2016.10.05 | ニュース

うつは妊娠の敵!薬は飲んでも大丈夫?

アメリカとカナダで2,146人の統計から

from American journal of obstetrics and gynecology

うつは妊娠の敵!薬は飲んでも大丈夫?の写真

不妊症は男性が原因の場合も多いですが、排卵機能、卵管、子宮に原因がある場合もあります。うつ症状との関係は医学的に意見が分かれています。重度のうつ症状があると妊娠しにくくなるとしたデータが新たに報告されました。

アメリカのボストン大学などの研究班が、産婦人科学専門誌『American Journal of Obstetrics and Gynecology』に報告した研究を紹介します。

この研究では、アメリカとカナダで妊娠しようとしているカップルを対象に、インターネットで聞き取り調査を行いました。対象者は8週ごとに最大12か月の間追跡され、妊娠したかなどを調査されました。

妊娠しようとしている期間が月経6周期以下の女性2,146人について、うつ症状やその治療と妊娠しやすさの関係が検討されました。

この研究ではうつの治療のうち、精神刺激薬に着目しています。一般に、うつの治療では抗うつ薬がよく使われますが、メチルフェニデートなどの精神刺激薬を使う治療法もあります。ただしメチルフェニデートは日本では乱用などが問題になり、「うつ病」の適応が削除された歴史があります。

 

統計解析から次の結果が得られました。

ベースラインでの重度のうつ症状は、治療に関係なく、うつ症状がないか軽度の場合に比べて受胎率の低下と関連した(受胎率比0.62、95%信頼区間0.43-0.91)。

調査開始時点で重度のうつ症状があった女性では、受胎率が低くなっていました

精神刺激薬の影響について解析したところ、うつ症状がないか軽度で精神刺激薬を使ったことがない女性と比べると、中等度から重度のうつ症状がある女性は精神刺激薬を使ったことがなければ受胎率が低くなっていましたが、精神刺激薬で治療中の場合は統計的な差が見られなくなっていました

 

重度のうつ症状は妊娠しにくい結果につながる可能性があり、精神刺激薬で治療しても妊娠しやすさに悪影響は見られない結果でした。

「精神刺激薬を使ったほうが妊娠しやすい」と言うためにはもっと直接的な比較が必要ですが、そもそもうつ症状は治療を必要とするつらい症状なので、悪影響なく治療できる方法には価値があります。

この研究は精神刺激薬について調べたもので、抗うつ薬にも当てはまるかどうかはわかりません。ただ一般的には抗うつ薬は妊娠中に使われることもあります。

妊娠を考えると薬が怖く思えてしまいますが、薬と妊娠との関係を調べたデータも蓄えられています。重度のうつ症状があるような場合はまず治療が大切です。よりよい治療法を選ぶためには実際のデータが役に立ちます。

執筆者

大脇 幸志郎

参考文献

Depression, anxiety, and psychotropic medication use and fecundability.

Am J Obstet Gynecol. 2016 Apr 27. [Epub ahead of print]

[PMID: 27131586]

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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