なっふるでぃー/なっしゅ(ひあるこーるせいしぼうせいかんしっかん/ひあるこーるせいしぼうせいかんえん)
NAFLD/NASH(非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪性肝炎)
アルコール以外の原因で中性脂肪が肝臓に蓄積した状態をNAFLD、その結果として肝臓に炎症が起きた状態をNASHと呼ぶ
5人の医師がチェック 198回の改訂 最終更新: 2023.04.15

Beta NAFLD/NASH(非アルコール性脂肪性肝疾患/非アルコール性脂肪性肝炎)のQ&A

    NAFLD/NASHは、どんな症状で発症するのですか?

    NAFLD/NASHではあまり症状が出ないことが多く、報告によって無症状者の割合は48-100%とされています。症状がある人の中で最も多いのは倦怠感で、次に肝臓がある右上腹部の不快感や、睡眠障害などがあります。

    また精神的な症状の一つとして、NAFLD患者の27%にうつ症状が認められたとする米国の報告があります。

    NAFLD/NASHは、どのように診断するのですか?

    NAFLD/NASHの検査や診断は、その可能性を疑うためのものと、診断を確定させるためのものの二段階に分けて考えます。

    はじめのステップとしては、問診(食生活、飲酒量、自覚症状、糖尿病などの生活習慣病の有無など)や診察結果(腹部表面から触って分かる肝臓の大きさなど)、健康診断の血液検査の値(特に肝酵素であるALT)などが重要になります。基準となるALTの値は報告によって様々ですが、NAFLD/NASHを検出するための参考値として、40-75IU/lを上回っていることを基準とするものが多いです。これらの結果から脂肪肝(NAFLD/NASHもこの中に含まれる)の可能性が疑われる場合には、次に進みます。

    次のステップとしては画像検査があります。腹部エコーや腹部CTで脂肪肝の診断を行います。腹部MRIでも肝臓の脂肪化を検出することができますが、エコーやCTと比較して時間と費用がかかる検査であるため、初期に行われることはあまりありません。

    ここまでで脂肪肝があると診断された場合には、習慣的な飲酒量やその他の問診事項によって、NAFLD/NASHと、アルコール性脂肪肝のいずれがより強く考えられるかが判定されることとなります。またその際には、別の原因による脂肪肝(ウイルス性肝炎、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、薬物性肝障害、ウィルソン病やヘモクロマトーシスなど)ではないことを確認する必要もあります。

    NAFLD/NASHの原因、メカニズムについて教えて下さい。

    NAFLD/NASHは脂肪肝の一種であり、食事との強い関連性が報告されています。特に以下の摂取量が多い場合には、NAFLD/NASHを発症しやすいとされています。

    • 1日の総カロリー
    • 糖質(炭水化物)
    • 脂質
    • 肉類

    一方で、以下については逆に摂取量が少ないほど、NAFLD/NASHを発症しやすいことが分かっています。

    • 魚類
    • 食物繊維

    参考:「NAFLD/NASH診療ガイドライン2014 日本消化器病学会

    NAFLD/NASHの治療法について教えて下さい。

    NAFLD/NASHの治療には、食事療法、運動療法といった生活習慣に関わるものや、チアゾリジン誘導体1)、高脂血症治療薬、ARB薬、ビタミンE製剤などの内服薬があります。内服薬は病状によって適した人とそうでない人があり、次項以降でそれぞれの治療法の詳細を説明します。

    NASHとNAFLD、脂肪肝の違いについて教えて下さい。

    肝臓に脂肪が溜まった状態のことを脂肪肝と呼びますが、NASHとNAFLDはこの脂肪肝の一種です。脂肪肝は原因と特徴によって以下のように分類されます。

    1. アルコール性脂肪肝:飲酒が原因
    2. 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD):食生活(過食など)が大きく関与
      • 2-1. 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH):「2. NAFLD」のうち重症化し得るもの
      • 2-2. 非アルコール性脂肪肝(NAFL):「2. NAFLD」のうち基本的に重症化しないもの
    3. その他(ウイルス性、薬剤性など)

    NASHという概念が提唱され始めるまでは、上記を全てまとめて「脂肪肝」と呼んでいました。しかし脂肪肝の中でも全体の10%前後を占めるNASHについては、時に肝硬変に進行して命に関わることが分かり、現在ではこれらを区別するようになりました。

    NAFLD/NASHの食事療法や運動療法では、具体的にどのようなことをすれば良いのですか?

