手術器械シリーズ第一弾で、切る器械に付いて解説をしましたが、切る操作には縫う操作がつきものです(部位、状況によっては縫う必要がない場合もあります)。一般的に、”縫う”と言うと、お裁縫をイメージする方が多いと思いますが、基本的に針と糸を使って縫うという原則はお裁縫と同じです。しかし、お裁縫に使われた針が手術向けに改良されており、お裁縫用の縫い針とは異なる特徴が多くあります。
縫うための器械について、縫合針(針だけのもの)・縫合糸(糸だけのもの)・縫合針付きの縫合糸(針に糸が初めから付いているもの)・持針器(針を持つ器械)の4回に分けて解説します(針、糸、針付き糸については厳密に言うと器械ではなく衛生材料ですが)。今回は縫合針について解説します。
◆お裁縫用縫い針と手術用縫合針の違い
お裁縫で使う縫い針と言えば、まっすぐな形状で先端が鋭利に尖っていて、お尻に糸を通す穴が開いている形が一般的だと思いますが、手術用の縫合針も似たような構造をしています。先端が鋭利に尖っていて、お尻に糸を通す穴があり、縫合用の糸を穴に通して使用します。
大きく違う点は、全体が彎曲している点です。お裁縫の場合、布を自在に曲げて針を進められますが、手術では基本的に固定された面に対して針を進めるので、まっすぐな針だとただ突き刺すことしかできません。彎曲した針だと、カーブした軌道で針を進めることができるため、固定された面に糸を通して縫うことができます。先端の形状、針の大きさ、彎曲の度合いなど、細かな形状が異なり、多種多様な縫合針があります。
◆縫合針の先端の形状
一言で先端が尖っていると言っても、よく見ると様々な形状があります。
- 丸針:先端が円錐状になっているもの。粘膜や血管など、柔らかい場所に使用される。
- 角針:先端が三角錐状で、彎曲の内側が尖っているもの。切れ味の良い鋭利な先端が特徴で、主に皮膚などのしっかりした組織に使用される。
- 逆三角針:先端が三角錐状で、彎曲の外側が尖っているもの。使用用途は角針と同様。
- テーパーカット:針の全体は円柱状だが、先端だけが三角錐状になっているもの。使用用途は基本的に丸針と同様だが、より硬い組織への通過性が高い。
- 鈍針:丸針の、先端をわずかに丸く鈍にしたもの。縫合部位の直下にある組織を傷つけにくい。皮膚を破るほど鋭利ではないが、体内の組織を刺通する程度の鋭さはあるため、医療従事者の針刺し事故*のリスクを減少させる効果もある。
(*針刺し事故:医療従事者が業務中に、患者の血液などが付着した器具によって外傷を受けること。血液などを介した感染症が問題となる。)
他にもメーカーによって様々な形状のものが開発されており、診療科や使用部位、使用用途によって使い分けられています。
◆糸を通す穴の形状
尖った先端の反対側、糸を通す穴の形状は主に二種類あります。
- 普通孔(並孔・ナミ孔):縫い針と同じ形状の、長細い穴。糸の先端を穴に入れ、糸を通す。糸を通すのが大変だが、穴の先端が丸くなっているので組織損傷が少ない。
- 弾機孔(バネ孔):長細い穴の先端が先割れしており、糸の側面を割れ目に押し付けると糸が穴に通る。普通孔と比べると糸を通すのが簡単だが、先割れ部分が少し尖っているため、普通孔に比べると組織損傷が起こりやすい。
◆大きさ
全体的な大きさも大小様々で、縫合する部位の深さや厚み、操作スペースなど様々な条件によって使い分けられます。小さいもので全長12mmほど、大きいもので全長50mmほどのものがあり、基本的には大きくなるほど太さも太くなります。縫合する組織の性状や深さや厚みなどによって使い分けられます。
◆彎曲
一般的なのは全体的にカーブしているものですが、カーブの度合いは様々で、これも縫合する部位の深さや形状や厚み、また医師の好みなど、様々な条件によって使い分けられます。彎曲の強いものを強彎、弱いものを弱彎といいます。
以上のように、針ひとつとっても非常に細かな違いがあり、多種多様な使い分けがされています。次回のシリーズ第四弾では、この縫合針の穴に通す糸についての解説をしたいと思います。
執筆者
※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。