じような症状を示すウイルスはいくつかありますが、そのいずれであっても、治療法は変わりません。そのため、あえてノロウイルスとは名前を付けずに、急性胃腸炎や急性腸炎といった診断になることがあります。

    何らかの理由で、どうしてもノロウイルスであることを確定させなければならない場合には、ウイルスの検査キットがありますので、そちらを使用することもあります。特に乳幼児や高齢者など、ノロウイルスであると悪化しやすいような場合や、介護施設および医療機関の職員などで周囲へ感染を広げてしまう心配がある場合、飲食業を営んでいる場合(ただしこの場合はノロウイルスではなくとも仕事は休むべきです)などが、検査の対象になりやすいケースです。

    ノロウイルス感染症では、どのような治療をするのですか?

    ノロウイルスのようなウイルス性胃腸炎の大半は、水分を補給して脱水にならないよう気をつけているだけで自然に回復します。ただし、体力のない乳幼児や高齢者は特に十分な水分摂取に気をつける必要があります。

    脱水が強く、かつ口から水分が摂取できない(どうしても繰り返し吐いてしまうなど)ような場合には水分の点滴を行うことがありますが、ノロウイルスそのものを退治するための点滴や内服薬というものはありません。

    抗生物質はウイルスには効果がなく、また下痢を悪化させることがあるため用いません。治療としては、水分補給、吐き気止め、熱冷まし、整腸剤(お腹の調子を整える薬)などを中心とした対症療法を行うことになります。

    ノロウイルスが流行するのはいつですか?

    年間を通してノロウイルスの発生はみられますが、例年11月から4月に特に多くの患者数が報告されています。流行のピークは12月~2月です。

    ノロウイルスにかかると便はどのようになりますか?血便は出ますか?

    便は水っぽい下痢で、色は普通か、もしくは普通より薄い色です。いわゆる軟便というよりは、水のような便になり、トイレから離れられなくなってしまうことも少なくありません。

    腸の粘膜が切れて少量の血が便に混じることはありますが、明らかな血便がある場合にはノロウイルス以外の病原体(サルモネラや病原性大腸菌など)によるものの可能性が高くなります。

    ノロウイルスの検査キットについて教えて下さい。

    便中のウイルスを検出するノロウイルスの検査キット(抗原検査)があります。

    しかしこちらは、保険を用いて検査が受けられるのは3歳未満と65歳以上の方のみで、かつ医師が医学的に必要と判断した場合に限られています。検査キットに100%の精度がないことと、すでに症状から何らかの腸の感染症だと診断がついている時には、検査の結果ノロウイルスだったとしてもそうでなかったとしても、治療法が変わらないためです。

    この制度の背景には、治療法が変わらないのであれば、その検査をするために医療費(社会保障費)を使うべきではない、とする考え方があります。

    ノロウイルスに抗生物質(抗菌薬)は効かないのでしょうか?

    ノロウイルスのようなウイルスによっておこる感染症に対しては、抗生物質(抗菌薬)は効果がありません。抗菌薬は細菌に対しての薬であって、細菌とウイルスは似て非なるものだからです。

    抗菌薬は善玉の腸内細菌を退治してしまうため、逆に下痢を悪化させることがあります。

    ノロウイルスに一度かかると、どのくらいの期間、他人を感染させてしまう危険がありますか?

    ノロウイルスに感染すると、感染から回復した後も、3日間以上は感染力が残ります。人によっては回復から2週間近くたっても感染力を持っている人がいます。

    これらの期間中であっても、終わりが近づくにつれて徐々に感染力は低下していきますが、ノロウイルスから回復した後も、手洗いや衛生管理は怠らないようにしましょう。

    ノロウイルスに感染しても症状がでないことがあるのですか?

    ノロウイルスに感染していても無症状であり、しかしながら周囲へ感染を広げてしまう(無症候性キャリアと呼ばれます)という場合があります。

    無症状で済むのは接触したウイルスの量が少ないことや、本人の遺伝子型によるところなどがありますが、自身が無症状であっても便の中にはウイルスが含まれており、それが周囲への感染源となってしまいます。

    ノロウイルスの診断書(またはノロウイルスではないという診断書)は病院でもらえますか?