    食事療法としては、1日のカロリー摂取量を制限することが推奨されています。具体的な目安としての統一見解はないのですが、少なくとも過食傾向の人では一般的な適正量を目指すべきとされています。食事内容については、低脂肪食によってNAFLD/NASHの病状が改善することが報告されていますが、食事の中身を低脂肪に変えることによる効果よりも、摂取カロリー全体を制限する効果の方が大きいと考えられています。

    運動療法に関しては、週3-4回、1回30-60分の有酸素運動を4-12週間継続することで肝臓の脂肪化が改善するという報告があります。

    食事療法、運動療法の結果としての体重減少によってもまた、上記とは別に、更にNAFLD/NASHの病状が改善したとする報告もあります。期間としては3-12ヶ月目の時点で効果があることが示されていますが、それ以上の期間継続することによってどの程度の改善が期待できるかについては、更なる研究が必要とされています。

    NAFLD/NASHが進行すると、どのような症状が起こりますか?

    NASHは進行すると肝硬変を引き起こし、肝硬変からは肝不全や肝臓がんを発症して命に関わることがあります。

    肝硬変では食欲不振やだるさといった症状の他に、全身のむくみ、黄疸、腹水による下腹部のはれなどの症状が出ることがあります。

    NAFLDとNASHはどうやって見分けるのですか?

    非アルコール性の脂肪肝であるNAFLDと、その中でも肝硬変や肝細胞がんに進行する可能性があるNASHを見分けるための、簡便な検査は存在しないのが現状です。NAFLDの中にNASHと非NASH(NAFLと呼ばれる)があるわけですが、これを判別するためには本来、肝生検と言う検査が必要です。

    肝生検には、腹部から針を刺して肝臓の一部をわずかに採取する方法と、全身麻酔を行って腹腔鏡を用いて行う方法があります。腹腔鏡ではお腹に小さな穴を開けるため、これは手術の一種ですし、もう一方の針を刺す方法は腹腔鏡よりは簡易的な手法ですが、それでも1泊2日の入院を原則とする病院もあるような処置です。

    健康診断で引っかかった人が全員受けられるような簡易的な検査ではないため、現状としてはNAFLDのうちNASHかどうかを全員が調べられるわけではなく、NASHである可能性を念頭に置いて生活習慣を見直したり、高脂血症治療薬を内服したりします。NASHであった場合には肝硬変に進行することがありますので、NASHの可能性があるのであれば、定期的に血液検査や腹部エコーでその徴候がないかを確認していくことになります。

    なぜNAFLD/NASHと、2つの病名がセットになっているのですか?

    NASHは、NAFLD(アルコール以外が原因の脂肪肝)の中の一つです。NAFLDの中には重症化し得るものと基本的に重症化しないものがあり、その重症化し得るものがNASHであるという関係にあります。この2者を区別するためには肝生検という検査を行う必要があります。

    肝生検は腹部に針を刺して肝臓の一部を切り取る検査であり、血液検査ほど手軽にできる検査ではないため、脂肪肝のある全員が肝生検を受けるというのは現実的ではありません。したがってNAFLDであることが判明したら、それ以上の詳細を必ずしも検査で突き止めずに、「NAFLDではあるが更にNASHであるかもしれない」という意味合いでNAFLD/NASHを一括りにまとめて扱うことがあります。「NASHであるかどうかは確定していないがその可能性も念頭に置きながら」という認識で生活習慣を見直したり、脂質異常症の治療薬を内服したりします。

    NAFLD/NASHが肝硬変に進行していないかはどのように調べるのですか?

    肝硬変の前段階として生じる肝臓の線維化(肝臓本来の機能が失われていくこと)を確認するためには、血液検査を行います。

    血液検査では、いずれも肝酵素であるASTとALTの値が参考になります。これらは様々な原因で上昇することがあるため、単独での値ではなく、AST値とALT値の比を参考として、AST/ALT>1であることや、血小板の値(15-20万/μl未満が目安)、ヒアルロン酸の値(42ng/ml未満が目安)などを考慮しながら総合的に診断します。これらの値はあくまでも指標のひとつであり、基準を満たしたからといってそれだけでは必ずしも肝硬変であると限りません。

    NAFLD fibrosis scoreと呼ばれ、年齢、BMI、空腹時血糖、糖尿病の有無、AST値、ALT値、血小板数、アルブミン値を代入してスコアを算出する複雑な計算式があり、これを線維化の指標とする場合もあります。

    超音波を用いた診断装置で、通常の腹部エコーとはまた異なるトランジェント・エラストグラフィー検査というものがあります。国内でも行える医療機関は限られていますが、痛みや出血の心配がなく、線維化の程度を大まかに把握するのに適しています。

    NAFLD/NASHの治療薬の使い分けについて教えて下さい。

    糖尿病の治療薬であるチアゾリジン誘導体1)は、糖尿病、もしくはその傾向があるNASH患者に対して有効性が報告されています(糖尿病に対する効果ではなく、NASHに対する効果が認められています)。NASH患者全員が内服すべき薬剤ではありませんが、血糖値の検査を行った上で内服が勧められる場合があります。

    スタチン系薬剤やエゼチミブといった高脂血症治療薬は、LDLコレステロールが高いNAFLD/NASH患者の場合に用いられることがあります。コレステロール高値といった脂質異常がない場合でもこれらを内服すべきかどうかについては、現時点で十分なデータが集まっていません。

