2015.06.21 | コラム

手術と入れ歯の危険な関係

手術室看護師が解説する術前準備

手術と入れ歯の危険な関係の写真

手術前に必要な準備において、これまでいくつかの項目を解説してきました。今回は『入れ歯』について解説します。手術を受ける際には入れ歯を事前に外しましょう。さて、入れ歯と手術、どのような関係があるのでしょうか?

手術を受けるにあたって、入れ歯はあらかじめ外しておく必要があります。その理由について解説したいと思います。

 

◆入れ歯が着いたままだったら…

全身麻酔を受ける場合、麻酔の影響で患者さんが自ら呼吸できなくなるため、呼吸を助けるチューブを気管に挿入(気管内挿管)します。これを挿入する際に、指で歯を支点に口を大きく開いて、口の中に「喉頭鏡」という器具を入れます。この喉頭鏡を使ってチューブの通り道を確保し、挿入しやすくします。

この気管内挿管の流れの中に、万が一入れ歯装着中だった場合に起こりうる危険なポイントが2つあります。

 

 一つ目 ”指で歯を支点に口を大きく開いて”

口を大きく開く時に指で歯をグイッと押すため、もし入れ歯装着中であった場合、入れ歯が外れて開口がうまくいかず、やり直しになる可能性が高いと思われます。これがどう危険かというと、この時患者さんの呼吸は麻酔の影響で止まっているのでより迅速な気管内挿管が必要であるのにも関わらず、呼吸をしていない時間が延びてしまいます。呼吸をしていない時間が延びてしまうとどのようなことが起こるかというと、脳をはじめ、全身の各臓器に酸素が行き渡らず、機能が低下する原因となり、最悪の場合生命の危険につながります。

 

 二つ目 ”「喉頭鏡」という器具を入れます”

口の中に喉頭鏡やチューブを入れる際、それらが入れ歯に当たって入れ歯自体や歯茎を間接的に傷つけてしまう可能性があります。また、入れ歯が外れ、のどの奥に落ち、大きさによっては気管や食道に入ってしまう可能性があります。気管に入ってしまうと、空気の通り道をふさいでしまい、呼吸を、また、気管や食道を傷つける可能性があったり、最悪の場合破ってしまうことも起こり得ます。もし気管や食道に留まってしまった場合、口から内視鏡を入れて取ったり、手術で取るなどの処置が必要になります。

またこれらは、入れ歯だけに言える事ではなく、マウスピースやグラグラして抜けそうな歯にも同じ事が言えるため、同様に事前に外しておくよう注意が必要です。

 

◆入れ歯に何かあったら…

全身麻酔中の直接的な影響のみならず、上記の事が原因で入れ歯に万が一破損や紛失があった場合、日常生活への影響も多大なものがあります。

入れ歯は、患者さんの食事やコミュニケーション(会話など)を助け、生活に無くてはならないものです。この生活必須アイテムが傷ついたり紛失してしまった場合、食事が満足にとれなくなってしまったり、変形した入れ歯で歯茎を傷つけてしまったり、自信をもって会話できなくなってしまったり、これらが原因で精神的にストレスを感じたり、様々な影響が出てくることが考えられます。また、本人に合った入れ歯を作成するのはお金がかかるため、経済的な負担になってしまう事も考えられます。

このような事態が起こらないよう、事前に入れ歯を外し、患者さん自身で管理しておく必要があります。

しかし、入れ歯を外す事で、見た目や喋り方に変化が現れるため、入れ歯を外す事を拒む患者さんもいます。そのような場合は、入れ歯を取ってもらったうえでマスクを着けてもらったり、どうしても事情があって外したくない方は、全身麻酔直前に入れ歯を取ってもらい、安全に保管しておく事も可能です。

 

◆患者さんの安全のための準備

これまでいくつかの術前準備について、その意味を説明してきましたが、全てに共通して言えることがあります。それは、全て「患者さんの安全のために必要」ということです。患者さんの安全が確保できずして手術は成り立ちません。

しかし、患者さんの安全第一を考えながらも、その患者さんの疾患や手術内容、麻酔方法、持ち合わせた事情などに合わせて、マニュアルにとらわれず、より個別的なケアができるよう、臨機応変に計画や準備をします。スタッフは皆プロです。困ったこと、不安なこと、疑問に思うこと、何でも気軽に相談してみて下さい。あなたに合った答えを一緒に考えてくれるはずです。

執筆者

名原 史織

※本ページの記事は、医療・医学に関する理解・知識を深めるためのものであり、特定の治療法・医学的見解を支持・推奨するものではありません。

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