これはJournal of Allergy and Clinical Immunologyの11月号に載った、私自身がニューヨークのロックフェラー大学で関わってきた研究です。
円形脱毛症は一生のうちに2%ほどの人が患い、特に若いうちに起こりやすく、特に原因がなく円形に髪の毛が抜け始めます。数ヶ月したところである程度大きくなり、その後は自然にまた髪の毛が生え始めることが多いのですが、一度なると再発を繰り返す可能性が高いです。また、場合によっては脱毛が複数の場所に起こったり、自然に髪の毛が生えてくることなく頭髪全体の髪の毛が抜けてしまうこともあります。
その原因はまだ明らかになっていません。髪の毛の根本にある毛包という部分に炎症を起こす免疫の細胞が集まり、その細胞がインターフェロンγという物質を作ることで毛髪が正常に成長しなくなるのではないか、と言われてきました。今回、私たちの研究により、インターフェロンγ以外の炎症を引き起こす物質も重要な役割を果たしていることが示唆されました。
◆遺伝子発現の解析
27人の円形脱毛症患者と6人の健常人の頭皮から採った皮膚のサンプルを使いました。遺伝子のはたらきに注目して、DNAから情報を伝えるRNAという物質の量を調べる検査を行うと、これまでに指摘されてきたインターフェロンγ(IFN-γ)だけではなく、インターロイキン13(IL-13)やインターロイキン23(IL-23)のRNAが円形脱毛症患者では増えていることがわかりました。
◆円形脱毛症に対する今後の治療戦略
円形脱毛症は若い時期に起こることもあり、生命にはかかわらないものの、心理的ダメージが大きいのが特徴です。高校生で頭髪の半分以上が抜けてしまった患者さんを診たことがありますが、「これを使えば確実に良くなる」と言える治療がなく、心苦しい思いをしました。ステロイドの注射や「かぶれ」を起こすことによって髪の毛が生えてくることを期待する治療法がありますが、効果は安定せず、結局治療を行わずに経過をみることになるケースも多くあります。
今回の研究結果をみると、インターフェロンγ(IFN-γ)だけではなく、インターロイキン13(IL-13)やインターロイキン23(IL-23)も治療のターゲットとなる可能性があります。
現在では治験といって新薬をテストする段階ではありますが、JAK阻害薬という関節リウマチに使われている免疫を抑える薬が円形脱毛症に使われ、ある程度効果があるという報告がなされています。ただし、このJAK阻害薬も副作用がある薬ですので、今後インターロイキン13(IL-13)やインターロイキン23(IL-23)といった、単独のターゲットだけを抑える薬が円形脱毛症に効けば、副作用が少なく効果の高い治療を開発できる可能性があります。
執筆者
Alopecia areata profiling shows TH1, TH2, and IL-23 cytokine activation without parallel TH17/TH22 skewing.
J Allergy Clin Immunol. 2015 Nov
[PMID: 26316095]※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。