    診断書については医療機関によって扱いが異なるため、ここでは一般的な考え方をお示しします。

    ノロウイルスであるという診断をするためには、本来は検査キットなどを使用する必要があります。そして、別項で詳しく説明している内容と一部重なりますが、保険を用いて検査が受けられるのは3歳未満と65歳以上の方のみで、かつ医師が医学的に必要と判断した場合に限られています。従って診断書を出すための診察には保険が効かず、窓口で支払う金額が高額になる場合があります。

    一方で、「ノロウイルスではない」という診断書は、なかなか書くのが難しいものです。それは、たとえ検査キットの結果が「ノロウイルスではない」という結果(陰性)であったとしても、検査キットの正確性はあまり高くないため、たまたま間違った結果になっているだけの可能性があるためです。本来はノロウイルスに感染していたとしても「ノロウイルスではない」という診断書を出してしまうと、それを元に感染者本人が出勤したり通学したりすることで、周囲へ感染が広がってしまう恐れがあります。

    診断書を発行する、しないといった判断は医療機関が個々に定めているため、受診前に確認されることをお勧めします。職場から診断書の提出を求められていながら、医療機関では発行できないという場合もありますので、その時には医療機関から十分な説明を受け、その旨を職場へ伝える必要があります。

    ノロウイルスで下痢が出ているときに、下痢止めを飲んではいけないのですか?

    ノロウイルス感染症の場合に、下痢止めはあまり勧められません。

    体内のウイルスを外に出そうとして体が自らあえて下痢を起こしているところで、その下痢を止めてしまうことになるためです。

    また、下痢止めによって、麻痺性イレウス、中毒巨大結腸症、精神異常、昏睡といったその他の症状や病気のリスクが上がることが報告されています。

    ノロウイルスの感染者が触れたものにはウイルスがついているのですか?

    ノロウイルスは、感染者の便や吐物に多く含まれます。例えばトイレで嘔吐をした後に手で口元をぬぐうと、その手にはウイルスが付着していることになります。その手でドアノブや室内の共用品を触るとそこにウイルスが残るため、間接的に周囲へウイルスが拡がっていくことになります。

    ノロウイルスはアルコール消毒が効きにくいため、消毒するときには次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用漂白剤が有効です。

    ノロウイルス感染症で、特に気をつけるべき症状はありますか?

    以下にあげるような症状がある方は、入院が必要になったり、もしくはノロウイルス以外の、細菌感染症の可能性があるため注意が必要です。

    • 脱水症状が強い方(水分がとれず、ぐったりして、口の中が渇いてしまうなど)
    • 便に血が混ざっている方
    • 1週間以上症状が続く方
    • 過去3-6ヶ月の間に入院もしくは抗生物質による治療を受けた事がある方
    • 65歳以上の方
    • 糖尿病や免疫不全状態の方
    • 妊娠中の方

    ノロウイルスの下痢に何か効く薬はありますか?

    ノロウイルスの症状は、基本的に対症療法で回復しますが、整腸剤と呼ばれる薬剤が下痢の量や期間を減少させることが知られています。整腸剤は、腸内細菌のバランスを整える働きを持った、善玉の菌からなるお薬です。乳酸菌やビフィズス菌などもその一種になります。

    ノロウイルスに一回かかると、もうかからないのですか?

    ノロウイルスには、何回も感染することがあります。

    ノロウイルスには多くの遺伝子のタイプがあり、全てに対して有効な免疫を作るのが難しいことから、何回でも感染してしまうことがあり得ます。

    また、人の側にも遺伝子の違いがあり、ある人はノロウイルスにかかりにくい、また、ある人は重症化しやすいなど、人によってノロウイルスに対しての反応に違いが出ることが知られています。

    ノロウイルスにかかった場合の水分補給には、何を飲んだらいいですか?