    また高血圧の薬として用いられるアンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB薬)は、高血圧症があるNAFLD/NASH患者の病状を改善させることが分かっています。

    そしてビタミンE製剤は、NASH患者の肝臓の脂肪化を改善させるとする報告があり、NASHと診断がついている場合に用いられることがあります。一方で、どの程度の量をいつまで内服すべきかについては未だ研究の途上です。ビタミンEは、過剰内服によって骨粗しょう症を発症しやすくなる可能性が報告されているため、内服する場合であっても、医師と相談の上で行うべきと考えられます。

    アルコール性の脂肪肝と、それ以外の原因によるNAFLD(NASHを含む)は、どのようにして区別するのですか?

    脂肪肝の原因がアルコール性か否かを区別する上で一つの目安とされるのが、1週間あたりの平均飲酒量です。男性ではエタノール換算で210g/週、女性では140g/週が目安とされています。

    参考:「NAFLD/NASH診療ガイドライン2014 日本消化器病学会

    上記をよりイメージしやすくするために、男性を例にとって考えてみます。

    1日あたりの平均飲酒量で考えると、210g/週 は 30g/日ということになります。「エタノール換算」とは、お酒の中に純粋なアルコール成分がどの程度含まれているかということです。飲酒量にアルコール度数と"0.8"をかけることで計算ができます。アルコール度数が5%のビール350mlであれば、0.05 × 350 x 0.8 = 14gということになり、500ml缶2本なら40gですから、1日の目安(30g)を越えてしまいます。実際は1週間あたりで考えますので、休肝日があればその分全体としては量が下がることになります。ワインや日本酒であればアルコール度数はビールの2-3倍ですから、同じ量を飲むと上記の2-3倍のエタノール量を摂取することになります。

    ただし、これらはあくまでも目安として用いられる数値であり、実際には食生活や過去の飲酒習慣なども含めた医師の総合的な判断によって、アルコール性らしいか、そうではなさそうかを判定することとなります。

    NAFLD/NASHが完治することはあるのですか?

    NAFLD/NASHは脂肪肝の一種であり、生活習慣の改善や内服治療によって治り得る病気です。ただし、一度脂肪肝ではなくなったとしても、その後の生活習慣によって再発することがあり得ます。

    NAFLD/NASHは、どのくらいの頻度で起こる病気ですか?

    肝硬変に進行することのある、NASHの有病率は全世界的に3-5%程度と推定されています。

    また、NASHを含むNAFLD(アルコール以外の原因による脂肪肝)全体ですと有病率はこれよりも上がり、国内の報告では9-30%程度とされています。中でも男性は中年層、女性は高齢層に多い傾向にあります。

    参考:「NAFLD/NASH診療ガイドライン2014 日本消化器病学会

    NAFLD/NASHが発症しやすくなる、またはNAFLD/NASHの人が他に注意すべき病気はありますか?

    糖尿病があると、NAFLD/NASHに罹患する割合がいずれも上昇するという報告1)があります。また脂質異常症2)があると脂肪肝の発症リスクが23倍高まるとする報告があります。同様に高血圧2)や肥満についてもNAFLD/NASHとの関連性が認められており、各種生活習慣病とNAFLD/NASHの強い関係性を読み取ることができます。

    逆にNAFLD/NASHの人に発症しやすい疾患としては、心筋梗塞などの冠動脈疾患、脳卒中3)、糖尿病、慢性腎臓病4)、骨粗しょう症などが挙げられます。NAFLD/NASHの人が冠動脈疾患や脳卒中を含む心血管障害を起こすリスクは、NAFLD/NASHでない人と比較しておよそ2倍と報告されています。

    NAFLD/NASHは、遺伝する病気ですか?

    特定の遺伝子変異がある人ではNAFLD/NASHを発症しやすいことが明らかになっています。その意味においてはNAFLD/NASHは遺伝と関連のある病気であると言えます。

    一方で、上記の遺伝子変異がなくてもNAFLD/NASHを発症する人は多く、遺伝はあくまでも発症の一要素であると言えます。また、肥満や糖尿病と関連のある病気ですので、これらの病気になりやすい遺伝子変異もまた、NAFLD/NASHの発症に間接的に影響している可能性が考えられます。

    NAFLD/NASHのうち、何パーセントが肝硬変、肝臓がんを発症するのですか?

    具体的な数値には報告によって幅がありますが、以下のように推定されています。

    • NAFLDのうち肝硬変へ進行する割合:8-21年の経過で約5-8%
    • NASHのうち肝硬変へ進行する割合:3-14年の経過で約30-50%

    またNASHが肝硬変に進行した場合、その後に肝臓がんを発症する割合は、一年間あたり約2%と報告されています。

    参考:「NAFLD/NASH診療ガイドライン2014 日本消化器病学会