    スポーツドリンクや薄いスープなど、水分だけでなく塩分が含まれているものが適切です。嘔吐や下痢が強い場合には、水分と塩分が同時に失われてしまい、塩分が足りないことも体調の悪化につながってしまうためです。経口補水液と呼ばれる、塩分とブドウ糖を含んだ飲料も市販されており、こちらはスポーツドリンクよりも多くの塩分が含まれているため、脱水時の水分補給に優れています。

    また、何を飲むかと同時にどのように飲むのかも大切です。一気に沢山飲んでしまうと吐き気が強くなりますので、小分けにして少しずつ飲むとうまく水分摂取ができることがあります。特に乳幼児のような小さなお子さんの場合には、ペットボトルの蓋に入る分だけ、といったように、わずかな量ずつ、5-10分おきに繰り返し飲んでもらうといった方法も有効です。

    ノロウイルスによる食中毒は、例年どのくらい発生しているのですか?

    例年、国内で1万人前後のノロウイルスによる食中毒が報告されています。

    2014年の厚労省の報告によると、同年の食中毒の総患者数19,355人のうち10,506人(54.3%)がノロウイルスによるものであったとされています。

    ノロウイルスにかかった場合、食事はどうしたらいいでしょうか?

    ノロウイルスになったからといって特別な食事を意識して摂る必要はありません。嘔吐を繰り返している中で無理して詰め込む必要はありませんが、少しでも摂れるのであれば、食べ物を摂ることによっても、脱水になるのを予防することができます。

    おかゆやうどんのようなものしか食べてはならない、ということはありませんが、脂肪分が高い食事や糖分が多すぎる食事は、下痢を長引かせることがあります。

    また、母乳を与えている乳児に関しても母乳を制限する必要はありません。

    加熱した食品(牡蠣など)であればノロウイルス感染の心配はないのですか?

    ノロウイルスは加熱する事で失活化(活性がなくなり感染しなくなること)させることができます。85度で1分間以上の加熱によって感染性を十分に下げることができますが、食品などでは表面だけでなく中まで火を通し切ることに注意が必要です。ノロウイルスの感染源として最も有名な牡蠣(カキ)では、フライにしたものの中は半生だった、ということがしばしばあるためご注意下さい。

    感染後、ノロウイルスの拡大を予防するためにどのようなことに気をつけたらいいでしょうか?

    ノロウイルスの感染を拡大させないために注意してできることには、以下の様なことがあります。

    • ノロウイルスに感染している人と接触した場合は、石けんで手指を十分に洗うようにしましょう。すすぎも十分に行い、清潔なタオルで拭き取ります。石けんには消毒効果はありませんが、ウイルスを洗い流すために有効です。またアルコールによる手指の消毒はノロウイルスには十分な効果がありません。
    • 患者の便や嘔吐物を処理する際には、出来る限りゴム手袋やマスクを着用します。
    • ノロウイルスは乾燥すると空気中に舞い上がり、ウイルスが口に入って感染することもあります。便や嘔吐物は使い捨ての紙やタオルで拭き取り、拭き取った後の表面を塩素系の漂白剤を薄めたもの(次亜塩素酸 200ppm:家庭用のものを200-250倍に希釈する)でさらに拭き取ります。拭き取ったものは速やかにビニール袋に入れて密封し、その後十分な換気を行います。
    • ウイルスで汚染された衣服や布団などは85度、1分間以上の熱水洗濯をします(熱水洗濯が不可能な場合は次亜塩素酸ナトリウムによる消毒も有効です)。
    • 感染した人は、回復してから3日間は他の人が口にする食品を扱わないようにします。

    ノロウイルスに汚染された調理器具は、どう消毒すればいいのですか?

    ノロウイルスに汚染された可能性のある調理器具は一度洗剤で洗浄した後、塩素系の漂白剤を薄めたもの(次亜塩素酸 200ppm:家庭用の塩素系漂白剤を200-250倍に希釈する)で拭くことで、ウイルスを失活させて感染力を十分に下げることができます。

    85度以上の熱湯で一分以上加熱する事でも、ウイルスを失活化できます。

    ノロウイルスにワクチンはありますか?

    残念ながらノロウイルスに有効なワクチンはまだありません。同じくウイルス性胃腸炎を引き起こすロタウイルスに対しては、ワクチンがあります。

    ノロウイルスに特に注意しなくてはいけない人はいますか?

    1歳以下の幼児や高齢者の方では、他の人より症状が長く続いたり、感染後の後遺症が残ったりと、重症化する例が報告されているため注意が必要です。ノロウイルス感染に引き続き生じ得る症状としては、呼吸苦や便秘症、胃食道逆流などもあります。